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「引きこもり」がお家芸となった21世紀の日本人はご存じないだろうか。
アメリカに『サタデー・ナイト・ライブ』という人気コメディ番組がある。1975年スタートというから47年続くおばけプログラムだ。ビル・マーレイ、エディ・マーフィ、マイク・マイヤーズ、アダム・サンドラーなどハリウッドで活躍するコメディ俳優の多くが、本番組の出身者だ。
◆ワリエワ、個人戦出場へ CASは「15歳の少女に取り返しのつかない傷を負わせる」ことを危惧
■選手保護の観点から設定されたドーピング検査
おそらく90年代だったと思われるが、番組中「もしドーピング・オリンピックが開催されたら」というパロディがあった。つまり、ドーピングなんでもありの五輪が開催されたとしたら……という設定の寸劇だ。
そのワンシーン、ドーピング重量挙げ世界記録保持者が、大会でスナッチすると、世界最重量のバーベルとともに両腕がモゲて落ちる。だが、当の選手は自身の両腕がもげ大出血しているのに気づかず、スナッチをアピールし続けるというブラックジョークを記憶している。今ではオンエア不可能かもしれないブラックさだ。
失念されている方も多いようなので、今一度整理しておく。ドーピング検査は各競技の「フェアネス」の担保が主目的ではない。薬物の過剰摂取は麻薬、覚醒剤、合法ドラッグなどと同様、人間の身体に禍根を残す。それを恐れるがゆえに新型コロナ禍において「ワクチン摂取の強要は人権侵害である」とデモを起こすグループが後を絶たず、また実際にワクチンによる副反応で苦しんだ方々も少なからず存在する。
それと同様、薬物を投与すればなんらかの副作用が現れる。ドーピング検査は、将来的に心身ともに重い副作用をきたさないよう、つまり気づかぬうちに両腕が千切れてしまうような選手を出さないため、選手の保護の観点から設定された意味合いが大きい。実際、1960年のローマ五輪では興奮剤の使用が原因で選手が死亡、これにより1968年以降ドーピング検査が五輪に導入された。
■ワリエワの出場資格剥奪は本人のため
しかし、その薬物投与を積極的に推進してまで、国の威信をかけ、五輪に選手を送り出す、選手の身体を犠牲にしてまで、国威発揚を目的とする国、それがかつてのソビエト連邦であり東ドイツだった。ソ連は解体されたももの、ロシアはその母体でもあり、プーチン大統領治世下において「強いロシア」への回帰を目指しているのは、ウクライナ問題を見ても明らかだ。
その国威発揚のもと開催されたのが2014年のソチ五輪だった。ここでロシアの国家を挙げてのドーピングが詳らかになる。ゆえにロシアは国として五輪への参加が禁じられている。
しかし、このドーピングに関与しなかった選手の参加資格を剥奪すべきなのか……こうした葛藤がロシア・オリンピック委員会(ROC)としての五輪参加が許される状況を生み出した。国家としては認められないが、ドーピングと無関係な選手は救済する……それが現在、五輪においてロシアの選手が置かれた状況だ。
こうした流れを振り返ると、カミラ・ワリエワがドーピング検査にひっかかった時点で出場資格は剥奪されるべきだった。
日本循環器病予防学会の元会長、東京・寺田病院名誉院長の澤井廣量氏は、ワリエワから検出された禁止物質のトリメタジジンはアメリカでは処方が禁止されており、澤井氏自身処方したことはなく、日本でも使用される機会の低い、強い薬物であり、その副作用については懸念されると指摘している。
ワリエワの出場資格剥奪は、本人のためにこそなされるべきだ。
■IOCはドーピング大国を放置するのか
スポーツ仲裁裁判所(CAS)で開かれた公聴会でワリエワ側は、「祖父と同じコップを使用したため薬物が混入された」と主張。前例として、この答弁により無罪救済された選手が過去に存在するがゆえの回答だったろうCASはワリエワが16歳未満であり「要保護者」の観点から、今大会の出場が許可された。
しかしむしろ、16歳未満である点を考慮するのであれば、薬物の影響を受けやすい弱齢である本人の健康のためにも断じて五輪出場資格を剥奪すべきではなかったのか。
国際オリンピック委員会(IOC)の弱腰も甚だしい。プーチン大統領が北京五輪開会式に堂々と出席している時点で、ROCとしての出場など意に介していないのは明らかだ。
ソチで国家ぐるみのドーピング発覚について、ロシア国内でも「単なる国際的な反ロシアの政治的流れ」とされ、ドーピングそのものへの罪悪感は希薄だ。IOCはソチの時点で、「ロシア」の出場を全面的に禁止し、ドーピング検査をクリアできた選手だけを五輪旗のもと「個人」として出場許可するという方策をとるべきだった。同様の論調は『ニューヨーク・タイムズ』など特にアメリカのメディアにも散見される。
ROCとしてではなく、ロシアは今回のフィギュア・スケートにおいて十二分に国の威信を見せつけることに成功した。前回、金メダルを獲得したアリーナ・ザギトワが今大会では強化指定選手となっていない点でも明らかである通り、ロシアにおいては選手が尊重される傾向にあるとは言い難い。
フリー・スケーティングの後、4位に沈み号泣したワリエワは、選手としては今大会で見納めかもしれないと考えると、やはり本人が不憫でならない。ロシアの「スポーツ・エクスプレス」紙は4位という結果を、欧米の反ロシア感情が「天才を沈めた」と報道しているようにドーピング大国としての反省はみられない。
IOCとCASは何よりも今大会で、ドーピング疑惑があろうとも、五輪出場は可能である前例を作り出してしまい、著しい汚点を残した。
五輪が開催される都度、こうして国の威信の陰で、選手が犠牲になるのであれば、国別の区分など取り払ってしまうべきではないのか。
今後、フィギュア団体において、その処遇が注目されるが、IOCはこのドーピング大国をそのまま放置するのか。少なくとも北京五輪においては、IOCの大敗北に終わったと断ずるしかない。
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著者プロフィール
松永裕司●Stats Perform Vice President
NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoftと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist。