【スポーツビジネスを読む】日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “転” 「株式会社恩返しホールディングスは解散せよ」 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツビジネスを読む】日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “転” 「株式会社恩返しホールディングスは解散せよ」

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【スポーツビジネスを読む】日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “転” 「株式会社恩返しホールディングスは解散せよ」
  • 【スポーツビジネスを読む】日本ラグビーフットボール協会谷口真由美・元理事 “転” 「株式会社恩返しホールディングスは解散せよ」

2019年5月のある日、谷口真由美さんに届いた電話により生活が一変する。その電話の主は、日本ラグビーフットボール協会JRFU坂田好弘副会長および同協会・川村幸治評議員(いずれも当時)だった。2人とも父・龍平さんとのご縁が深く、小さい頃から谷口さんをよく知る人物だった。この両名の推薦および同年にJRFUの副会長に就任した清宮克幸さんの後押しにより谷口さんは同年6月、JRFU理事就任へと至る。

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■「女性理事40%」のスポーツ庁目標

これには当時、スポーツ庁が各協会のガバナンス強化に向け「女性理事40%」の目標を設定。「真っ黒な」ラグビー界も女性理事増員に迫られていた事情があった。

龍平さんの顔を潰すわけにもいかない。また、「大先輩からの頼み事は決定と同じ」というラグビー村の掟を知らされ、テレビ出演などの他の仕事との折り合いをつけ、渋々引き受けることに。

当時、こうして選出もしくは続投されたJRFUの女性理事5人は、谷口さんほか以下の方々だ。

石井淳子さん(元厚労省官僚)齋木尚子さん(元外務省官僚)浅見敬子さん(7人制女子日本代表・元ヘッドコーチ)稲沢裕子さん(昭和女子大特命教授、元読売新聞記者)

理事は総勢24人。スポーツ庁のコードには達しなかったが、女性登用の事実はできあがった。だが、谷口さんは理事に選任された当日から「ラグビー村」に対する違和感を抱えまくった。自身が単なる理事の数合わせにすぎないと悟る。

以降、2019年11月に「新プロリーグ設立準備委員会」のメンバーに選出され、同委員会は20年1月に「新リーグ準備室」へと改編。新しいラグビー・プロリーグの母体となる法人立ち上げのための「法人準備室」室長に谷口さんは抜擢される。その後、新リーグ審査委員長も兼任。しかし、これがわずか1年あまりの21年2月には室長を退任。同6月には同委員長をも退くに至った。

関係者との懇親会で囲まれる谷口さん 本人提供

この経緯については、谷口さんの著書『おっさんの掟 「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」』に詳しいので、ここでは割愛する。

第1章 カラスの群れにヒョウ柄のおばちゃん第2章 改革の急先鋒・清宮兄さんの失敗第3章 神輿に担がれて「新リーグの顔」へ第4章 「チーム審査」と大義第5章 かくして「審査」は反故にされた第6章 日本社会を蝕む「おっさん」たちの正体

目次だけで、どのような大冒険が予想できるだろう。ここでは経緯そのものよりも、谷口さんと「ラグビー村」の乖離が進んでいった要因は、どこにあるのか。谷口さんに考察を加えてもらった。

「研究者の中でも理系の方たちは共同論文を作成する機会も多いのですが、法学の研究者にはそういった習慣はなく、論文も単独で作成します。共著もなく、自分で言ったことは自分で責任を取る。戦う相手は常に自分。ミスしても誰かが助けてくれるわけでもなく、ミスは自分に返ってきます。自分を主語にして、それのもとに生きていくのが法学者。ラグビー界で仕事をするようになって、みなさんの“主語”の大きさにとまどいがありました。私自身、育った環境はラグビー場、集団生活の中にいたんですが、自分が選んでやっていた競技が水泳という個人競技。ラグビー村の方は『我々』とか『私たち』とか『みんな』という大きな主語をすごい軽く使う。え? それはいったい誰? 匿名でもいいから教えてくれん? また『総意』とう言葉もよう使う。それに私は含まれてますの? 研究者としては、そのエビデンスは? 実際にどれぐらいの人たちが? だいたいでも教えてもらえます? ラグビー村の人たちは、なんでもすぐにまるっとまるめちゃうのかが理解できなかった」。

和をもって日本となす』、ロバート・ホワイティング氏による1990年代のベストセラーの精神が21世紀の今も息づいている証左だろう。

■鶴マークの「株式会社恩返しホールディングス」

「こうした社会構造の中では、物言わぬ従順な人ほど出世する。上の人がやりたいように手足となる。頭脳はいらない。そのパワーの源はなんなんだろう…と考えたんです。最初は『保身』になるかと思っていたんですけど、組織に入ってくるときのモチベーションはどなたも概ね、とてもピュアなんですよ。そしてスポーツ関係者が必ず口にする言葉に気づいたんです。『自分を育てくれたスポーツに恩返ししたい』。もう鶴の恩返しやなぁ。鶴の集団。鶴マークの『株式会社恩返しホールディングス』です。ホールディングの下に、鶴ラグビー、鶴サッカー、鶴野球…となっているんです。丹頂鶴なのか、千羽鶴なのか、知らんけど。恩返しホールディングスですから、ある意味で宗教みたいなものです。宗教もよく『恩に報いろ』っていうじゃないですか。お世話になった人を大事にしろ。最初はまっとうなんですが、煮詰まっていくと…そのスポーツを発展させようと意気込んで組織に入っていくと、ミイラ取りがミイラになってしまうというような。恩返しホールディングスの出世ルートは、意思を隠し通し、従順に聴く人。面従腹背ならミイラにはならないかもしれませんが、出世は見込めません。これは団体競技に多い気がするんですけど、個人競技も日本代表クラスになると恩返しホールディングに入社してそうです」。

