【スポーツビジネスを読む】公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ島田慎二チェアマン 中編 千葉ジェッツの奇跡、その内幕 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツビジネスを読む】公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ島田慎二チェアマン 中編 千葉ジェッツの奇跡、その内幕

新着 ビジネス
【スポーツビジネスを読む】公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ島田慎二チェアマン 中編 千葉ジェッツの奇跡、その内幕
  • 【スポーツビジネスを読む】公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ島田慎二チェアマン 中編 千葉ジェッツの奇跡、その内幕

公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグBリーグ島田慎二チェアマンは、新入社員として旅行会社を就職先に選んだほどの旅行好き。千葉ジェッツの成長とその成功を見届け、会長職に就いた頃、やりたかったのは夢の世界旅行だった。

◆【スポーツビジネスを読む】記事一覧

■孤立無援からのスタート

さぁ、旅に出ようとエジプトの予約とか始めていたんですよ」。一寸先は闇……という表現が正しいのだろうか。世界は、しかしこの100年の間に直面したことがないような新型ウイルスの猛威に席捲されることとなり、海外旅行などに出かけられる世相ではなくなった。

さらにその余波によりBリーグは2020年3月、シーズン途中で残り全試合の中止に追い込まれる。そんな最中、15年からチェアマンを務めていた大河さん(大河正明・現びわこ成蹊スポーツ大学学長)が任期途中で退くと発表。チェアマン選考ワーキンググループで島田さんが選任された。あくまでコンサルだけの気持ちでバスケ界に携わり始めた人物が20年7月、Bリーグを牽引するチェアマン就任となった。

千葉ジェッツ時代を回想する島田慎二さん(撮影:SPREAD編集部)

明治維新は、日本にとって大転換期だった。だが、「黒船来航」による外圧によらねば、日本という国は変わることがなかったとも言われる。第二次世界大戦における敗戦もまた、日本に変革を促した凄まじい外圧だった。いつしか日本は常に外圧でしか、変革しえない国として「黒船」さえも象徴的なキーワードに昇華している。

日本バスケットボール界も、しかり。bjリーグNBL、2リーグ分裂状態を解消しない限り、国際バスケットボール連盟FIBA)から「国際大会への日本代表の出場は禁ずる」という強いメッセージが発信され、リーグの統合へと動き出した。統合に向けて動いたサッカー界の重鎮である川淵三郎さん、そのバトンを受け取った日本バスケットボール協会三屋裕子会長にBリーグの大河・前チェアマン、そして、島田さんも含めその誰もが元々はバスケ界の人材ではない。島田さん自身もバスケ界にとっては言わば「黒船」的存在だったことになる。

外圧によってしか変革しない日本社会の構造を、島田さんはこう理解していると語ってくれた。「歴史が長ければ長いほど、それを変えづらい空気に支配されてしまう。問題の本質があったとしても、その歴史ゆえに変えて行くことは難しくなります。最大の問題は既得権益。変わらないことを是とする。変わらないことを是とすることに、浸かってしまう。ゆでガエル現象ですよね」。

島田さん自身、当時はバスケ界にインパクトを与えられるようなポジションにいたわけでもなかった。当時、2つに分裂していたリーグについて、バスケットボール界の面々と会話をするたびに「海外にもリーグが2つ、3つある国は多い、当たり前なんだよ」と返された。

「当時のバスケ界ではリーグ分裂も正論だったのかもしれません。しかし、それをヨシとして小さく収まってしまう状況には私自身は納得できていませんでした。協会の後ろ盾がある強いリーグと、地域密着型リーグ、その両方を成り立たせるべきだと強く思いました。(クラブが)強くて、お客さんが入って、盛り上がればいいに決まっています。なぜ『強ければいい』もしくは『盛り上がっていればいい』という一択になるのかが、まったく理解できなかった」。そこで島田さんの正義感に火がついてしまったと語る。

その想いを周囲に発信しつつ、クラブをbjリーグからNBLへと移籍させる施策に打って出た。「bjリーグからNBLに移籍したのは千葉ジェッツだけでしたので、孤立無援からのスタートでした。もはや、結果を出すしか残された道はありませんでした。競技としても勝つ、興行としても成功させる。もう決めた、覚悟は決まっていました」。

■「理念実現型、パッション先行型、猪突猛進、無我夢中」

島田さんはこの頃の記憶がほとんどないという。「無我夢中でした。『こうした戦略で』とか言っている場合じゃなかった。もちろん、ロジックがなさ過ぎてもダメですが、理念実現型、パッション先行型。結果を出すしかないと猪突猛進です」。

そして時折、熱弁を振るう島田慎二チェアマン(撮影:SPREAD編集部)

NBLにクラブを移すという「怖いもの知らず」の理念実行により、クラブも選手もステークホルダーもファンも同じ方向を目指す推進力となった。クラブの立ち上げから応援してくれた地域住民、ビジネス的に支援してくれていたパートナー(スポンサー)企業、ファンの思いが島田さんをさらに後押ししてくれた。

もちろん誰にでも成し遂げられる事業ではなかっただろう。しかし、スポーツビジネスを生業とする方、いやビジネスに挑み続ける方にとっては、以下の島田さんの言葉は参考になると思われる。

「小さなバスケットボール界ではありますが『変えなきゃ』という思いでbjリーグを飛び出しました。とにかく結果を出すしかない。大きな組織では、結果を出す前に、そのポジションにたどり着けなかったりして、大きなうねりを作り出しにくいかもしれません。しかし、たまたま当時小さなクラブだったこともあって、みなさんからノーマークでした(笑)。スティルス系かもしれません。ただ、結果はわかりやすいですよね。まずは競技として勝つ。事業的にはお客さんをたくさん入れる。これがすべてじゃないですか。いいクラブを作るにはいい選手をとって、選手から信頼されるいいヘッドコーチを連れて、強いクラブをつくる。地域の方に応援してもらえるよう企業努力する。ポイントは明快だと思います」。

振り返ってみれば、スポーツ界は、結果というものが非常にわかりやすい業界だろう。さらに、その結果を世に伝えやすい。

もちろん「結果を出す」と口にするのは簡単だ。実際、Bリーグは現在B1とB2を合わせて全国に38クラブあるが、千葉ジェッツのように奇跡的とも言える結果を示したクラブはまだそう多くはないのではないだろうか。島田さんの手腕こそが、チェアマンである自身を生み出した背景である点は想像に難くない。

◆【スポーツビジネスを読む】公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ島田慎二チェアマン 後編 Bリーグの将来構想とは何なのか

◆【スポーツビジネスを読む】公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ島田慎二チェアマン 前編 「なんでやねん」からの代表理事CEO就任

◆【スポーツビジネスを読む】バスケ版「チャンピオンズリーグ」の仕掛け人 東アジアスーパーリーグ、マット・ベイヤーCEO 前編 EASL実現までの道のり

著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

《SPREAD》
page top