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日本中の格闘技ファン、ボクシングファンが注目する那須川天心(帝拳)のボクシング・デビューが近づいた。神童、天才などの肩書きを欲しいままにいてきた男が8日、東京・有明アリーナでどんな試合を見せるのか。
那須川は24歳。15歳でプロデビューしたキックボクシングで42戦全勝。しかも、1ラウンドKO勝利をずらりと並べてきた。さらに総合格闘技でも、強敵相手にすべて勝利。完璧な実績を引っさげて、プロボクシングのリングに上がるというのだから、話題にならないはずがない。
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■メイウェザー戦の惨敗から今日に至る
那須川はインタビューで「ボクシングと戦う」、「ボクシングへの果たし状」、「自分を証明する」と力強い言葉を並べてきた。これまで戦ってきた格闘技とボクシングが違うことは、本人が最も自覚している。その理由のひとつが2018年のフロイド・メイウェザー戦だろう。体重差はあれボクシングのスーパースターに何度も吹っ飛ばされ、惨めな1ラウンド終了KO負けを喫した。あの悔しさから、「ボクシングと戦う」との決意が生まれたのではないか。
指導する粟生隆寛トレーナーは、キックとボクシングの一番の違いを「足の動き」(ステップ)と指摘した。確かにメイウェザー戦のステップは、キックのベタ足に近かった。しかし、公開されている最近のスパーリングを見ると、前後左右の素早い動きがすっかりボクシング流にモデルチェンジされている。
特に、元フェザー級世界チャンピオンのアンジェロ・レオ(アメリカ:21勝1敗)とアメリカで行ったスパーリングでは互角以上の動きを披露し、レオもスパー後に「将来、世界チャンピオンになるだろう」と太鼓判を押した。
■ボクシングのフットワークにモデルチェンジした
スパーを見て分かるのは、きれいなアウトボクシングをすること。キック時代初期は派手な倒しっぷりがトレードマークだったが、ボクシングではファイター・スタイルは選ばないだろう。キレのあるボディワークとフットワークで試合をコントロールし、ハンドスピードを生かしてポイントを重ねる戦い方があっているようだ。
スパーリングを見る限りは、プロボクサーのレベルには達しているといえるだろう。しかし、スパーはあくまでも練習。プロのボクサー相手に、本番の試合で練習通りの動きができるかどうかは、あくまでも未知数だ。
■何者でもなかったオレが超大物を食う
対戦相手は突然、時の人となった日本バンタム級2位、与那覇勇気(真正)、32歳。戦績は12勝(8KO)4敗1分で、アマチュアでも50勝13敗という成績がある。直近の試合は日本同級挑戦者決定戦で、南出仁(セレス)に判定負けした。なお、南出は那須川のプロテストでスパーリングの相手を務めている。
一度、引退してから3年後に復帰した苦労人で、南出戦の前は5連勝していた。やや変則的なファイターで、自ら「ヨナッパー」と呼ぶアッパーとフックの中間のような振り回すパンチが特徴。プロ17戦で叩き上げた、癖のある選手だ。
記者会見では「何者でもなかったオレが超大物を食う」と、見栄を切った。「ボクサーの意地と実力をみせて欲しい」と、与那覇を応援するボクシング・ファンも多い。
■那須川がスピードを生かして判定勝ちする
この試合はスーパーバンタム級6回戦で行われる。那須川はキック時代の経験が5回まで。6ラウンドのスパーリングもしていたが、かなり息が上がっているように見えた。また、与那覇は一階級上げて試合に臨むことになる。このあたりも微妙に勝敗に影響しそうだ。
予想は難しいが、ここでは那須川の判定勝ちとしたい。スパーリングを見る限り、スピードとテクニックは十分に通用しそうだ。東京ドームという大舞台で戦ってきた経験も生きるだろう。格闘技ファンはKOを期待するだろうが、与那覇の泥臭い戦いがそうはさせないとみる。
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著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。