谷口さんはこうした構造が、そのまま「おっさんの掟」を生み出し、継承させる温床となっていると指摘する。

「『おっさんの掟』って病理なんですよ。日本社会の病理。横並びで、人の顔色見て突出してはならない。これが日本全体の成長を止めているんです。スポーツ界の方々は、スポーツの時だけは褒めてもらってきた。でも、褒めてもらっても、それはチームのため。日本は個が集団になるのではなく、集団ありの個なんです」。

■自分で判断してはいけないという観念

そして、これはスポーツに限らず、学校教育でも洗脳がなされていると警鐘を鳴らす。小学校6年生の「道徳」の教科書に掲載されている『星野くんの二塁打』を例に挙げた。

小6道徳「星野君の二塁打」徳目に反する事実を提示する

こちらも題材はスポーツ、野球。チャンスで星野くんは監督からバントの指示が出たにもかかわらずヒッティングに出て見事二塁打を放つ。試合後、監督の指示は絶対守るよう通告され、次の試合に出場させてもらえなくなるストーリーだ。

「これは前川喜平さん(元・文部科学事務次官)との対談『ハッキリ言わせていただきます!』(集英社)で知ったんです。ちなみに前川さんも、高校時代はラガーマンだったんですよ。前川さんはこれでは『自分で判断してはいけないという観念を植え付けてしまう。決まりを守ることが何よりも大事な道徳です…になってしまう。決まりを守るよりも、場合によっては自分で判断し決まりを破るほうがよいこともある。どういう時に、決まりを破る判断をするのか…。決まりの破り方みたいなことを勉強するのがよい』とおっしゃってます。こうした教育が、東日本大震災における宮城県石巻市大川小学校の悲劇を生んでしまった一因ではないかと思います。全校生徒がまず校庭に避難。でも、そこで先生も生徒も待機としていて、大津波に遭ってしまいました。津波の際は、自分で判断して、てんでばらばらに逃げろという『てんでんこ』という教えは、つまり誰かの指示を待つのではなく、自分の判断で逃げないといけないんです」。

石巻市の2011年3月の市報には、「津波から逃れるために」と題した項目で「津波警報や避難指示を待たず、直ちに海から離れ、急いで高台や鉄筋コンクリートなど丈夫な建物の2階以上に避難しましょう」と明記してあったという。大地震は、その10日後に発生。大川小学校では、その指示が生かされず、全校108人のうち68人が犠牲となり6人が行方不明となった(『中央公論』参照)。

◆なぜ大川小学校だけが大惨事となったのか

指示待ちでは東日本大震災のような災害から逃れられない (C) Getty Images

東京のような大都市圏で震度7以上の大震災が発生した際、どう避難するのか、誰も指示はしてくれまい。人々がパニック状態になる中で、どう生存するのか、それはもちろん、個々人が判断しなければならない。

「私自身、法学者になってよかったと思うのは、決まり(ローやルールなど)とは何か、なぜその決まりが存在するか、その立法趣旨、立法段階をすごく勉強しないといけなかった点です。弁護士さんは、今ある法の中でどう解釈するかをまずは考え、法の範囲内での拡大解釈や類推解釈などの判断もする。法学者は、その法がそもそも何なのか、何のために必要なのか、妥当なのかなども問う。ないなら新しく作る。おかしいなら改正すればよろしい。だから、そこは政治的な動きとも結びつく。双方ともベクトルの向きは少々異なるのですが、定められたルールを守るだけではないのです」と法学者としての心得を述べた上で、「恩返しホールディングス」に対しては再度釘を刺す。

「上ににらまれないように忠実に守る人たち…その忠実さは必要?と思いませんか。おかしなルールや慣習は変えればいい。ラグビー憲章は、ローの適用に幅をもたせています。でも、その発想は、日本に根付いていない。ラグビー協会だけではなく、上の言うことに逆らっちゃダメ。だから、ルールだから守る。その思考パターンの人が多すぎる。『お前、死ね』というルールができたら死ぬんですか。そのルールが、おかしいと声をあげたら捕まる…それが太平洋戦争だったし、今のロシアでも同じことが起きてる。みんなが同じ方向を向いている時に、異論を挟んではならない…というのは異常な状況なんです」。

昭和時代に設立され、「おっさんの掟」が適応されている「株式会社恩返しホールディングス」は、21世紀の日本において、解散すべき無用の長物と化している。

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著者プロフィール

松永裕司●Neo Sports General Manager

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

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