【ダンス】ブレイキンの真髄極めた8ROCKS、ストリートカルチャーのレガシー燻らせシーズン初優勝 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【ダンス】ブレイキンの真髄極めた8ROCKS、ストリートカルチャーのレガシー燻らせシーズン初優勝

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【ダンス】ブレイキンの真髄極めた8ROCKS、ストリートカルチャーのレガシー燻らせシーズン初優勝
  • 【ダンス】ブレイキンの真髄極めた8ROCKS、ストリートカルチャーのレガシー燻らせシーズン初優勝

去る27日に開催されたD.LEAGUE(Dリーグ)セカンドシーズンの折り返し地点となるラウンド6は、コロナの影響でavex ROYALBRATS、KADOKAWA DREAMS、dip BATTLESが欠場となってしまった。結果、11チームから8チームに縮小しての戦いにはなったが、各チーム、参戦できなかった3チームの無念をも晴らすような、みなぎる決意と重みのある演技を披露してくれた。

◆THE GREAT HEART of“8ROCKS” ブレイキン世界一のISSEI率いる熱き魂

■ダンス愛溢れる神田COOによる細かな心遣い

この日も、会場の東京ガーデンシアターの客席は、コロナ対策のため一席ごとに空席が設けられ、「拍手OK、声援NG」のルールは変わらずだ。だが、今回はオープニング時、ステージ上にDリーグCOOの神田勘太郎氏が現れ、観客に向けて「皆さん、声援は出来ませんが、拍手の練習をしましょう! 僕が合図を出したら、思いきり手をたたいてください。その際、手のひらに空気を入れるように叩くと反響して大きな音が出ますのでやってみてください。はい、行きますよ~!」と、拍手の手ほどきをし、大きな拍手となる練習を観客と共に数回行った。

COO自らが行ったこの細かな心遣いは、愛以外の何物でもない。先日のインタビューでも深く感心したが、神田氏のダンスとダンサーに向ける愛の深さと大きさ、また自らもダンサーであったからこそ分かる、観る側のエネルギーをより強く、踊り手へ届けんとする配慮に触れ、自称“心のダンサー”である筆者は再び胸の温まる思いがした。会場の熱気もそれによって一層高まり、観客の心がひとつになったことは言うまでもない。

参加者全員がダンスに向ける想いを再確認しながら始まったラウンド6。今回ゲストダンサージャッジを務めたSAM氏も「みんな命を削って練習し、試合に臨んでいると思う。今回は特にストレートにダンスで見せてくるチームが多かった」と言っていた通り、ことさらダンサブルさ際立つ戦いとなった。そしてこの熱きラウンドを制したのは、ぶれずにブレイキンスタイルを貫きつづけるKOSE 8ROCKS。NYを舞台にヒップホップの黎明期を描いた映画『Wild Style』(1982)にオマージュを捧げるべく「レペゼンDリーグ」の心意気で制作されたというドラマティックなナンバーが、東京ガーデンシアターの舞台で鮮やかに展開された。

(※注 レぺゼンとは、代表する、象徴するといった意味の英語「represent」が、日本のヒップホップ界で独自に進化して出来た造語)

■8ROCKSが表現したヒップホップの原点

KOSE 8ROCKS(C)D.LEAGUE 21-22

8ROCKSのテーマとなった『Wild Style』は、ヒップホップ文化のオールドスクールとして、ラッパーやブレイクダンサーの間ではバイブルとも呼ばれている映画だ。ニューヨークの街角や地下鉄にスプレーでグラフィティを書き、ブレイクダンスを踊ることで、今をどうにか生きる若者たちのリアルな姿が切り取られており、当時の息遣いを感じることが出来る貴重な文化的遺産とも言われている。

そんな背景をも充分に理解して臨んだという8ROCKSは、小道具のスプレー缶を巧みに振り付けに組み込みながら、Ryospinが楽曲内のスプレー音に合わせて行った、思わず息をのむ大迫力のヘッドスライドをはじめとする数々のパワームーブがメンバー全員から次々と繰り出され、ブレイキンの真髄を極めた圧巻の踊りを展開。観る者を、束の間ニューヨーク・ブロンクスの街角へといざない、まさに映画のワンシーンを見ているかのようなストーリー性の高いナンバーで、80年代から今に続くヒップホップのレガシーを届けてくれた。

これまでのラウンドでも、8ROCKSは踊りと技の難易度、観る者を夢中にさせる迫力で毎回オーディエンスからの人気も高く、素晴らしいナンバーが多かったのだが、なかなか得点に結びつかずトップに躍り出ることが出来ず苦戦していた。しかし、今回は踊りに加え、ヒップホップの歴史や原風景を伴うストーリー性の厚みや、エンディングでリアルなグラフティシーンとして小道具のスプレーを印象深く使って立ち去る余韻を残し、観る者の心を掴んだ。結果、ジャッジポイント最高点且つ、最後に加算されるオーディエンスポイントの集計でも20点中19点という高得点を獲得し、見事今シーズン初の優勝を勝ち取った。

