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JLPGAツアー2023シーズンの振り返り、今回は「トーナメント編」。黄金世代の登場以降、若手がツアーをけん引する時代が続いたが、22シーズン終盤に金田久美子、藤田さいきが復活優勝を遂げたあたりから、中堅・ベテランも含めたツアー全体のレベルアップが顕著となり、迎えた23シーズンは初優勝選手9人、プレーオフ(PO)決着が38戦中10戦、PO決着での初優勝が5人を数えた。見どころの多かったシーズン、あらためてトーナメントと優勝選手を振り返る。
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■初優勝からの複数回Vが4人
最初に、23シーズンの複数回優勝選手をまとめてみた。
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2023シーズン複数回優勝選手
特徴的なのは、初優勝から間を置かず複数回優勝を達成した選手(4人)が多いことだ。初優勝よりも2勝目を挙げることの方が難しいといわれるが、櫻井心那4勝、岩井明愛3勝である。初優勝によって彼女たちが本来持っていた実力が解き放たれたと見るべきだろう。
千載一遇のチャンスをものにするという点で、象徴的だった初優勝に「アクサレディス」の山内日菜子が挙げられる。山内はQT 1st STAGEでクラブ超過のミスを犯し、ファイナルに進めず、プロ8年目のシーズンをQTランキング181位で迎えた。「アクサ」には主催者推薦で出場し、逆転で地元での初優勝を飾った。この優勝が周りの選手たちに与えた影響は大きく、同期・同学年である蛭田みな美らの初優勝へとつながっていく。
■トーナメント5選にはドラマあり
ここからは、特に印象に残った23シーズンのトーナメント5選を紹介していこう。
1.「CAT Ladies」蛭田みな美
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CATLadies最終ラウンドホールバイホール
10アンダーの首位に並んで最終日を迎えた蛭田と西郷真央。蛭田は前半3バーディ、ノーボギー、西郷は3バーディ、1ボギー。蛭田が1打差の単独首位でバックナインへ。
それぞれバーディとボギー1つずつで迎えた16番、蛭田は4メートルのスライスラインを読み切ってバーディ。2打差に。一方、西郷はシビアな下りのパーパットをねじ込み、踏みとどまる。17番、西郷はティーショットを左奥2メートルに止めバーディ。再び1打差に迫る。
最終18番。西郷の3打目はグリーンを捕えるも距離を残す。蛭田の3打目は2メートルのバーディチャンス。先に打った西郷はバーディならずパー。蛭田はパーでも初優勝の場面。ところが、この2メートルからまさかの3パット。決着はPOへ。
PO 1ホール目。蛭田はティーショット、セカンドとも右ラフ。西郷は悠々とフェアウェイを行き、明らかに西郷有利の展開。ところが、起死回生のスーパーショットが飛び出す。蛭田の3打目はグリーンの傾斜に沿ってピン左1メートルへ。奇しくも正規の18番で外したパーパットと同じ位置。今度はこのバーディパットをど真ん中から決め、劇的な初優勝となった。
2.「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」菅沼菜々
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NEC軽井沢72最終ラウンドホールバイホール
13アンダー単独首位の菅沼と3打差2位タイの神谷そら。最終日はともにバーディを先行させるも、神谷が徐々に迫ってくる。菅沼14アンダー、神谷13アンダーで後半へ。
後半は一進一退の攻防が続いたが、神谷が土壇場18番バーディで追いつき、決着はPOへ。
PO 2ホール目。菅沼はフェアウェイからバーディチャンスにつける。神谷はアプローチがオーバーするも、返しのパーパットを執念でねじ込む。菅沼は入れれば優勝というバーディパット、「めっちゃ震えてました」と言うが、これを見事に沈め、念願の初優勝を決めた。
3.「住友生命Vitalityレディス 東海クラシック」岩井明愛
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住友生命レディス東海クラシック最終ラウンドホールバイホール
単独首位13アンダーの明愛を、4打差9アンダー6位タイの小祝さくらが追いかける形で最終日がスタート。12番までにともに3つずつ伸ばし、差が詰まらなかったが、鬼門14番で明愛に試練が訪れる。ティーショットが右バンカーに捕まり、バンカーからの2打目がグリーンを大きくオーバーし、まさかのOB。
このホール、連日のダボで、小祝との差が一気に2打に縮まると、先を行く小祝は15番できっちりとバーディ、さらに17番でもバーディを奪い、明愛に追いつく。
しかし、明愛は自力で優勝を手繰り寄せる。16番パー3で手前50センチにつけるスーパーショット。再び単独首位を奪い返し、17番、18番をパーでしのいで涙の2勝目を飾った。
4.「日本女子オープン」原英莉花
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日本女子オープン最終ラウンドホールバイホール
単独首位11アンダーに原英莉花、1打差10アンダー2位に菊地絵理香で迎えたナショナルオープン最終日。「Wエリカ対決」は互いに一歩も引かない激闘となった。
菊地が3番バーディで一時首位に並んだが、原が5番イーグルで再び単独首位に。だが、菊地も5番バーディで食らいつくさまは、真っ向勝負と呼ぶにふさわしい内容。
ポイントとなったのは、原が15番バーディで3打差とした後、16番で長いパーパットを決め切ったところ。優勝を引き寄せる、実に大きなパーセーブだった。
ところで、原が後日、師匠の尾崎将司に優勝報告に行った際、「今日からエリカを尊敬することにしたよ。お前じゃない方のな」と話し、突き放されそうになっても食らいついた菊地の粘りを「あれはすごかった」と称えたという。まさに菊地の面目躍如といえる。
5.「RKB×三井松島レディス」岩井千怜
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RKB×三井松島レディス最終ラウンドホールバイホール
最終日は8アンダー単独首位の姉・明愛を、3打差5アンダー5位タイの山下美夢有と、4打差4アンダー7位タイの妹・千怜が追走する展開。千怜は1番、山下は3番からともに3連続バーディを決めるなど差を縮め、12番終了時点で3人が10アンダー首位に並ぶ。
千怜が17番バーディで単独首位に立つも、山下と明愛も18番バーディで再び追いつく。決着は史上初となる双子姉妹のPOに、年間女王を加えた三つ巴の戦いに持ち越された。
PO 2ホール目。岩井姉妹の2打目はともに直ドラ。山下は3打目をピンハイ4メートルにつける。しかし、山下のバーディパットはカップに嫌われ入らない。明愛のバーディパットも左を抜ける。最後に千怜。約1メートルを真ん中から沈め、母の日にかなった記念すべき双子姉妹でのPOを勝利で飾った。
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文●河野道久