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【スポーツビジネスを読む】男子の魅力を伝える一般社団法人日本ゴルフツアー機構・青木功会長 前編 「攻めのプレーが未来を変える」

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【スポーツビジネスを読む】男子の魅力を伝える一般社団法人日本ゴルフツアー機構・青木功会長 前編 「攻めのプレーが未来を変える」
  • 【スポーツビジネスを読む】男子の魅力を伝える一般社団法人日本ゴルフツアー機構・青木功会長 前編 「攻めのプレーが未来を変える」

一般社団法人日本ゴルフツアー機構(JGTO)が主催する「For The Players By The Players」は6日から9日まで群馬県「THE RAYSUM」で初開催され、単独首位からスタートした小林伸太郎が5バーディー2ボギーで8ポイントを獲得、トータル41ポイントで悲願のツアー初優勝。地元・群馬出身の小林はプロ14年目にして、うれしい勝利を挙げた。

本大会は既存のストローク数で競う方式とは異なり「ステーブルフォード方式」と呼ばれるポイント制で争われた。ステーブルフォード方式とはバーディーやパーなどをポイント換算、その総合計点により順位を競うシステム。アルバトロス=8ポイント、イーグル=5ポイント、バーディー=2ポイント、パー=0ポイント、ボギー=マイナス1ポイント、ダブルボギー以上=マイナス3ポイントと設定されており、ダブルボギー以上の場合は、プレーを取りやめることすらできる。

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■ステーブルフォード方式による攻めるゴルフ

こうした従来のスコア方式とは異なる新しい大会が生まれた背景には、これまで長らく続いてきた日本ゴルフ界が抱える問題に切り込む意味があった。多くの関係者がご存じの通り、JGTOは男子トーナメントを管理、統括する団体であって大会の主催者ではない。大会はスポンサーが主催する。一例を挙げれば「パナソニックオープンゴルフチャンピオンシップ」、いわゆるパナソニックオープンの主催者は、パナソニックグループ株式会社毎日放送。共催はJGTO、後援は公益財団法人日本ゴルフ協会JGA)、兵庫県、小野市、三木市となっている。主催であるパナソニック、毎日放送が予算を計上し、それを執行することで大会を開催する。こうした大会がシーズンを通して繰り広げられ、トーナメントが形成されている。

充実した練習場も備える「THE RAYSUM」 撮影:SPREAD編集部

もちろんこうした従来の開催形式により男女ともに、日本のゴルフ界は支えられているのだが、ひとつ問題が残る。スポンサー企業の業績により、大会が消滅するケースは当然発生する。2008年、御手洗冨士夫会長の肝いりでスタートした「キヤノンオープン」、また「レクサス」のブランドを冠にした「ザ・チャンピオンシップ・バイ・レクサス(レクサス選手権)」はリーマン・ショックの余波を受け、それぞれわずか4年、3年で消滅となった。実は先に挙げたパナソニックオープンも、これら同様2008年にスタートし6年間開催されたが2013年にいったん、消滅。2016年に復活した経緯がある。

パナソニックオープン復活の年に就任した青木功JGTO会長は、この点について長らく思いを巡らせてきた。2020年初頭、新型コロナウイルスが日本をも席巻、各種トーナメントはキャンセルを余儀なくされた。トーナメントがキャンセルされれば、主催者も次々と手を引いてしまう。この危機から新たな大会への構想が生まれた。それが今回、初開催となった「For The Players By The Players」だ。

青木会長は「一社スポンサーにおんぶにだっこで大会を運営してもらうのには、あまりにも景気に左右され過ぎる。これからは自分たちの魅力、男子プロの魅力を自分たちで発信できる場を作っていかなければならない。時松隆光さん、池田勇太さん…選手会会長たちとも話し合って、これを解決する大会を自分たちで作っていこう」と腹を決めたという。そこでたまたま、株式会社レーサム田中剛会長(当時)と意気投合、2008年から「レーサムゴルフ&スパリゾート」と名称を変更していたゴルフコース、現「THE RAYSUM」での10年間の開催が決定したという。年間6大会しか実施できなかった2020年に生まれた構想は、22年10月にこうして結実した。

スポーツビジネスとして冷静に振り返ると確かにプロのゴルフトーナメントは不思議な成り立ちだ。プロ野球であれJリーグであれ、まずは試合が行われ、その試合にファンが集まってくる。ファンがいるからこそチームにスポンサーが集まり、スタジアムにも冠がつく。しかし、ゴルフは正反対だ。まずスポンサーありきで大会を開催、そこに選手が参加し、大会があるのでファンが集まってくる構図となっている。このフローを他のスポーツと同じ構図にするという志高き挑戦なのだ。同会長は「これが伸びてくればゴルフの魅力は高まってくる。だが、これを理解してもらうにも時間がかかる。息の長い話だよ。結果で見せていくしかない」と決意を新たにする。

