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2年越しのトップリーグ連覇を逃した神戸製鋼コベルコスティーラーズだが、ウイングを務める山下楽平はフル出場8試合、7トライという成績でシーズンを終えた。チームの中核選手として円熟期を迎えている山下だが、ウイングとして攻守の両方で様々な考えを持っていることは、これまであまり語られてこなかった。
相手の脅威となるために、ウイングに重要視されるポイントとは何なのか。単独インタビューを通じて、山下本人が語る「ウイングの矜持」に迫る。
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■ウイングが相手の脅威になるために「スイッチを切らない」
―山下選手はウイングとして活躍しています。ウイングというポジションについて教えてください。
色々なタイプのウイングがいますけど、試合に出る以上、誰もがランニングスキルには自信を持っているはずです。僕が特に心がけているのは、いかに数多くボールにタッチするかということです。いくらスピードがあっても、ステップがうまくても、フィジカルが強くても、ボールにタッチしなければ良さを発揮できません。
そして、相手の脅威になることです。矛盾するようですが、ボールを持っていないところでも脅威になることをいつも意識しています。
―どうしたら相手の脅威になれますか。
スイッチを切らないことです。
どこにスペースがあるか、どこに突破のチャンスがあるかを常に探しています。それは試合が始まる前から始まっていて、相手選手のメンバーや布陣をしっかり見ることが大切です。
スイッチを切らないことは、アタックだけでなくディフェンスでも重要です。圧倒的なボールキャリーの力がある選手を止めるには、スピードが上がらないうちにタックルにいかなければなりません。そのためには早めにスペースを潰すことが必要になりますが、そうすると裏にスペースができてキックのチャンスを与えてしまいます。
その紙一重、表裏一体の判断を正しくするためにもスイッチを入れておくことが大切なんです。
■戦略が求められるディフェンスは「アタック以上に考える」
―ウイングのディフェンスについても教えてください。
ディフェンスのポジショニングは、アタック以上に考えています。簡単にいえば、状況を考えて、相手が嫌なところに立つということです。ディフェンスからアタックへの誘導も重要な戦術です。
たとえば、わざとキックスペースがあるように守って、そこに蹴らせてクリーンキャッチからカウンターを仕掛ける。逆にキックスペースを埋めているように見せて、外に回させて早い段階で潰す、などです。
駆け引きがウイングのディフェンスでは特に大切ですね。それをしないと受け身のディフェンスになってしまいますからね。僕はサイズが大きいわけではないので、真正面のぶつかり合いでは不利になります。それだけに前段階での駆け引きで、自分が有利になることをより考えています。
―2021年シーズンは、アタアタ、バックマンなどとバックラインを組みました。誰がセンターに入るかでプレーが変わりますか。
チームとしてのベースの戦略は変わりません。一緒に出ているセンターの得意なプレー、成功率が高いオプションを生かすように個人レベルでいつも考えています。
アタアタとバックマンでは、個性が全然違います。分かりやすいところでは、アタアタはコンタクトプレーが強い。きわどいパスを放らせるのか、勝負させてそこにサポートにいくのか、などがポイントになります。
逆にバックマンは、ギリギリのタイミングになったときに、そこにボールを通してくるな、と意図が伝わるプレーが多い。
いずれにしても、一番大切なのは外側からのコミュニケーションです。どこに走り込んでほしいかをウイングからセンターに伝えるわけです。誰がセンターに入るかで、有効なランコースなども違いますから、よく考えたプレーが求められます。
■「ウイングよりもフルバックが向いている」と語ったワケ
―ほかのチームのウイングで、すごいなと思う選手はいますか。
脅威を感じるという意味では、サントリーのテビタ・リーですかね。トイメンだったら、嫌やなと思います(笑)。ただ正面に突っ込んでくるだけのパワー型の選手だったら、勇気さえあれば止められるんですよ。でも、彼のように強くてスピードもあって、ずらしてくる選手は止めにくい。いかにスピードに乗っていない状態でタックルを仕掛けるかがポイントでしょうね。今年は対戦がありませんでしたけど、来年、ぶつかるのを楽しみにしています(笑)。
福岡堅樹も、やっぱりすごいな、と思いますね。高校のときに、一度、トイメン同士で対戦したことがあるんですよ。そのとき、5メートルの幅で抜かれそうになって、ものすごく速い選手だなとびっくりした記憶があります。それが世界でもトップクラスのウイングになったんですから、本当にすごいことですね。
―ウイング以外に興味があるポジションはありますか。
ラグビーを始めてから、バックスのポジションはすべて経験しました。正直言って、自分はウイングよりもフルバックが向いているんじゃないかと思っているんです。
たとえば、福岡選手はステップやパス、キックを総合的に考えると、それほど器用なタイプじゃない。でも、爆発的なスピードと緩急をつける能力があるから、大外を走り切ることができるわけです。彼のように何かひとつのプレーに秀でている選手がウイング向きだと思うんです。
その点、ぼくは大外を走り切るイメージよりも、相手選手の間を抜いていくプレーのほうが合っていると思うんです。似たタイプでいえば、松島幸太郎ですね。
松島選手も大外でもらうだけでは、彼の持っている優れたオプションが減ってしまう。いろいろなオプションを発揮できるフルバックでこそ、彼の良さが生きると思います。
―フルバックで出場するという話はないんですか。
実は、僕も神戸製鋼で5試合ほどフルバックとして出ているんですよ。ただ、今のチームには山中さん(山中亮平)が15番で固定されていますからね。スターティングでフルバックに入るためには、山中さんを超えなくちゃいけません(笑)。もし、山中さんがケガなどでプレーできなくなったら、自分がフルバックに入ると思いますが……。
山中さんは本当にうまいな、と思います。単純にラグビーが本当にうまい。それは身体能力やキックの飛距離ということだけではなくて、相手を引きつけておいてギリギリでパスを出したり……、何なんでしょう、センスですかね。基礎中の基礎のプレーが抜群にうまいです。
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写真提供:神戸製鋼コベルコスティーラーズ
著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。