【スポーツビジネスを読む】モンストからバスケへ 田村征也・千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 後編 金満球団のレッテル払拭に苦心 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツビジネスを読む】モンストからバスケへ 田村征也・千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 後編 金満球団のレッテル払拭に苦心

新着 ビジネス
【スポーツビジネスを読む】モンストからバスケへ 田村征也・千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 後編 金満球団のレッテル払拭に苦心
  • 【スポーツビジネスを読む】モンストからバスケへ 田村征也・千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 後編 金満球団のレッテル払拭に苦心

現在、Bリーグ島田慎二チェアマンは、千葉ジェッツふなばしの元会長。そのチェアマンはBリーグのスタートから10年となる2026年にBリーグ構造改革を打ち出している。

大枠では、24年に昇降格制度を廃止、チームの再評価を行い、エキスパンション制を伴う新しいB1を設定。以下のようなB1参入条件を設けるという。

1万人規模のフランチャイズ・アリーナの保持1試合平均4000人以上の観客動員年間事業規模12億円

後任とも言える田村さんは、この改革案について基本的な構想の背景について納得していると語る。

◆【インタビュー前編】モンストからバスケへ 田村征也・千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 就任一年目で悲願の初優勝

■Bリーグの戦力偏位に強い危機感

「現在のBリーグのチームを眺めると、宇都宮ブレックスが勝率8割、千葉が7割5分、勝率が8割を越えてくると負け試合が圧倒的に少ないわけです。千葉ジェッツも最高勝率のシーズンは52勝8敗という感じになっておりました。そこは、やはりスポーツですから、勝つか負けるかは、ある程度、わからないほうが楽しい。リーグとしても、そのあたりに危機感を覚えたかと思います。また、同じB1にいながらにして、選手の年俸に格差があります。すると当然、戦い方も異なって来ます。もちろんチームスポーツなので一概には言えないですが、序盤戦からチーム力の差がある程度、明らかになってしまうと、それはやはり面白みを失ってくる部分もあると思います。やはり、終盤戦まで多くのチームで優勝の行方を争っている方が盛り上がりますよねですから絞ったリーグを作る構想企画には賛成です」と戦力が特定のチームに偏る点については、特に強い危機感を抱いているようだ。

悲願のリーグ優勝を果たしたメンバー 目指すは2連覇  ©CHIBAJETS FUNABASHI/PHOTO:Keisuke Aoyagi

さらに新しいリーグについては「チームの選抜だけではなく、ドラフト制、トレードの仕組みについても整備して行く必要はあると思っています。戦力は均衡しますが、そんな際に全チームが勝つことだけを最優先に考えてしまうとチーム運営に支障を来たすとも考えています。純粋にスポーツを楽しんでいく文化を育んでいかないと、ファンとクラブのコミュニケーションも難しくなってしまいますから」と構造改革についてはポジティブに捉えていると言う。

アメリカの地域密着型を目指すとなると、千葉のスポーツファンは、ジェッツ、ジェフ、マーリンズを応援するというのが理想型となるだろう。今季から「アルティーリ千葉」がB3に参入。「ニューヨーカーがヤンキースやメッツを応援するように、千葉のバスケ・チームを2つ応援することもできるようになりますね」と新規参入チームへの期待も覗かせた。

■1万人動員に向けた動画オウンドメディア対応

東京五輪では女子バスケ、パラ男子バスケともに銀メダルと大躍進。かつては「五輪出場など夢」とまで揶揄された男子バスケも44年ぶりに出場し躍動。現在のバスケットボール人気について訊ねると……。

「今は新型コロナ禍でもあり観客を入れての試合も制限されるので、肌で感じるところは少ないのですが、メディアの取り上げ方がまったく異なるので、この機会を活かしファンを増やしていきたいと思います。やはり『国際的にも戦える』競技は普及しやすい。(代表の)強化は必須だと思います。新シーズンも『ぜひ見に来てください』と全力で言いたいところなんですが(苦笑)コロナ禍ではありますので、それぞれの観戦スタイルでお楽しみいただけたら嬉しいです」。と歯がゆさを滲ませつつ、現在の機会はチャンスとアイディアを膨らませている。

Bリーグ改革を踏まえ、ジェッツも1万人規模のアリーナ建設を計画している。「これを必ず満員にできるよう、ファンの数をどうやって増やすか。・人に連れられ来場する、これをどう定着させるか。観に来た人が調べる、これにどう応える。さらにまた来てもらう。こうしたカスタマージャーニーを確立する必要があります。これにはプラスアルファの『組み合わせ』が重要だと思っています。『バスケに来たらショーのようなエンターテインメントも観られる』『バスケ面白い。これを誰かに伝えたい』『検索する』この流れに対応できるツールと数多くのコンテンツを用意しておく必要があります。『口コミで流行らないものは流行らない』と考えていますから、そのツールをしっかり準備しておきたい」、こうした意味合いからも田村さんは昨年の着任以降、SNSオウンドメディア、中でもYouTubeの展開には力を入れたいと考えているようだ。

Bリーグ改革について賛成を唱える田村さん  撮影:SPREAD編集部

「少し興味がある…という方にバスケ観戦に来てもらう契機としては、やはり動画。動画オウンドメディアで、その面白さを知ってもらえればと思っています。新規ファンは友人・知人に誘われて来場するケースが非常に多いです。その後、帰宅し、YouTubeを検索する。そんな行動ログがあるので、YouTubeのコンテンツが少ないと完結しません。また、現在は2,000人までしか観客を入れることができませんから、オンラインを中心に力を入れたいという実情もあります」。

