【Bリーグ】川崎のファンタシースポーツ仕掛け人・藤掛直人さん 「勝っても負けても楽しめる」後編 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【Bリーグ】川崎のファンタシースポーツ仕掛け人・藤掛直人さん 「勝っても負けても楽しめる」後編

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【Bリーグ】川崎のファンタシースポーツ仕掛け人・藤掛直人さん 「勝っても負けても楽しめる」後編
  • 【Bリーグ】川崎のファンタシースポーツ仕掛け人・藤掛直人さん 「勝っても負けても楽しめる」後編

■バスケットボール観戦の新たな楽しみ

DeNA川崎ブレイブサンダースのファンタシースポーツ「PICKFIVE」の予想を、藤掛直人さんがクォーターごとに分けたのは、同時に注目する選手を増やしたくないからだったとか。「PICKFIVE」のシステムでは「Captainと各クォーターで選んだ最大2選手だけ」に注目する形になった。この各クォーターで選手を予想することが結果的に試合の展開を読むことに繋がった。

◆【前編】川崎のファンタシースポーツ仕掛け人・藤掛直人さん 「勝っても負けても楽しめる」

事業戦略マーケティング部長の藤掛直人さん(C)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

例えば終盤に競った展開なのか、川崎の大量リードの展開を予想するのかで選ぶ選手が変わる。この名古屋D戦を予想する際は、接戦を想定し、競った場面でも勝負強さを発揮する藤井祐眞選手を選んだ。これで、いちファンでありながらどことなくヘッドコーチ目線で試合を見るという新たな楽しみが加わった。

なによりも川崎だけを見て予想するより「もっと対戦相手を研究し予想したい」と欲が出てくる。次節の対戦相手がどんなチームで、所属する選手たちのプレーや近々の成績などなど知りたいことがどんどん増えてくる。このゲームが2歩3歩と川崎やバスケットボールにより深くのめり込んでいくきっかけとなることは間違いない。

■プレーヤーのスキルと運の要素のバランスが大事

このゲーム、企画段階ではスプレッドシートを使用した「手入力でスタッツを入れて、関数でスコアが出てくる擬似ゲーム」を使って検証していたそうだ。2020−21シーズンの10月ごろから数試合試しながら、どんなルールが楽しいのかなどを確認。「他社員も最初は『それは面白いのか?』という反応だったが、実際にやってもらうと『面白い!』と好感触でした」とのこと。周囲でも「どちらが勝っている」とか「誰を選んだか」と、試合の当日も控室で盛り上がってくれている姿を見て、「このゲームは人気が出る!」と確信。バスケットボールに詳しい社員が試しても「意外に難しい」という感想もあった。

ゲーム作りはプレーヤーのスキルと運の要素のバランスが大事。将棋や囲碁はスキルで楽しむもので、サイコロを振って楽しむゲームは運、麻雀はバランス型とそれぞれ。この『PICKFIVE』は運の要素を少し多めにし、誰でも楽しめるように」と意識して開発をした。バスケットボール経験者ではなくても、最近バスケットボールのファンになった方も、また現地で観戦をしたことがない方も誰でも楽しめるゲームが、こうして誕生した。

開発は2021年3月にスタート。そして5月には神奈川県川崎市とどろきアリーナで行われたホームゲームにて試験提供されたという。「突貫の開発スケジュールだった」が、アンケートの結果「96%以上の参加者から再利用意向をもらい励みになった」という。そして今年2月に正式版が提供開始となった。2022年3月1日の時点で、サービスに登録しているのは約4000人。「おかげさまで『試合をより楽しめるようになった』という、狙っていたお声をいただくこともある」と笑顔を見せた。今後、まずはゲーム機能のブラッシュアップを先行させ、その後に利用者促進を図っていく考えだ。

■一つのチームに絞った理由

ではなぜ、川崎ブレイブサンダースというクラブ単体でのゲームなのか。

「一般的なファンタジースポーツや活躍予想ゲームは複数チームから選んだ自分の最強チームを楽しむ。しかし同時に試合が複数行われているため、すべてをリアルタイムに観戦することはできず、試合後に結果や活躍の確認をすることになる。それでは試合を観戦しながら一喜一憂できない。観戦を楽しむという点では最適化されていないのではないか」と日頃から感じていた。あえて一つのチームに絞ることで「選手のシュートやリバウンドなどの活躍を、リアルタイムに熱狂しながら楽しむことができる」ゲームとなった。

藤掛さんが憂いていた、点差が離れてしまった試合でも、このゲームがあれば各選手の活躍に注目したり、自分の予想と友人の予想で競争したりと新たな楽しみの軸を生み出すことができる。どんな時でも熱狂し、楽しみ、試合に集中できるということが実現されるカラクリだ。

もちろん「川崎を日頃から応援していただいている方に楽しんで欲しい、その上でこのゲームはバスケットボールに興味がない方でも楽しめるので、PICKFIVEをきっかけにバスケットボールを好きになり観戦に来て欲しい」と期待も込める。

右下の選手が藤井選手(木村英里さんが「PICKFIVE」にて選んだ選手たち)

「様々な取り組みでファンが増え、観戦をより楽しめるようにしたい。他のクラブやスポーツへ広がり、スポーツ界が盛り上がる一助になれたら」と語る。前述の通り、この短期間でスポーツ界のSNS部門でもトップを走り、話題を多く提供してきた。しかしクラブの「認知度はまだまだ」と冷静だ。「プロ野球やサッカーに比べて、もっともっとファンを増やしていかなければ」と常に感じている。その中で、SNSや「PICKFIVE」で得た手応え。「これまではアリーナという物理的な箱の中で制限があったが、物理的な制約がない、成長の余地のある世界がいくつもある」と強く感じている。

藤掛さんはこれまでのマーケティングやデジタル戦略をまとめた書籍『ファンをつくる力(仮題)』(日経BP社)を5月12日に上梓する。この本では「ファンを作る力」について論じられている。「先日の天皇杯決勝の舞台には、Bリーグ初年度のリーグ戦決勝の時と比べて多くのファンが来場し、その後押しで優勝することができた。そして、ファンを増やせたことが、勝利だけでなく事業成果にも話題にも繋がった。SNSが発達した今の時代、スポーツだけでなく、あらゆる商品、サービス、個人にとってファンという存在が益々重要になってくる」と語る。

SNS界でも強さを発揮し、新たなゲームも誕生させた藤掛さんならではの「ファンをつくるということを分解して再現可能な手法として論じた」という内容は、スポーツビジネスに閉じずに様々な分野の方の参考にもなるだろう。さらに「川崎ブレイブサンダースの事例をふんだんに織り交ぜているのでファンも楽しめる」書籍とのことだ。

藤掛さんが今後、どんな新たな企画を展開していくのかも、川崎とともに注目していきたい。

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◆【著者プロフィール】木村英里 記事一覧

■著者プロフィール

木村英里(きむら・えり)●フリーアナウンサー、バスケットボール専門のWEBマガジン『balltrip MAGAZINE』副編集長

テレビ静岡・WOWOWを経てフリーアナウンサーに。現在は、ラジオDJ、司会、ナレーション、ライターとしても活動中。WOWOWアナウンサー時代、2014年には錦織圭選手全米オープン準優勝を現地から生中継。他NBA、リーガエスパニョーラ、EURO2012、全英オープンテニス、全米オープンテニスなどを担当。

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