【プロ野球】日本シリーズ、ヤクルトの敗因か… 試合前のシートノックを2試合のみの謎 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【プロ野球】日本シリーズ、ヤクルトの敗因か… 試合前のシートノックを2試合のみの謎

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【プロ野球】日本シリーズ、ヤクルトの敗因か… 試合前のシートノックを2試合のみの謎
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激闘の日本シリーズが終わった。

両リーグのチャンピオン同士なので、そう簡単に思うように相手を倒すことはできないのは当然で、紙一重の戦いだった。投手力や打力が拮抗していると、ミスが出たほうが負けとはちまたでいわれるとおりである。

報道によると、東京ヤクルト・スワローズは第1戦と第3戦しか試合前のシートノックを行わなかったという。解説に訪れた球界が「シートノックは必ずやるべき。この大一番で疎かにするのはありえない」と苦言を呈したということだ。

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■日本において大切にされてきたシートノック

大一番で疎かにするわけではないと思うので、疲労を考慮してなどの意図があったのかもしれず、この点は高津臣吾監督に聞いてみたいところだ。相手の選手がどのくらいのフットワークや強肩の持ち主かを知るうえでも重要な数分間なので、自軍の「手の内」をオリックス・バファローズに見せたくないという判断もあったのかもしれない。ただ、映像も含めて情報は十分スコアラーなどから入っていると察せられる。

私は1980年代に巨人戦を見に行って、試合前にウォーレン・クロマティがシートノックに入ってないのに気がついて驚いたことがある。それ以後この点には興味があり、日米野球などでは試合前のシートノックを日本チームだけが行いMLBオールスターは打撃練習のみで試合に入ることも気にとめていた。

小さいころから日本の学生野球で試合前のシートノックを経験した野手にとっては、これはOB評論家が指摘するとおり大変大切な儀式だと思う。7分から10分程度の短い時間で選手が打球処理をするのはひとりあたり10球もないと思う。今さらこのノックで守備力を向上させようというものではない。試合に向けて選手のテンションをピークにもっていくためのものだと考える。

日本ハム・ファイターズを日本一に導いたトレイ・ヒルマン監督は、アメリカにないこの習慣を見て、その重要性を認識したようだ。アメリカに帰国後ロイヤルズの監督に就任して試合前にこのシートノックを実施したが選手の反発を買ったのか、すぐにやめたといわれている。

大リーグ経験がある高津監督もアメリカでは試合前シートノックがないことを知っているはずだ。もしかすると「やらなければやらないで余計な疲労をためずにすむ」という判断だったのではないだろうか。海外野球の経験がない監督ならシートノックなしで試合に臨むという選択肢など頭の片隅にもなかったのではないだろうか。

■「心身の準備」であるキャッチボール

日本で学生野球を経験してきた選手たちはどう思ったか。

4つしか負けられない日本シリーズにおいて、3試合がエラーが直接の敗因になった。解説者からそう指摘されてもしかたない。投手はシートノックには入らないのだし、監督の意図もわかる。これが痛恨の失策の原因だというつもりはまったくない。

ただ、子供のころからこれを習慣として来た日本人選手たちの中には、「試合前にノックを受けておきたいが、監督の指示だからしかたない」と思った選手もひとりやふたりはいたのではないだろうか。

これと同様の「心身の準備」が投手のベンチ前のキャッチボールである。大リーグでも国際試合でもブルペン以外で投手が投げることは禁止されている。2006年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でダルビッシュ有がダッグアウトの中で壁にボールをぶつけて準備をしていたのが印象に残る。日本で育った投手は自軍の攻撃で二死になると、必ずダッグアウト前でキャッチボールをする。指名打者でない野球では打者や走者になってこれができないときはいやなものだ。

しかし、気にしなければ気にならないものかもしれない。大リーグで数年を過ごした伊良部秀輝は阪神タイガース時代にはこれをやっていなかった。

コリジョンルールとか、リクエスト制度とか、申告敬遠など、アメリカの変更に倣ってきたシステムも、このダッグアウト前のキャッチボール禁止事項だけはNPBは追従していない。

日本の学生野球では、コリジョンを適用する必要があるような激突は以前からなかったので、この点の変化はないしリクエストも取り入れていない。しかし、申告敬遠は導入し、試合中ブルペン以外でキャッチボールを禁止することも学生野球は受けて入れている。日本の学生野球の投手たちはどう思っているのだろう。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。

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