マキュアンに数々の勝利をもたらせた駿馬 vol.1 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

マキュアンに数々の勝利をもたらせた駿馬 vol.1

オピニオン インプレ
安井行生のロードバイク徹底インプレッション
安井行生プロフィール

マキュアンに数々の勝利をもたらせた駿馬
リドレーの輸入代理店、JPスポーツから大きなダンボール箱が届いた翌日、編集部のPCに「天気がいいのでヤビツに行ってきます。仕事ですから。アディオス。」と書き残し、締め切り迫る原稿を(一時的に)放棄してパールホワイトのダモクレスと共に山へと消えた安井。次の日、彼は興奮気味に「CARPE DIEM!」と意味不明なことを話すのだった。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
シャープで攻撃的な形状が目に付きやすいということもあるだろうが、ここ数年の日本で見る機会が多くなったロードバイクといえば、リドレーの 「エッジチュービング」 一族である。リドレーは1990年創立 (リドレーブランドの発足は97年) と新しいが、積極的にレース活動を行うなどして短期間にメキメキと知名度を上げたベルギーのブランドだ。今年は劇的なモデルチェンジを遂げたトップモデルのノアが話題をさらっているが、今回試乗するのはミドルグレードのダモクレスである。
斬新な形状を持つダモクレスだが、デビューは03年のミラノショーと決して新しいモデルではない。当時のリドレーのフラッグシップバイクとして発表され、05年からはトッププロチーム、ダビタモン・ロットに供給を開始。チームのメインバイクとして活躍しながら年々進化を遂げてきた。今ではミドルグレードとなっているが、稀代のスプリンター、ロビー・マキュアンをオーストラリアチャンピオンに導いたほか、ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスで数々のスプリント勝利をもたらせた駿馬である。
09ダモクレスは08モデルのフレーム形状を見直し、ノアのテクノロジーを取り入れながらさらに進化しているという。大きく変化したのはヘッド周辺の形状だ。比較的スタンダードな形状の08ダモクレスに対し、09モデルはトップチューブとダウンチューブがヘッド側で大きく広がっており、かかる応力に対して最適化されているように見える。バックステーの形状も大幅に変わっているほか、エンドだけを見れば70万円のフレームかと思うほど精巧な、全く惚れ惚れするほど美しいCNCによるディレイラーハンガーも付いた。
しかしフレーム各部のエッジをこれでもかと強調した 「エッジチュービング」 は、機能が基本になければならないロードバイクデザインの中で、新しいメーカーだけに 「他と違うこと」 を目指してデザインされたように見えてしまうのも、僕にとっては確かなことだ。それは触れるべきではない真実か、いち自転車バカの偏見の産物か。判断はガッツリと走ってからにしたい。

スペック

「良く進む」としか言いようがない進み方で良く進む

前年度モデルから大幅に値を下げ、フレーム価格はミドルグレードど真ん中の25万円。全てのパーツをホワイトでまとめたその姿は、新しいといえば新しい。クールといえばクール。オシャレと言われればオシャレかもしれない。僕もそんな 「上から目線」 で最初は接した。
しかし、ひと踏みしただけでその正体がバレる。ギュッと締め上げられた四肢。全体を貫くソリッドな感覚。ひしひしと伝わってくる本気度。要するに、素晴らしい剛性感。
それは、価格を見て無意識に高を括っていた僕のシャッポを見事にスッ飛ばした。「本当はノアに乗りたいんだけど試乗車のサイズが…」 とか、「ハイエンドモデルばっか乗ってんじゃねーよって言われたしなぁ…」 という、ダモクレスとは直接は関係ないもののその時ダモクレスに付随していたモヤモヤした想いも、シャッポと一緒に遥か彼方へと吹き飛んだ。突然頬をはたかれたかのような気分になった僕は、サドルを馴染んだものに付け替え、シューズをきつく締めあげてから、気合いを入れ直してヤビツ峠に向かった。

パールホワイトのダモクレスは、一漕ぎ目から、これ以上はないというほど力強く走った。どんな速度域からでも、パワーを与えれば沸き出すようにトルクが大盤振る舞いで立ち上がった。加速はすこぶる良い、ということだ。かといってカチンコチンに硬いわけではなく、「表面しっとり中しっかり」 という乗り物としてある意味理想的な特性を有しているのはデビュー以来6年の熟成を感じさせる部分であり、長距離を走ってもイヤな疲れは少ない。
シャープに、というよりダイナミックにドンッとかかるトラクション。それは、センシティブなフレームとは違い、「その時チェーンがどのギアにかかっているか」 に依存しない。どんなギアからでも、一定以上のパワーを与えれば解き放たれたように加速する。その踏み応えは実に濃厚な快楽を与えてくれるもので、乗り手に 「この感覚を身体に全力で享受させるべき」 という無意識の意識を芽生えさせるため、ダモクレスは、ヤビツ峠の麓に着く前に僕の大臀筋をはやくも震えさせ、そして坂を前に奮えさせた。
その性格は軽量ヒルクライマーというよりスピードマン向けかとも思えたが、ヒルクライムでも極めて優秀な性能を見せるので、舌を巻くほかなかった。平地で見せたダイナミックな加速性をそのまま登坂に持ち込めるのだ。フレームの一部がよれてしまうようなもどかしさは全くなく、まさに 「良く進む」 としか言いようがない進み方で良く進む。さらに、「どのギアにチェーンがかかっているか」 に加え、「どんなライディングスタイルで走るか」 にも依存することなく、高性能を維持したまま 「良く進み、良く登る」 のだ。高回転でも、重いギアでも、シッティングでも、ダンシングでも。これぞオールラウンダーである。
《編集部》
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