岩井明愛、千怜姉妹を育てた永井哲二コーチ 「二人はこのまま突き抜ける」後編 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

岩井明愛、千怜姉妹を育てた永井哲二コーチ 「二人はこのまま突き抜ける」後編

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岩井明愛、千怜姉妹を育てた永井哲二コーチ 「二人はこのまま突き抜ける」後編
  • 岩井明愛、千怜姉妹を育てた永井哲二コーチ 「二人はこのまま突き抜ける」後編

今や女子ゴルフ界の顔になりつつある岩井明愛、千怜姉妹が腕を磨いた場所が、埼玉県入間郡毛呂山町にあるゴルフ練習場「リンクスゴルフクラブ」。

二人は最高のチームメイトであり最強のライバル。そんな関係性を保ちながら、小学2年生から高校3年生までリンクスゴルフクラブ所属の永井哲二氏のレッスンを受けて成長した。

そして今もなお、永井氏はコーチとして二人をサポートしている。

◆スクール枠で永井氏の指導を受けることもある岩井姉妹 二人がリンクスゴルフクラブでレッスンを受ける意味とは……

「ある試合ではチーちゃんの方が良かったと思ったら、次はアキちゃんの方が良かったりして、本当に二人は良きライバルとして勝ったり負けたりしながら成長していった感じ。総合的に見て、どっちの方がすごい、とかはなかった」

明愛のことをアキちゃん、千怜のことをチーちゃんと呼ぶ永井氏は、二人がプロ入りまでの約11年間をそのように振り返るが、その、抜きつ抜かれつの状態はプロ入り後も続いている。

現時点(3月19日時点)で、これまでの総獲得賞金は、明愛が2億649万6579円で、千怜が1億9944万7986円。総獲得ポイントは、明愛が3256.48ポイントで、千怜が3140.31ポイント。70試合近く戦って、この僅差である。

■プロテスト合格は、どのツアー優勝よりも嬉しかった

「どっちかが受かってどっちかが落ちたらどうしよう。アキちゃんは最近の調子から見ても大丈夫だろうけど、チーちゃんだけ落ちるようなことがあればどうしよう、さすがにかける言葉がないな、って思ってた」

永井氏のそんな心配は杞憂に終わり、2人とも余裕をもってプロテストに合格。揃ってプロ入りすることができた。

「二人一緒にプロテストに合格したことは、プロになってからのどの優勝よりも嬉しかった。それぞれのプロ初優勝でも泣かなかったけど、プロテストの時は二人一緒に‟おめでとう”って言えるって思って号泣した」

永井氏は当時の心境をそう振り返る。

二人同時にプロテストに合格。ツアープロとして歩みを進めていくことになる。そして、永井氏はお父さんから「コーチ契約してくれませんか?」と打診を受ける。

小学2年生から見てきた子がプロ入りする。しかも伸びしろ十分で将来有望。ツアーを転戦しながら最も近くで二人の成長と活躍を見ることができる日々は、永井氏にとって魅力的に感じただろう。

だが、永井氏はそのオファーを丁重に断った。

「契約したらここ(リンクスゴルフクラブ)を離れるわけで。高校を卒業したばかりの子たちに僕の生活を背負わせていいのかな、と思って。今まで通り、二人がここに来た時に望まれれば僕がレッスンをする、それがベストなんじゃないかなと思ってね」

■チーちゃんの直ドラには驚いた

二人のプレースタイルは対照的。明愛はショット力に優れており、ピンをガンガン攻めてバーディを量産していく。対して千怜はパッティングが優れており、パーを拾っていくタイプのプレーヤーだ。

「アキちゃんに関してはとてもアグレッシブで攻めの感じがとても強い。チーちゃんの方はマネージメントをしっかりやってプレーを組み立てて実行していく、っていうタイプ。あまり崩れないのがチーちゃんで、ビッグスコア出すこともあれば大叩きすることもあるのがアキちゃん、といった感じかな」

こういった違いはスイングにも表れている。

明愛のスイングはけれんみがなく豪快で、千怜のスイングには丁寧に動き(形)を作ってきた感がある。

「アキちゃんの方は感性で今のスイングになった。レッスンの時に、何か気になることある?って聞いても、いつも、無いです、の一言(笑)。チーちゃんの方がアドバイスしたことは多くて、考えながらスイングを作っていった。だから質問が多かった」

二人には、それぞれのプレーに持ち味があるものの、いい意味で‟ゴルフはこうあるべきだ”という固まった考えがない。

「チーちゃんが優勝した去年のRKB三井松島のプレーオフでの直ドラ(ジカドラ)競演が話題になったけど、直ドラはアキちゃんは普段の練習からやっていたし、練習のラウンドでもやっていた。チーちゃんはやっているのを見たことがなかった。だからチーちゃんの直ドラには驚いた」

