キャノンデールの頂点に君臨するスーパーバイク vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

キャノンデールの頂点に君臨するスーパーバイク vol.2

オピニオン インプレ
完全に調教された猛獣 それは冷静と獰猛のあいだを行き来する

手刀で空を切るようなスカスカの加速。蝶が風に舞うようなヒラヒラのダンシング。どっしりとした重厚感はない。スタートの一瞬においては、ペダルへの入力とバイクの動きとのタイムラグがほとんどゼロ。獰猛。それはかんしゃく玉のようにいきなり速く、荷重は前後左右へと瞬時に移動する。
しかしその手荒い洗礼が通り過ぎると、アルティメイトの過激さは過剰な高剛性に起因するものではなく、フレームを含めた各パーツの軽さ、即ち各部の慣性モーメントの小ささによってもたらされているものだ、ということが分かってくる。大きなギアで踏み込むとバイクの中心には適度なしなりの存在を感じ取ることができる。よって一度スピードに乗せてしまえば意外にも冷静なマナーが印象的だ。最初はスカスカ (いい意味で) だが、大入力を与えれば与えるほどしなやかに、扱いやすくなってくる。
ただ、リム重量290g (!) のZIPP ZEDTECH 3というまるで羽のような軽量ホイールも相まって、バイク全体の重心が高いという感覚は確かに否めない。操縦の全てにライダーは能動的に参加しなければならないし、安穏とは言えない緊張感に包まれる (それは決して悪い気分ではないが)。しかし5.5kgという数字から予想していたよりはずっと乗りやすく感じられたのは、ZIPPホイールの出来のよさ、そしてフレームとホイールのバランスのよさが貢献しているのだろう。ここが単なる軽量オタクが秤の示す数字だけを見て組んだ超軽量バイクとの違いだ。
ホイールの重量、というより前輪の慣性モーメントが小さいので、体捌きに多少ヒラヒラとした感じは受ける。しかしスーパーシックスというフレームのハンドリング性能は相も変らず素晴らしい。複合コーナーをトントントーンとクリアしていくその様は、コーナリングというより華麗なステップと呼ぶに相応しいものだし、直進安定性はホイールの異常な軽さを意識させないほどに良好だ。まるで完璧に調教された猛獣のようである。

ダンシングでバイクを大きく振ったときのハンドル周りの過剰な剛性感、ハンドルの振り幅の一番大きいところで推進力に淀みができてしまうような感覚は相変わらず好きにはなれない。これはスーパーシックス1についての文章 (vol.11) に記したように、小さいサイズに特有の問題か、僕の好みの問題だろう。しかし、スーパーシックス1のときに感じたフロントフォークの嫌なつっぱり感が多少解消されているように感じた。ヘッド、フォークで剛性バランス調整などのマイナーチェンジをしていないのであれば、ホイールとの相性だろうか。
登坂のスピードはさすが5.5kg、びっくりするほど速い。一踏みごとにスコンスコンと効率よくトラクションがかかっているのがわかる。ディープリムということもあり、路面の細かな凹凸 (高周波振動) はビシビシパリパリと積極的に伝えてくるが、大きな衝撃は丸くいなしてくれている。この表面にパリッと張り詰めた緊張感を伴ってアスファルトの上を軽々と転がっていく走り方は、いかにも軽いコンペティションマシンを走らせている、という感覚を乗り手に強く印象付けるもので、それはかえって快感でもあり、僕は好きだ。
ところで、フレーム単体と完成車の価格差が約110万円にもなるこのアルティメイト、どこにそれだけのコストがかかっているのだろうか?各パーツの価格を足して計算していくと、どうやらホイールの 「ZEDTECH」 に秘密がありそうだ。 ZIPP ZEDTECH 3の 「ZEDTECH」 とは、様々なアップグレードオプションが用意されるZIPP社のオーダープログラムの名称である。オプションには、デカールのカラー、セラミックベアリング、空気抵抗の削減を目的としたハブのディンプル加工、リムのタイプ (極限まで重量を削減するスーパーライトorより剛性を上げるスーパースティフが選択できる)、スポークのアップグレード、ニップルの種類などが用意されており、このスーパーシックス・アルティメイトに搭載されるZIPP ZEDTECH 3とは303をベースにしたもの。その詳細は不明ということだが、車両価格から逆算すればほぼフルオプションだろう。

