【ボクシング】フェザー級日本王者“天才”阿部麗也 「世界に繋がる試合をしたい」と防衛戦に挑む | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【ボクシング】フェザー級日本王者“天才”阿部麗也 「世界に繋がる試合をしたい」と防衛戦に挑む

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【ボクシング】フェザー級日本王者“天才”阿部麗也 「世界に繋がる試合をしたい」と防衛戦に挑む
  • 【ボクシング】フェザー級日本王者“天才”阿部麗也 「世界に繋がる試合をしたい」と防衛戦に挑む

12月3日、後楽園ホールで初防衛戦を迎える日本フェザー級WBOアジアパシフィック・フェザー級チャンピオン阿部麗也(KG大和)選手に話を聞いた。全勝のホープを対戦相手に迎える心境や作戦、仕事を持ちながらボクシングにかける生活へのこだわりを話してもらった。

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■日本王者に輝き変わったことは…

――もう夜の10時20分です。練習後のお疲れのところ、ありがとうございます。初防衛戦が12日後に迫りまって、今、どんな状況ですか。

スパーリングは1日5ラウンド、週に3回、チャンピオンクラスの相手と行っています。いい練習ができていると思います。体重は、フェザー級のリミット(57.15kg)の5キロくらいオーバーです。スパーリングをしっかりしているうちから体重を落とすとケガをするので、そのあたりは気をつけてやっています。

この時期は上げる日と抜く日を交互に入れながらの調整になります。今日もスパーリングをしてきました。強い練習は今週が最後で、来週1週間は体重を落とすことをメインにして疲れを抜いていく予定です。

――5月15日、世界が近いといわれていた丸田陽七太(森岡)から、3度目の挑戦で日本タイトルを取りました。

フェザー級は層が厚い階級で、丸田はそのなかでも評価が高い選手だったんで、試合が決まったときは、「3回目の挑戦が丸田かぁ」って感じでしたね(笑)。でも、強いチャンピオンに勝てば、今まで2回失敗したのもチャラにできる、自分の評価も上がるという気持ちで前向きに考えました。3度目の正直だったんで、意気込みは最高潮でした。

チャンピオンとして勝ち名乗りを挙げる阿部麗也 本人提供

――長身で懐が深いチャンピオンに対して、どんな作戦でのぞみましたか。

距離が遠いままだと相手のボクシングになってしまうんで、自分から距離を潰すことを一番に考えましたね。スピードでは自分が勝っていると思っていたんで、細かく出入りをして自分の距離で戦うことをとにかく心がけました。

いざリングに上がったら、思ったより遠く感じなくて、カウンターもあまり来なかったんで「入りやすい」と思いました。立ち上がりから、「これはいけるな」という感触でした。左ストレートから入る攻撃を試したら、相手が嫌がっているように見えたんで、ツー・ワン・ツーのコンビネーションを多めしました。結果的にそれがうまくいきました。左ストレートから入って距離を潰して、そこでワン・ツーを打つ攻撃でペースをつかんだ感じですね。

――7ラウンドにダウンを取ったパンチも左ストレートでした。

こっちのペースで思ったように試合を運べていたなかで、自然に出たパンチでした。4ラウンドに相手の右ストレートで目をカットしたんですけど、それがあったから、かえって積極的な気持ちになれたのかもしれませんね。思った以上にうまく進んだ試合でした。

――チャンピオンになって変わったことはありますか。

自分では「ああ、そうか」というくらいなんですけど、今まで応援してくれた周りの人たちが喜んでいるのを見て、「よかったな」と思いました。日本チャンピオンは通過点で、まだ、先がありますから、あまり喜んでもいられないです。

――初防衛戦では10戦10勝、関西のホープ、前田稔輝選手(グリーンツダ)の挑戦を受けます。どんな選手だと思っていますか。

同じサウスポーで、スピードがある選手です。左ストレートに自信があるところなど、自分と似ているのかもしれませんね。周りからは接戦になるという声も聞こえますけど、体のパワーやこれまでの経験で圧倒したいなと思っています。

序盤は右ジャブの差し合いになると思いますけど、まずはそこでペースを取りたいですね。主導権を取ったらプレッシャーをかけ続けて、相手のスタミナを削って削って、中盤あたりで倒す。それが試合プランです。とにかく、力の差を見せつけて勝ちたいです。

――サウスポーはやりづらくないですか? また、試合のポイントは…

普段から、いろいろなタイプのサウスポーと練習をしているので、苦手意識はまったくありません。試合のポイントは序盤で相手を飲み込むことです。相手は初めてのタイトルマッチですし、大阪から東京に出てきて試合をするわけですから、緊張するはずです。最初に圧力をかけて、相手を慌てさせたい。そう思っています。

