【Bリーグ】広島ドラゴンフライズ移籍の辻直人が川崎ブレイブサンダース戦で痛感した古巣・旧友たちの「壁」 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【Bリーグ】広島ドラゴンフライズ移籍の辻直人が川崎ブレイブサンダース戦で痛感した古巣・旧友たちの「壁」

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【Bリーグ】広島ドラゴンフライズ移籍の辻直人が川崎ブレイブサンダース戦で痛感した古巣・旧友たちの「壁」
  • 【Bリーグ】広島ドラゴンフライズ移籍の辻直人が川崎ブレイブサンダース戦で痛感した古巣・旧友たちの「壁」

広島ドラゴンフライズ背番号3、辻直人

大阪府出身の32歳、京都の強豪校洛南高等学校卒業後、青山学院大学へと進学。2012年に東芝ブレイブサンダース(現川崎ブレイブサンダース)に入団し日本バスケットボールリーグJBL)新人王を獲得。2013-14シーズンには見事優勝を果たしMVPにも選出された。日本代表としても活躍し、Bリーグを代表する選手の一人である。

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■待望だった古巣・川崎と対戦

そんな辻が2021-22シーズン、活躍の場を広島ドラゴンフライズへと移した。入団以降東芝、川崎一筋だった辻の移籍は多くのファンを大変驚かせた。

そして4月16日17日、ついに古巣川崎との初対戦。GAME1で辻は14得点を挙げ6アシストを記録するなど、自身も納得の気合いの入ったプレーを見せる。残念ながら広島は81-89で敗れたものの連戦後、川崎の篠山竜青に「やはりいいプレーヤーだなと思った」と言わしめるほどだった。ただしGAME2は思い通りのプレーが出来ず、チームも77-106と大敗を喫した。その試合後、辻に話を聞くことができた。

インタビューを受ける辻直人 撮影:Shinji Fujiwara

辻は「川崎は一枚も二枚も上手だった」と試合後に悔やんだ。試合を終えた辻は「GAME1は1分1秒くらいは楽しめたが、GAME2では自分のプレーができなかった」と悔やみつつ、「久し振りに友達に会ったような懐かしさがあった。敵として正々堂々と戦えた」と振り返った。

2月3月と川崎戦が近付くにつれ「ドキドキしていた。けちょんけちょんにやられるのではと不安もあったが、4月に入ってからは楽しみでしかなかった」と待ち望んだ対戦。川崎のキャプテン藤井祐眞も、先立って「試合でマッチアップをしたら0点に抑える」と意気込みを語るなど再会を楽しみにしていた。川崎時代、何度も日々の練習からしのぎを削りあった。「川崎は練習から競争が激しい。常に試合に近いレベルの練習を行う」からこそ、辻には懐かしさがそこにはあった。

藤井がマッチアップを楽しみにしていたことを伝えると「GAME2では得点したぞと本人に伝えておいて欲しい」と笑った。藤井だけでなく、篠山や、東芝同期入団の長谷川技などとコート上で本気で向き合えたことは辻にとっても楽しく貴重な時間だった。

試合前に元チームメートと談笑する辻直人 撮影:Shinji Fujiwara

対戦を終えた川崎の篠山にも話を聞くことができたが「ひと言では言い表せない。楽しい、寂しい、様々な感情があり新鮮だった」と振り返り、バスケットLIVEで観戦していたという自身の4歳の息子さんが「やっぱり辻選手とは戦ってほしくない」と話していたことも明かしてくれた。

■元チームメートも「本当に広島に行ったんだ」と実感

今シーズン、川崎から広島へは辻だけでなく青木保憲も共に移籍をした。この連戦を迎える前、「辻かぁ、ヤス(青木)かぁという気持ちだった」と普段の試合とは違う感覚を持ちながら広島入りをした。篠山にとって辻は9シーズンと長きに渡り共に戦った仲間。「ユニフォームの色が変わってもまだ見慣れなかった」が、コート上で向き合った瞬間「あぁ、本当に広島に行ったんだなと実感していた」という。

それはまさに「大きな決断」だった。「自分を変えるには環境を変えるしかない」と覚悟を持ち移籍を決めた。広島に移籍が決まったのは、昨シーズン中のことだった。「昨シーズン、広島は最下位と苦しんでいた。東芝入団当時も最下位でそこから這い上がった。当時と同じ思いを持って移籍したが、そう簡単にはいかなかった」と振り返る今シーズン。