純度の高い、ヤバい愉しさがある それは最終到達地点、スーパーホワイトに輝く“夢”

そのZEDTECHで走り、ZIPPというメーカーのホイールについて僕が抱いてきた良くない印象は今ここで改めなければならない、と思った。僕の記憶の中でのZIPP、それは (作られた年代を考慮に入れたとしても) まったくひどいシロモノだったが、現代のZIPPは例えそれがノーマルの303であっても、見違えるような優等生に生まれ変わっている。剛性感もあり、リム面精度も向上しているようで、以前とは比べ物にならないほど自然なブレーキングが可能になっている。ハイペロンやコスミックカーボン・アルティメイトのような鏡のようにフラットなリム精度とは言わないまでも、ブレーキ性能の確かさはシマノ7850カーボンと同等レベルにあるだろう。これならヒルクライムレースに限定しなくとも、ロードレースや通常使用にも耐えてくれそうだ。
ついでに110万円分のパーツの使用感を述べていくと、スラム・レッドの、ショートストロークと適度なクリック感が気持ちいいシフトアップ操作、そしてコントローラブルなブレーキフィール、これは素晴らしい。しかしシフトダウン時 (ワイヤー巻き取り側) の操作感はヌルリと不明瞭で、正確無比でキンキンにクリアなデュラエースには遠く及ばない。軽量性と剛性は本来両立しにくい要素なので、ペアで280g (デュラエースのSTIより140gも軽い!) という軽さの前には欠点も霞む、というものなのだろうか。
そしてフィジークのフルカーボンサドル、アリオネK:1。この座り心地は公園のベンチに座っているときのそれとあまり変わらない。ベーシックなアリオネの、あの高級ソファのようなラグジーなおもてなし感はゼロである。薄いゲルパッドが申し訳なさそうに貼っ付いているが、気休めだと思ったほうがいい。
せっかくの軽量カーボンハンドルは幅・リーチ・ドロップの全てがデカすぎる。ピラーは調整がしづらくてズレやすい (個人的な意見だが、この構造は欠陥に近いものがあると思う)。そんな不満はいくつもある。140万円もするのだから、せめてステム長、ハンドルの種類、サドルのタイプ、クランク長などを選択できるようにして欲しいとも思う。これは完成車を販売する全てのメーカーに言えることだが、高価なモデルではパーツのサイズをチョイスできるようにするべきだ。

というように、パーツアッセンブルを含めたバイクとしての完成度は、完璧にバランスされているとはいえないかもしれない。が、逆にそこがアルティメイトの見所でもある。これだからロードバイクは複雑だ。全方位に完璧なバイクが魅力的かと言われれば、必ずしもそうではない。
乗り心地はビシビシでヒラヒラ、でも軽くてパワーがあってスカッと加速しスパッと曲がる、そんなバイク、例えばこのスーパーシックス・アルティメイトのようなバイクを走らせるのは、理屈抜きに楽しいのである。純度の高い、ヤバい愉しさがある。「路面に吸い付く安定感」 こそないが、しかし扱いにくいわけではない。そんな “オトナなやんちゃぶり” がアホで一途な走り屋系ロード乗りをたまらなくアツくさせるのだ。
で、結局のところ、「スーパーシックス・アルティメイト」 とはなんだったのか?
それはキャノンデールにとっての (現段階における) 最終到達点 (=ultimate) であり、5.5kgという数字を掲げて他のビッグブランド勢とは少し異なる領域に踏み込んだ、という事実を含めてあえて情緒的な表現をすれば、そのペイントの如くスーパーホワイトに輝く “夢” であった。 確かにそれは、これまで僕がレーシングロードバイクに対して描き続けてきた夢をそのまま具現化してくれたかのような存在として、僕の身体と感情を昂ぶらせた。その触れなば斬れんがごときの鋭さは、全てのロード乗りにとっても、ピュアな “夢そのもの” となるに足るものだ。
夢ならば140万円も納得、か。
《編集部》
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