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2月8日から11日にかけて行われるパリオリンピック世界最終予選(OQT)へ向けて、日本女子バスケットボール代表が東京都内で合宿を実施したが、面子には過去のオリンピック経験のあるベテランから、将来を嘱望される高校生選手まで、幅広い才能が集結した。
中でも注目を集めたのが、吉田亜沙美(アイシン ウイングス)と馬瓜エブリン(デンソー アイリス)という、ともに東京オリンピック後に就任した恩塚透ヘッドコーチ(HC)体制下では初めて招集を受けた選手たちだ。
◆女子日本代表が“新スタイル”でパリオリンピック切符獲得を狙う
■予想外だった36歳の代表招集
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吉田亜沙美(写真:永塚和志)
「すごく、しんどいです」
報道陣に囲まれた吉田は開口一番、こう発したが「でもやっぱり楽しい」と笑顔で言葉を紡いだ。
2019-20シーズン後に引退を表明。その後、恩塚HCが当時指揮を取っていた東京医療保健大学でアシスタントコーチを担うなどの期間を経て今シーズン、現役復帰をしたとはいえ、最後に代表活動に参加するのはベルギーで開催された2020年2月のオリンピック世界最終予選以来となる36歳の代表招集は予想外のものだった。
「世界一のアジリティ(機敏さ)」を謳い、ガード陣には自身や味方の得点機を作り出すことが求められる。2022年の女子ワールドカップでの惨敗を経るなど、試行錯誤を重ねながら、山本麻衣(トヨタ自動車 アンテロープス)、宮崎早織、星杏璃(ともにENEOSサンフラワーズ)、本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ)といったガードたちが同HCの志向するバスケットボールにアジャストをし、チーム力を高めてきた。
この中に吉田が入ってくる可能性がどれだけあるのか、現時点で予想を立てるのは難しい。彼女には他の者にはない、彼女にしかもたらせない抱負な経験とリーダーシップがある。2021年の東京オリンピックで日本は史上初の銀メダル獲得という偉業を果たしたが、吉田もエースポイントガードとして出場し、日本を8強にまで導いた2016年リオオリンピックでの経験がその礎となった。
■恩塚HCも期待を寄せる「無形の能力」
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恩塚HC(写真:永塚和志)
「本当にいろんな経験をさせてもらいました。オリンピックも経験しましたし、オリンピックに出るまでに負け続けた悔しさもありましたし。ゲームの中で『ここが大事だよね』っていう場面は経験値としてわかっているものがあるので、そこはベンチからの声がけや、自分が出るのであればハドルを組んで一言声をかけるだけでもみんなの意識は変わると思います。後から出ていって流れを変えていくのも今の自分には求められるスタイルです。そうしたものは自分の経験として大きな財産になっているので、そこは自信を持っていいかなと思っています」
今の代表でどういったものをもたらせるかを問われた吉田は、このように答えている。恩塚HCは、吉田が合宿の初日にチームで円陣を組んだ時に「遠慮をしていてはもったいないよね」とコミュニケーションの重要性を説いてくれたと、彼女のチームを牽引する力量に期待を寄せた。同HCは吉田について「シューターへ供給するパスの質が素晴らしい」とも述べている。
そうした吉田の「無形の能力」がどこまで評価されるのか、見ものではあるが、吉田自身は呼ばれたからそこにいるといった、漠然とした思いでいるわけではないと語った。
「やるからには中途半端な気持ちではいけない場所だと思うし、まずはオリンピックの切符を取るということが大前提にあって、その上でオリンピックで金メダルを目指していく、日本のバスケットがより良くなるために私が入って、何か伝えられるものがあればと思いますし、私自身も復帰自体がチャレンジでしたけど、また次のチャレンジに進むいいきっかけになったなと思っています」
■再出発を切った「新たなエブリン」
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高田真希を相手にディフェンスをする馬瓜エブリン(左)(写真:永塚和志)
馬瓜も吉田同様、代表活動へ戻ってきたが、彼女もまた「新たなエブリン」として今、ここに立っている」と気持ちを新たに再出発を切った。
銀メダル獲得に貢献した東京オリンピック後、馬瓜は休養を宣言し、心身の疲弊が癒えた今シーズン、デンソーという新たな所属で復帰を果たしている。
海外のリーグでプレーするオコエ桃仁花(オーストラリアリーグのUCキャピタルズに所属)のOQT不参加が決まり、馬瓜の妹である馬瓜ステファニー(スペインリーグのモビスター・エストゥディアンテス所属)の合流も本稿執筆段階では不明となっている。インサイドでプレーができる2人がいないとなれば、身長180センチのパワーフォワードである馬瓜のOQTメンバー入りの可能性は低くないと見る。
馬瓜のプレースタイルは、これまでの恩塚HCのチームにはなかったものと言えるかもしれない。パワーフォワードではあるものの、跳躍しながらワンハンドで放つ打点の高い3Pや、当たりの強さを生かした力強いドライブインやディフェンスができ、オールラウンダーとして様々な場面で起用ができる存在となれるのではないか。
■「私たちがもう1回、頑張りたい」
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代表合宿で練習に励む馬瓜エブリン(左)ら(写真:永塚和志)
そして、吉田同様、28歳の馬瓜も東京オリンピックで海外の強豪相手でも伍して戦えたという世界大会での「成功体験」を、経験の浅い若手たちに伝えていきたいと話す。