一社提供に頼らないJGTO主催の本大会が男子ゴルフ界を変える 撮影:SPREAD編集部

パナソニック、トヨタ、キヤノンという最大手企業による大会がそれぞれ数年で消えてしまったショックはゴルフ界を揺るがした。この原因を模索する時期も長く続いた。大会内容に問題があるのか、機構の対応に不備があったのか、選手の対応はどうだったのか。一部では男子選手のホスピタリティに問題があったという報道もあった。こうした選手の姿勢は、JGTOが青木体制となり改善されているとも聞く。「コロナも何年続くか見当もつかなかった」、そんな中「いかにサステナブルな大会を生み出すか」という回答のひとつが、JGTO主催による「For The Players By The Players」だ。

■「男子ゴルフの魅力をどうプレゼンテーションするか」

スポンサーに頼らずJGTO主催という点以外に、この大会では従来のスコア方式と異なる「ステーブルフォード方式」を採用。19世紀末、英国のフランク・バーニー・ゴートン・ステーブルフォード博士によって編み出されたとされるが、この方式を採用するプロの大会はそう多くはない。

本方式採用の意図について、青木会長は「男子ゴルフの魅力をどうプレゼンテーションしていくのか。パワーのある男子ゴルフの魅力を伝えるには適しているでしょう。新たな試みなので、選手もリフレッシュしたように思うよ。ボギーを叩いても、バーディー獲ればプラスマイナス0ではなく、むしろ1ポイント儲かる。闘争心を掻き立てるゲーム方式が、選手にとって、すごくアグレッシブに攻めていく、違った意味のファイト満々なゴルフになっている。攻めるゴルフをしたいけども、ボギーを恐れて心理的にそれができない選手も多い。すぐに切り替えができるのが、ゲームプラン、モチベーションを掻き立てているよね」とストロークを費やす酷いホールがあったとしても、すぐに挽回できる本方式のメリットを訴える。

「とにかく、選手たちの表情がすごく明るい。『やった』という歓喜が表れている。ストロークプレーだと、この表情は出ないんだよ。『全部の試合、この方式で』と言い出す選手もいるぐらい。選手も知識としてこのポイントシステムを知ってはいたでしょうけども、これまでわかってはいなかったでしょうね。ボギーが怖くないゴルフになる。とにかく攻める。ここ(THE RAYSUM)の1番ホール(最長373ヤード)も、みなワンオンを目指す。パワーのある男子ゴルフの魅力を伝えるには適している。『あのプロは、あそこからあそこまで打つのか』と見ているギャラリーの人にアピールできる。男子のパワーはすごい。その魅力は伝えたい」。

終始にこやかに穏やかにしかし熱弁を振るう青木功会長 撮影:SPREAD編集部

スポーツは東京五輪の延期に象徴されるよう新型コロナウイルスに席巻されてきた。もちろん、ゴルフもその例に漏れない。会長は「コロナのせいで自粛しなきゃいけない、ゴルフも『テレビで見ればいいか』みたいに、人間に億劫さを教えてしまった気がするよ。もう一回、18年、19年あたりの状況に戻さないと」とその焦燥感をあらわにする。

一方、この「攻めのゴルフ」の象徴たり得る本大会の開催が、低迷する男子ゴルフ人気に対するカンフル剤となる自信を深めたようだ。「現場に来ないと、そのすごさはわからないと思う。ぜひ足を運んでほしい。やはり、ファンに見せないといけない。これを見ればゴルフ人気も上がる」。

男子ゴルフのトーナメントは18ホールの戦いが4日間にわたり繰り広げられる。長丁場だからこそ生まれるドラマの数々がある。コースマネジメント、戦略、ピンの位置の変化、スタミナ……勝敗を分ける要素は実にさまざまだ。

日本人男子として米ツアー初優勝を果たした青木会長でさえも「せっかくトップなんだから4日目がキャンセルにならないか」と思ったことがあるという。「もちろん、口には出したことはないけどね。だが、そう思った時点で負けが決まってるみたいなもんだよ」と心理戦の深さも語る。会長自身、逆転で負けた経験も、逆転で勝った経験ももちろん豊富だ。だが、最後の18番ホールで勝負がかかった際、相手のパットの際に「よし、はずせ!」と思った瞬間、「もうプレーオフでの負けも決まったようなもん。気持ちの整理が逆なんだよ」と明かす。「『外してくれたら勝てる』と、最初から他力本願、人の失敗を待っている時点でダメだよ」と攻めのゴルフの心構えをレジェンドは知る。

会長が現役時代、リーダーでホールアウトしクラブハウスに帰ってきてからも絶対にグラブを脱がなかったという逸話がある。これは「ずっと戦闘態勢を維持していたからだ」という。「やっぱり相手があっての自分なんだから。相手が戦っている間、自分も最後の最後まで戦ってなきゃダメだよ。結果が出るまでね。その攻めの姿勢をずっと出してほしい、それがステーブルフォード方式を決断した理由。その気持ちでやってくれれば、ギャラリーをひきつけるよ。攻める気持ちが、ゴルフを変える。『なんとかパーでしのごうじゃなくて、バーディー獲ればいい!』に代わる。攻める姿勢が他の大会にも影響してくるかもしれないよ」。

パワーあふれる男子の攻めのゴルフにより、プロ14年目、地元・群馬出身の小林伸太郎が初優勝を果たしたのは、その効能のひとつだろう。

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著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

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