試合後の勝者インタビューでも、ディレクター兼リーダーのISSEIが「やっと優勝できました! ヒップホップの原点に戻った作品で1位を取れて本当によかった。そしてここからまた、色んな顔を持つ8ROCKSを見せていきます」と会心の笑みで語っていたが、この優勝でさらに自信をつけて、ブレイキンという軸を貫きながら、また違った作風への挑戦を届けてくれることだろう。自作はどんな作品が飛び出してくるのか、本当に楽しみだ。

■その他のチームも圧巻のパフォーマンス

そして、このラウンド6もまた、全チーム本当に素晴らしいナンバーの目白押しだったので触れておきたい。

2位は、クランプとヒップホップを融合した「スワッグバッグ」で、更なるパワーと男気を“突き上げ”て魅了したFULLCAST RAISERZ。僅か0,5ポイント差で惜しくも優勝を逃したが、オーディエンスポイントは満点の20点。変わらぬ人気の強さを見せつけた。3位は、「メタバースからDリーグという現実空間にやってきたアバター集団」をコンセプトに、アンドロイドと人間の狭間にいるものとして、まるでコンピューターで制御されたような斬新かつ緻密な踊りで興奮を誘ったSEGA SAMMY LUX。その場をLUX色に染めてしまう磁場は変わらず圧巻だ。続く4位は、ボリューミー且つ独自の艶やかな世界観をさらに濃厚なものに昇華させ、観る者を惹き付けてやまないBenefit one MONOLIZ。今シーズンからじわじわと上位に食い込むようになってきたので今後の躍進にも注目したい。

そして5位は、太古からダンスが担ってきた人類のプリミティブな衝動を神秘的な儀式に落とし込んだ今回のナンバーはもちろん、毎ラウンド、異なる趣向で劇的な踊りを展開し、存在感をどんどん強くしているLIFULL ALT-RHYTHM。彼らの醸し出す独特の空気は、今後ますます観客を魅了し確実にファンが増えてゆくに違いない。そして6位は、とにかくダンサブルで愉しく、見ている自分も踊りたくなってしまうSEPTENI RAPTURES。ゲストジャッジのSAM氏も「ダンスのストレートさに好感がもてて好きなチーム」と語っていたが、見ていて、なんだか嬉しくなってしまう、楽しくさせてしまうという特徴は、表現者として得難い、とても大事な資質であろう。

LIFULL ALT-RHYTHM(C)D.LEAGUE 21-22

7位はCyberAgent Legit。フォーメーションの展開もよく、ダンスも間違いなく上手いチームだ。だが、文學で言うところのいわゆる「破綻がない」という点がネックなのか、無難に上手くこなし過ぎなのか、今一つ得点に結びつかなかった。だが今後“化ける”可能性を大いに秘めたチームだと感じさせる。そして、いつものアイドル調の甘い可愛さからすこし抜け出し“ロックなアイムーン”を打ち出したUSEN-NEXT I’moonは、いつもより力強く、より弾けた踊りで得意の高いシンクロ率を生かした華麗なナンバーが展開されたが、ジャッジでは「もう少し斬新さが欲しかった」等の評価となり8位となった。

USEN-NEXT I’moon(C)D.LEAGUE 21-22

勝負の世界ゆえ、順位は必ずついて回るのは致し方ないが、観る側にとっては各チームの戦い方も楽しみの一つであり、本当にますます見応えと、心に刺さる余韻の深さ、そして、各ナンバーの強度が増すばかりのDリーグ。今回欠場となったチームは、リーグの規定によりラウンド6では最下位(11位)の扱いとなり、チャンピオンシップポイントは「1ポイント」が付与。そしてオーディエンスポイントは無効票の扱いとなるという。コロナという思わぬ伏兵に苦しむことになった3チームの心境を思うと胸が痛むが、観客は再び全11チームが揃った闘いが観られることを心から願っているはずだ。

厳しい状況化ではあるが、今はまだ12ラウンドの折り返し地点、ここから巻き返すことは十分に可能なタイミングでもある。困難を乗り越え、次回のラウンド7は、再び個性あふれる全11チームの華麗なる闘いが繰り広げられることを神に祈り、時を待ちたい。

◆THE GREAT HEART of“8ROCKS” ブレイキン世界一のISSEI率いる熱き魂

◆日本中の「ダンサー」に幸せをもたらすDリーグ 魂までが踊りだす喜びがここにある

◆″ダンスの救世主″カリスマカンタローかく語りき  ダンサーの本質的な幸せと権利

著者プロフィール

Naomi Ogawa Ross●クリエイティブ・ディレクター、ライター『CREA Traveller』『週刊文春』のファッション&ライフスタイル・ディレクター、『文學界』の文藝編集者など、長年多岐に亘る雑誌メディア業に従事。宮古島ハイビスカス産業や再生可能エネルギー業界のクリエイティブ・ディレクターとしても活躍中。齢3歳で、松竹で歌舞伎プロデューサーをしていた亡父の導きのもと尾上流家元に日舞を習い始めた時からサルサに嵌る現在まで、心の本業はダンサー

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