「大谷(翔平、ロサンゼルス・ドジャース)さんの『憧れるのをやめましょう』じゃないですけど、たとえばダイアナ・トーラジ(WNBAフェニックス・マーキュリー、5度のオリンピック金メダリスト)やいろいろ(スター選手が相手に)いるんですけど、憧れるんじゃなくてちゃんと戦えるんだっていうのを実感した大会(東京オリンピック)だったと思うんですよ。その部分はオリンピックに出ていないメンバーにも伝えていきたいというのが一つあります」
馬瓜は休養期間中、様々なメディアに登場し、昨夏の男子のFIBAワールドカップでは解説者として日本代表の躍進とそれによる国内での競技の人気向上を目の当たりにした。
それはいわば、東京オリンピックで集めた女子バスケットボールへのスポットライトが「上書き」され、男子へと移行した形となったわけだが、ではそれをパリオリンピックで取り戻したいかと問われると、馬瓜はバスケットボールファンにはよく知られた快活な声のトーンでこう返した。
「(女子に)目を向けたいというよりも、バスケットボール全体に注目してほしいです。女子のエネルギーや世界との身長差でアドバンテージがない中でしっかりと戦えてる姿はすごく、見ているみなさんにとって勇気や感じてもらえるところがあると思うので、そういう意味では私たちがもう1回、頑張りたいです」
■強化合宿でも輝く18歳・絈野夏海
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恩塚HCの話に耳を傾ける絈野夏海(左)と吉田亜沙美(写真:永塚和志)
他方、これから世界の舞台へ本格的に羽ばたいていく可能性を秘めた新星も今回の合宿に招集された。非凡なシュートセンスを持つ、絈野夏海だ。
年末のウィンターカップ(全国高等学校バスケットボール選手権大会)で岐阜女子を準優勝に導いた絈野のプレーぶりを見て、この若干18歳の将来性に心躍った者は多いのではないか。172センチのシューティングガードは同大会で平均21.3得点を挙げ、得意の3Pは42.9%の確率で決めた。決勝では途中、対戦相手の京都精華に引き離されるも、3Pを何度も沈め優勝に迫るなど、勝負強さも感じさせるパフォーマンスだった。
同大会の直後は、将来の日本代表入りやオリンピック出場といった目標を口にしていた絈野だったが、その「将来」がこれほどまでに早く来るとは本人も思っていなかったようだで「信じされない気持ちと選ばれたことに関して嬉しい気持ち」と高校生らしいはにかみながら話した。
しかし、コート上での立ち振舞いは、他の、すでにWリーグで何年もの経験を有している年長の選手たちに引けを取ったものではなかった。3Pに関しては、単に確率よく決められるというだけでなく、パスを貰ってからシュートまでの時間が抜群に速く、その他、ステップバックやプルアップ(ドリブルからストップしてのシュート)などシュートのバラエティも披露した。
聞けば、岐阜女子の1年生時、同校の指揮を執る安江満夫コーチからシューターだと指示された時から練習を重ね、かつルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)のステップバックプレーなどNBAの動画を参考にしての練習を積んできた賜物だったという。
「1年生の時のウィンターカップで、スタートで試合に出て、そこで3Pシュートが当たった時から『自分はこのシュートが打てるんだな、得意なんだな』だとつかんで、2年生、3年生とチームのエースとして引っ張っていけたんじゃないかなと思います」
18歳よりは大人びた落ち着きをまとった絈野は、静かなトーンでそう語った。
■恩塚HCが明かした絈野招集の理由
絈野は、現在、代表でキャプテンを務める林咲希(富士通レッドウェーブ)を同じシューターとして「憧れ」の存在だと口にしたが、その林も、絈野の能力に目を見開かないわけにはいかない様子だった。
「高3ですよね?(笑)私が高3の時は3Pはそんなに打っていなかったので、今、あれだけシュート確率があって速いモーションで打てるので、これからどんどん伸びていく選手かなと思います。努力していますし、何か淡々とやる選手だなと思うので、自分も盗むところは盗みたいですし、気持ちの持ちようや悩んでいることがあれば、どんどん伝えていきたいですが、楽しみな選手ですね」
もっとも、恩塚HCは単に3Pがうまいからという理由だけで絈野を呼んだわけではなかった。同HCは昨年11月の皇后杯2次ラウンドで岐阜女子がENEOSと対戦した際に絈野が3Pを5本決めるなどで28得点を記録した試合を見て「興味を持った」が、一方で今回のOQTへ向けての招集には、その段階では逡巡するところがあったという。が、ウィンターカップで再度、彼女を見ると、ステップバックやサイドステップから3Pを打っているのを目の当たりにしたことが、招集の後押しをした。
「(合宿の)初めは緊張していましたが、今日はだいぶ慣れてきた感じで、ピック・アンド・ロールの(ボール)ハンドラーとしてもいい仕事をしていました。絈野選手のいいところはシューターでありながらピック・アンド・ロールのハンドラーにもなれる。私たちのコンセプトとして、ポイントガードはクリエイトができる、シューティングガードは3Pもあり、ピック・アンド・ロールでクリエイトがえきる。この2つができつというのは大きな要素で、そういう意味では、彼女は貴重な存在かなと思っています」
恩塚HCは、絈野についてこう評した。
現在、世界ランキング9位の日本は、OQTで開催国ハンガリー(同19位)、スペイン(同4位)、カナダ(同5位)と対戦する。
OQTには全16カ国が出場し、4チームずつの4つのグループに分かれ、総当たり戦を行い上位3チームがパリオリンピックへの切符を手にする。
ハンガリー組の開催地はショプロンという人口6万人ほどの都市だ。
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著者プロフィール
永塚和志●スポーツライター
元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。