■歴史にチーム名を刻んで行くチャンレンジ

ミクシィというバックグラウンドを持つチームだけに、さらに一歩踏み込んだAR/VRなど最新技術を駆使した観戦方法についての構想を聞くと……。

「(財政状況もあり)実はまだ投資できていません。また、AR/VRについては、まだファンが満足できるレベルまで技術的に進化していないと思いますので、クラブでの導入はまだ時期尚早と思っています。やはり、場所と空間とセットで構想すべきとも考えるので、新しいアリーナと同時に設計できればという思いがあります。それよりもまずはファンの体験クオリティをいかに挙げられるか注力、ITよりもライブ体験を上げるほうがプライオリティは高いです。その点は、モンストでもジェッツでも同じ。まずはライブ体験。すると、ネットでも必ず広まって行くと思います」と最新技術を盲信することはないと明言した。

立ち返れば、就任一年目で悲願だったリーグ初優勝を成し遂げた。今シーズンの意気込みについて訊ねないわけにはいかない。「2連覇を目指すことができる立場にいるので、そこはしっかり狙って行きたいと思います。また、天皇杯3連覇を達成したチームとして、リーグと天皇杯を同一シーズンに制したチームがないので、両制覇も狙いたい。まだ、スタートから間もないリーグだけに、その歴史にどんどんチームの名を刻んで行くチャンレンジをしたい」。

おそらくBリーグとして初めて、富樫勇樹選手が「年俸1億円プレーヤー」として大々的にメディアに取り上げられた影響とミクシィというサポートがあるため「千葉ジェッツふなばしは、『金満球団』のイメージを持たれるようですが、とんでもない。今季の決算発表でも黒字だったように見えますが、親会社や地域のパートナー、ブースターの皆さまの支えがあって生き延びたほどです」。

常勝と言われたチームでも2シーズンに渡る新型コロナの大打撃で、観客動員数は40%、チケット収入こそ60%だったが、アルコール無しの飲食収入は14%、物販は70%と軒並み落ち込んだ。

「地域の方々に支えられてこその、黒字経営を続けて行きたい。実は、このコロナ禍でファンクラブの会員数が以前と比較すると半分に減少しています。ファンクラブは、チケット購入に対してアドバンテージがあるのですが、その観戦自体ができないのもひとつの要因。コロナは相当厳しい、ファンのみなさんの日常を変えてしまっているので油断できない。こうした状況でも、来場してもらえる新しいファンをしっかり獲得していかないといけない。これは間違いなく楽観視できません。すべては、人と人の繋がりがファンの集客なのでサイクルをと切らせない。指数関数的、クラスター時にファンを広げていくつもりです」。

■2連覇、そしてリーグと天皇杯Wチャンピオンを狙う

新型コロナ禍においても、世論はすぐにスポーツ不要論へと傾く。甲子園も中止、プロ野球も中断……しかしアメリカではNBAも「バブル方式」でプレーオフから決勝まで完遂。ヨーロッパでもサッカーは早々に市場に戻って来た。F1は世界を転戦しているが、日本GPは中止の決定。こうした自体は日本におけるスポーツの社会的地位の低さを物語っている。ステータスの低さが、すぐに不要論へと飛び火する要因だと考えたが、その点はどう分析しているのかも訊ねた。

新型コロナによるスポーツビジネスへの危機感を訴える  撮影:SPREAD編集部

スポーツのステータスが低い原因はいくつかあります。ひとつは、日本ではスポーツに求められる公共性が高すぎる点。商業的になると嫌われる。教育、体育の延長で捉えられ、儲けちゃいけないという風潮があります。いやいや、儲かればいろんなことができる。人材にも興行にも、サービスにも投資できます。営利団体なので、そのギャップを埋めないといけない。

アメリカのスポーツファンは、チームのオーナーが交代しても、チームが強ければ賛成してくれる。しかし、日本のファンはそれを『身売り』と呼びNGとする潮流があります。ジェッツもまさに資本の入れ変わったチームでありますが、ファンに納得してもらえる商品を出して、それが受け入れられるようにしたい。

もうひとつ。今後はこれまでのイメージを払拭し、若者の感覚をどう開拓していくか。スケードボードのような格付けが必要だと思います。そのためにも、ぜひアリーナ体験を進めて行きたい」と分析した。

Bリーグもいよいよ6年目のシーズンが開幕。2連覇、そしてリーグと天皇杯、Wチャンピオンを狙う田村さんの2年目のシーズン、コロナのピンチから脱却に加え、新しいビジネスの展開など、モンストで発揮された手腕で、どのようにスポーツの新領域へ切り込んでいくのか、楽しみでならない。

◆【インタビュー前編】モンストからバスケへ 田村征也・千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 就任一年目で悲願の初優勝

◆【スポーツビジネスを読む】「人生の縮図」レース沼にはまった石渡美奈Hoppy team TSUCHIYA共同オーナー 前編 かつカレーを平らげながら待った初優勝

◆シリーズ【スポーツビジネスを読む】

著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

《SPREAD》
page top