――チャンピオンの右手は、独特の間合いを取る動きがあります。

ジャブを打つタイミングをちょっとずらしたり、いろいろと角度を変えたりしているうちに、あのスタイルができました。強いジャブ、当てるためのジャブ、モーションがないジャブ、フリッカー気味、内から外からと、試合中もいろいろなジャブを打つことを考えています。

自分の一番の特徴は、独特なリズムのステップワークですかね。これは、小学生から高校までやっていたバスケットが生きていると思っています。でも、自分はアウトボクサーだと思われていますけど、実はパンチにも自信があるんですよ(笑)。

――フルタイムの仕事を持つチャンピオンとしても知られています。

日本チャンピオン、アジアチャンピオンのクラスになると、仕事をせずにボクシング中心の生活を送っている人が多いですよね。でも、自分は仕事とボクシングを両立させることに価値があると思っています。

4回戦の選手は、ほとんどが仕事をしながら練習をしているわけじゃないですか。彼らにとって、「スポンサーに金をもらってボクシングしてます」っていうチャンピオンばかりになったら、夢がないですよね。「恵まれた生活をしている選手は、やっぱり強いよな」ってなりますよね。フルタイムで働いていてもチャンピオンになれるんだっていう姿を見せられれば、俺たちも頑張ろうっていう気持ちになると思うんです。

そういう意味で、若いボクサ―が共感できる選手になりたいですね。それでボクシングの敷居が低くなって、「俺もやってみようかな」って思う人が増えたら、もっといいですね。

――普段の生活のパターンを教えてください。

朝の8時から5時が仕事。夕方の5時に上がって5時半ごろ家に帰ります。それからロードワークをして、6時半に子供が保育園から帰ってくるんで風呂に入れて、7時前に軽く食事をします。7時半に家を出て、8時から10時がジムワーク。11時前に家に帰って、それから洗濯をします(笑)。練習で汗をかいたものを持ってくるんで。寝るのは1時くらいですね。この生活が、もう習慣になっちゃいましたね。

今回は土曜日が試合なんで、前日の金曜が計量です。木曜は休みを取りましたけど、水曜まではいつも通りに仕事にいきます。

■嫁さんは「目が肥えちゃって評価が厳しい」

――家族や会社の理解が欠かせませんね。

子供が2人いるんで、嫁さんの理解がないとやっていけないですね。嫁さんも個人事業主で自分の仕事をしているんです。お互いにやりたいことを認めて合っているんで、うまくいっているんだと思います。

彼女はもともと格闘技が好きなんですよ。試合を何度も見にきているんで、目が肥えちゃって評価が厳しいんですよ(笑)。興味があるからこそ理解できるってところもありますから、いいんですけど、けっこうケツ叩かれています(笑)。

チャンピオンになって、会社の中でも認知されました。会社の同僚も応援してくれていて、12月3日の防衛戦には50人くらいが応援に来てくれる予定です。

2人の子どもたちと勝利を分かち合う 本人提供

――いつ頃からボクサーを志したんですか。

小学校1年生のときから、テレビでボクシングを見ていたんです。当時は、畑山選手なんかの時代でしたね。わぁ、ボクサーってカッコいいなって思って。「俺もボクサーになるのか」って勝手に考えて、小学2年生のときに「ボクサーになって億万長者になる」って文集に書いてました。

――阿部選手といえば、「自称、天才」が有名です。

バスケットをしていたから、漫画の「スラムダンク」はずっと読んでいたんです。その主人公の桜木のセリフに「天才ですから」っていうのがあるんです。

ある試合の前に赤色のトランクスを作ったんです。そのとき、桜木が赤い髪の毛をしていたことを思い出して、「天才ですから」ってケツに入れたんです。だから、最初はただのジョークだったんです。でも、新人王から日本タイトル挑戦まで10連勝で上っていったときに、「あいつ天才か」ってなって、そのワードがボクシング界に広まったんです。まあ、それで覚えてくれる人もいるし。よかったかなって思っています。

――今、IBFの世界ランキングで5位です。先の目標も聞かせてください。

来年の3月で30歳になります。ボクシングのキャリアも後半に入る歳ですから、次のステージに向かっていきたいですね。初防衛戦をいい形でクリアして、来年は世界に繋がる試合をしたいと思っています。

IBFは挑戦者決定戦をきちんとやるんですけど、「次の勝ち方次第では(挑戦者決定戦が)あるかも」という話が来ています。もし、オファーがあれば、海外でもどこでもいい、上に行くチャンスを逃したくないと思っています。そのためにも、初防衛戦は圧倒して勝ちたいですね。

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著者プロフィール

牧野森太郎●フリーライター

ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。

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