千怜は優勝後のインタビューで「見ている人が、この方が楽しいかなと思って」と語っている。

普段、コースマネージマントを大事にするプレースタイルをとっているにも関わらず、この重要な局面で、ある意味それを捨ててギャンブル的な発想を採用した千怜。

明愛のニチレイレディスでの右手一本アプローチのチップインバーディといい、二人のエンターテイナーっぷりに舌を巻いているのは、永井氏も同じなようだ。

フロント壁面に飾られている岩井姉妹の写真(撮影:野洲明)

■二人とも予想のはるか上を行く

ジュニア時代には将来を有望視されるだけの結果を残したが、プロ入り前の段階では、二人について“話題先行”ととらえた人は少なくなかっただろう。双子、さわやか、両者負けず劣らずの実績、といった点がメディア受けしているのだ、と。

「順調に成長していっていても、プロはそんなに甘くない、っていうのが周囲にいる人間の普通の感覚だと思う。でも、二人はそういう一般論を笑い飛ばすかのように、予想のはるか上を行く」

永井氏自身、過去、そんなにうまく行かないんじゃないのか、と思うこともあったらしいが、今では“二人はこのまま突き抜ける”ことを信じて疑わない。

「二人ともすごいんだけど、アキちゃんの運動能力はとんでもないと思う。おそらく日本の女子ゴルフ界にアキちゃん以上の運動能力を持った選手はいないと思う。ゴルフ一本で行くことに決めるまでは、ゴルフと並行して取り組んでいたサッカーでも有望視されていたし、中学でチーちゃんとともに入っていた陸上部でも結果を出していた。あれだけ基礎体力があって、クラブを強く振れる女子選手はいないでしょう。あらゆる場面で彼女の運動能力の高さには驚かされる」

明愛の能力を称える永井氏であるが、千怜に対する期待値も高い。

「チーちゃんもアキちゃんがすごいことは認めていると思う。そこで“すごいな”で終わらずに、負けるもんか、って感じで追いすがろうとするし、さらにアキちゃんに負けている部分を他で補おうという姿勢が、コースマネージメントやショートゲームの上達につながっているんだと思う」

岩井明愛と千怜の直筆サインが入ったポスター(撮影:野洲明)

■別次元を行く二人

二人はプロになってからも、永井氏のスクール枠に入り、一般の生徒に混じってレッスンを受けることもあるらしい。

永井氏にスイングチェックしてもらうだけなら、個人レッスンを受ければいい。それをせずにスクール枠を希望するのは、技術指導だけでなく、永井氏が創り出すスクールの雰囲気の中で練習することに意味があると、二人は感じているのだろう。

「今後、もっと上を目指すうえでいろいろなことがあると思う。プラスに働くことばかりじゃなくて、マイナスに働くこともあるかもしれない。でも、僕らが想像できるような心配は、二人の場合はいらないような気がする。これまで別次元を行っているところを見せられてきているから。結局、たいていのことは乗り越えていくと思う」

二人とも米ツアーが目標。おそらく、このまま行くと、それは現実になる。米ツアーは素晴らしい舞台であると同時に過酷な舞台。日本ツアーでは感じない、ヒリヒリとしたものを感じることがあるかもしれない。

そうなった時に二人の乾いた心を潤すのが、多くの時間を過ごしたこの場所ではないだろうか。

永井氏は63歳。現場を退くタイミングについて考えることもあるそうだが、まだまだリンクスゴルフクラブでレッスンを続けるだろう。

将来、二人が米ツアー転戦中や終了後に帰国した時、通い慣れたこの場所に永井氏が当たり前のようにいる。それが、あるべき風景のような気がする。

リンクスゴルフクラブの入口(撮影:野洲明)

◆岩井明愛、千怜姉妹を育てた永井哲二コーチ 「二人はこのまま突き抜ける」前編

◆1800万円を獲得した鈴木愛が首位に浮上 開幕戦を制した岩井千怜は……【女子賞金ランキング】

◆岩井明愛、菅沼菜々、原英莉花の“飛ばし”の秘密を解説!原は「腕をムチのように…」、岩井は「全部乗せ」、菅沼は「回転」で飛ばす

著者プロフィール

野洲明●ゴルフ活動家

各種スポーツメディアに寄稿、ゴルフ情報サイトも運営する。より深くプロゴルフを楽しむためのデータを活用した記事、多くのゴルファーを見てきた経験や科学的根拠をもとにした論理的なハウツー系記事などを中心に執筆。ゴルフリテラシーを高める情報を発信している。ラジオドラマ脚本執筆歴もあり。

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