背中でチームを牽引 エース辻直人のシュート 撮影:Shinji Fujiwara

開幕当初は「自分がチームを『引っ張るのだ』と全面に出しプレーしていた」が、シーズンが進めば、調子の波も生まれるし対策もされる。振り返ってみると川崎時代「そんな時でもみんなが同じ方向を向いていた」ことに気が付いた。だからこそ自分のプレーに集中するエゴを出すこともできた。今節も、GAME1は辻の活躍もあり広島がリードした時間があった。それでも「川崎には追い上げムードの中から勝ち切る力もあるし、GAME2では点差が開けば突き放す力もある。対戦して改めてそこには作り上げられた文化があり、核となる部分があるのだ」と感じたという。

では、その文化をどう作り上げていけばよいのか。

常に試合と変わりなく質を高め、激しい競争心を持ち、全員が高い目標に向けて邁進する。辻は「日頃の練習や雰囲気作りから変えていくことが重要だ。川崎で学んだことは大きかった」と初めて古巣と対戦し痛感した。外から見たからこそ、敵として戦ったからこそ知ることがある。

ただそれだけではなかった。どんな時も「引っ張ってくれる存在がいた」と、昨シーズンまで川崎でキャプテンを務めていた篠山のことが思い浮かんだ。チームを、プレーだけでなく言動や行動などで牽引できる存在。精神面でも支えられていた。

今後は、今以上に辻にはプレー面も精神面もチームをまとめ牽引することが求められるのだろう。川崎では絶大なキャプテンシーを持った篠山という存在に頼っていた。でもそんな姿を最も近くで見ていたからこそ、辻は「仲間に声を掛けることやそのタイミング、ヘッドコーチやクラブへの働き掛けの重要性」を誰よりも理解している。「とても大変なことを長く続けていたのか」と篠山のすごさも改めて感じた。自分やチームにとって必要なものが明確となった今、どう行動を起こすのか見守りたい。培った経験を広島という新天地で最大限に活かすことを誓う。  

■「川崎ファミリーのみなさんの温かさに触れた」

この初対戦を楽しみにしていたのはもちろん選手だけではない。

神奈川県川崎からも注目の試合へ多くのファンが足を運んだ。試合開始時間よりもかなり早く会場を訪れた観客数が、日頃の試合よりも多かったと聞いた。それほど選手たちの再会の瞬間を目撃したいと多くのファンが待ち望んでいたのだ。あるファンに話を聞くと「対戦はとても複雑だけど、どこのチームへ行っても辻選手のことは応援している大好きな選手」と語っていた。その表情や言葉から辻がどれほど愛される選手なのかが伝わる。遠方から詰め掛けたファン、変わらず声援を送るファンの姿を見て辻の奥様は涙を流していたことを教えてくれた。辻自身も負けた後にファンに手を振り挨拶をしながら「ウルウルと正直来てしまった。川崎ファミリーのみなさんの温かさに触れありがたい」と感謝を述べていた。 

試合後、記者会見での辻直人 撮影:Shinji Fujiwara

篠山は最後に「彼が選んだ決断を尊重して送り出した。川崎で培った経験や文化がある。リーダーシップを持って広島の地でバスケットボールを盛り上げてほしい」とメッセージを送っていた。元チームメートだけでなく、広島のファン、さらには東芝や川崎時代から応援を続けるファンの後押しもある。ここまで愛される選手はなかなかいない。だからこそ思いきり悔いなく挑戦を続けてほしいと思う。

「シューターのポジションは誰にも譲りたくない。ボールを持った時にファンがワクワクする選手でいたいし、シュートも打ててクリエイトもできる選手として突き詰めていきたい」と常にブレない目標がある。32歳になった今も常に向上心を持ち成長することを忘れない。この先、間違いなく広島で新たな文化を築き上げていくに違いない。残り少ないシーズン、辻が広島をどう牽引していくのか見逃せない。

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■著者プロフィール

木村英里(きむら・えり)●フリーアナウンサー、バスケットボール専門のWEBマガジン『balltrip MAGAZINE』副編集長

テレビ静岡・WOWOWを経てフリーアナウンサーに。現在は、ラジオDJ、司会、ナレーション、ライターとしても活動中。WOWOWアナウンサー時代、2014年には錦織圭選手全米オープン準優勝を現地から生中継。他NBA、リーガエスパニョーラ、EURO2012、全英オープンテニス、全米オープンテニスなどを担当。

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