【ウインブルドン】初制覇のエレナ・リバキナ 世界2位を攻略した23歳の真価 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【ウインブルドン】初制覇のエレナ・リバキナ 世界2位を攻略した23歳の真価

新着 ビジネス
【ウインブルドン】初制覇のエレナ・リバキナ 世界2位を攻略した23歳の真価
  • 【ウインブルドン】初制覇のエレナ・リバキナ 世界2位を攻略した23歳の真価

ボールがサイドラインを割ったとき、控え目に拳を握り締めては僅かな笑みを見せた。

エレナ・リバキナ、23歳。

センターコート100周年という記念すべき大会で母国カザフスタンウィンブルドン初制覇という快挙をもたらした。四大大会での最高成績は昨年全仏でのベスト8。日本のテニスファンには東京五輪の4位の選手として印象に残っているだろうか。184センチから放たれるサービスは大坂なおみの破壊力と似たものがある。

「試合前も試合中も、とっても緊張していました」。

その言葉とは裏腹に決勝では、191キロのサービスウィナーから始まった。

◆【ウインブルドン】世界最古の大会、土居美咲、西岡良仁、ダニエル太郎、本玉真唯に期待 本命はあの選手

23位のリバキナは2位のオンス・ジャバー(チュニジア)に対し1球目から全力でぶつかった。アラブ系女子選手として幾つもの記録を更新しているオンスは、チェンジ・オブ・ペースに満ちあふれたテニスをする。人々の胸をときめかす正真正銘のエンターテイナーだ。そのマジックなようなタッチセンスは、リバキナのビッグサーブとビッグフォアの派手なテニスを上手く交わし、ドロップを打ってはパッシングでポイントをものにし続けた。

女王のイガ・シフィオンテク(ポーランド)が3回戦で姿を消してから、観客の期待は一気にオンスに向けられていた。その熱意を受け取るかのように序盤からアドレナリンを爆発させるアラブの人気者は、積極的にリターンを叩き込んではリバキナを前方に走らせミスを誘った。その効果はてきめんでリバキナのアンフォーストエラーは17本、試合の流れを大きく傾かせ第1セットを6-3で先取。

チュニジアのスターは、ビッグサーバーのファーストサーブの確率が58%と落ちている間にリターンから猛攻撃を仕掛ける。だがポツリポツリと出てきたミスが彼女にフラストレーションを与えだしていたのは確かだった。

■「技の玉手箱」に対するビッグサーバーの戦い

その一方で2回戦のビアンカ・アンドレースク(カナダ)、準決勝でシモナ・ハレプ(ルーマニア)と過去にグランドスラムを制した2人を破ってきた23歳は、自身に過度な緊張をかけすぎることなく武器であるサービスに集中し始めていた。幾度のデュースを切り抜けては、サービスエースでゲームを締める。53%から73%までに上がったファーストサーブでのポイント獲得率は、まさに戦局の変化を象徴するものだった。また過去最高といっていいほどのディフェンス能力の高さは、この試合を制するための鍵だった。オンスが放つ前後への繊細なタッチショットを1度も見送ることなくボールを追いかけた。

これで「技の玉手箱」とさえ讃えられるオンスにも戸惑いが生じ始める。ビッグショットを誇るリバキナから主導権を奪うためにもベースラインから彼女を引き離すことが重要だった。だがテクニシャンの打つ場所を把握しだしたリバキナは、184センチの長身に恵まれたその手で何度も鋭角のクロスへと切り返し観客の大喝采を浴びた。

その快走はゲームの流れを逆転劇へと向かわせる。オンスの鮮やかなチェンジ・オブ・ペースをバックハンドのクロスで切り裂いては、確実に攻め入れる場所を選ぶためラリーにも時間を費やした。これまでであれば、強打が武器である故に勝負所で攻め急ぐことがよく見られたが、今回は一味違った。今までよりもはるかに我慢強く、そして迷う姿がなかった。

第3セット3-2リードで迎えたサービスゲームでは0-40のビハインド。チュニジアのファイターが息を吹き返す雰囲気が漂うセンターコートで、リバキナは焦ることなく5連続でポイント取得に成功。逆にオンスのすべての気力を奪い去った。

終わってみれば3-6、6-2、6-2と芝で11連勝を続けていたオンスを完全にコンプリートしてみせた。オンスの出来が悪かったわけではない。リバキナのテニスが彼女を超えたのだ。

「信じられないほどうれしいです。ウィンブルドンで優勝なんて最高です」。

ヴィーナス・ローズウォーター・ディッシュを胸に抱き、また微かに口角を上げては笑みを見せる。この控え目な23歳は、ウィンブルドン初制覇の栄誉とともに、カザフスタンからテニス界に新しい風を呼び込んだ。

◆ラファエル・ナダル、レジェンド対決の決め手は驚異的な“集中力”「ノバクとの戦いは常に特別」

◆パリから始まるイガとココのライバリー シフィオンテクが2度目の優勝

◆小さな巨人・西岡良仁がつかんだ「負けないテニス」からの復調

著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。

《SPREAD》
page top