【東京五輪】「がんばれ、ニッポン」も「感動をありがとう」も解決できない、Tokyo2020がつまびらかにした東京の課題点、世界の問題点 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【東京五輪】「がんばれ、ニッポン」も「感動をありがとう」も解決できない、Tokyo2020がつまびらかにした東京の課題点、世界の問題点

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【東京五輪】「がんばれ、ニッポン」も「感動をありがとう」も解決できない、Tokyo2020がつまびらかにした東京の課題点、世界の問題点
  • 【東京五輪】「がんばれ、ニッポン」も「感動をありがとう」も解決できない、Tokyo2020がつまびらかにした東京の課題点、世界の問題点

歴史上初めて、1年延期となり、かつ無観客で開催された東京五輪が閉幕となった。ちょっとした喪失感でいっぱいだ。

政治的な力学も必要なこうした国際大会は常に賛否両論入り乱れるのが常だ。何度も記しているが2016年東京五輪招致も目の当たりに、「トキオ」発声の際は東京・日比谷の東商会館にて真夜中の歓喜の輪にいた者として、五輪招致そのものは賛成派であり、ましてや2019年ラグビーワールドカップ大成功の後とあっては、その到来に胸を踊らせたものだ。

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■依然と続く感染症の猛威

しかし、W杯の熱に浮かされている間、世界は新型コロナウイルスに席巻された。21世紀の叡智を持ってしてもその対応策は乏しく、2021年8月8日の時点で世界の感染者数は2億人、死者数は427万人を越え、いまだに毎日1万人がその生命を落としている。太平洋戦争の日本の死者数は300万人と言われ、それを上回わる。

先進国においてワクチンは行き渡るかのように見えるが、変異種の登場もあり、まだまだその終焉は予断を許さない。この2年は、人類が未知のウイルスの前にいかに無力であるかをさらけ出す結果となり、また対ウイルスという局面においてさえ、国際的強調は限定的だという事実も突きつけられた。

特に世界的にスポーツもその余波を受け、国際大会は次々と延期、または中止に追い込まれた。東京五輪のもちろんそのひとつだ。国内でも感染対策は進まぬまま、世論では半数以上の開催反対に直面しながらも、大会は実施され、閉幕後も苦々しい思いを抱く人々は多い。

その一方で感染症と無関係な問題点をいくつも浮き彫りにした。

■世界の問題や国内の課題が浮き彫りに

現在の選手村に建設予定だった2016年のメインスタジアム

中国情勢に見える国際的分断、アメリカにおける社会的分断、サプライチェーン分断により露呈した世界的産業構造の弱点、さらに南北格差の拡大も露呈。7月16日には国連のグテーレス事務総長が、オリパラ期間中の紛争休戦を呼びかけたものの、世界各地でその兆候は見られず、アフガニスタンではタリバンが勢力拡大を図るなど雲行きの怪しさを増すばかり。

東京での虚しい祭りが少しでも和平貢献の役割を果たすのでは……という期待は空振りに終わった。

日本では難民申請者に対するゼノフォビアにおける分断や、ジェンダーイシューの根深さ(これにより組織委員会元会長が辞任した件は記憶に新しい)、祭典を担当していた文化人と思しき面々のセクハラ、パワハラ、いじめなどモラリティの欠落、それによる五輪担当者の辞退の連続(この影響か、開会式、閉会式もこれまでの人生で眺めるもっとも退屈な催しとなった)、ダイバシティ、多様性は念仏のように唱えるが実態はなく、「復興五輪」も形骸化、SNSでは自分の惨めさを棚にあげアスリートを誹謗中傷するネット民たち、さらにワクチンの職域接種には、これまで目に見えなかった社会的階層さえ存在するのはないかと疑念さえ抱いた。

2016年の招致でも「コンパクト五輪」を目指していた

こうした出来事は、日本人特有と思い込んでいた美徳や道徳は、砂上の楼閣だったという現実を暴いてみせた。そんな中、半数の国民の意にそぐわぬ形で五輪は実施された。

■現場の努力で完遂された祭典

それでも汗水たらして難局に挑む現場の担当者たちの尽力により、祭典そのものは、ほぼ無事と表現していいレベルで完遂された。組織的対策というよりも、とにかく個々人の我慢と努力によって解決しようと言う、新型コロナ対策と似たような状況だ。

実際に現場のナマの声が集まって来ると、有観客か無観客かも不明のまま、実施の準備だけは淡々と進み、その意思決定は延々と先延ばしが続いたことが判明。また本番がスタートしても、開場にはりつくボランティアにPCR検査が実施されないケースもあり、さらに検査を受けた者には結果さえ聞かされないという対策の不徹底ぶり。

挙げ句、期間中に競技の実施場所の変更、競技時間の変更が相次ぐ。ライブイベントに少しでも携わった経験のある方なら、この規模のイベントの計画変更が「ウルトラC」ほどの至難の技であると、すぐに想像がつくだろう(今の時代「H難度」とでも形容したほうがよいか)。

それは、数々のイベントを遂行してきたベテランからも「これが五輪なのか」と愚痴ができるほどのレベルだった。大きな事故がなかったのだけは幸いだ。

結局、こうした難局を現場の人々の自助努力で乗り切ってしまうのが、日本人たる所以だろう。だが、責任者たちにはこれで「成功した」と思い込んでもらっては困る。このツケはかならず回って来る。

そして、総額3兆円とも言われる、その請求書の行き先が、また市井の人々、我々であるというオチは無しにしてもらいたい。東京五輪期間中、新型コロナ陽性患者は3倍に膨れ上がっている。

トーマス・バッハ東京五輪成功と高らかに歌えども、史上もっとも日本人に嫌われたIOC会長となる点は避けようがない。

■スポーツを次のステージへ

夢描いた東京五輪開催による新しい東京の都市計画も達成されぬまま。新国立競技場当初案撤回、エンブレム撤回、築地市場移転遅延にともなく計画の遅れ……「祭りの後」だからこそ、ここで紛糾した問題点を俎上に並べ、解決を図るチャンスとして活かすべきだ。

日本の金メダルは27個、総メダル数も58個と過去最多。だが、国別のメダル数に一喜一憂する時代はもう終わった。我々スポーツビジネスに従事するメンバーも、祭りの打ち上げに酔いしれることなく、日本の、世界のスポーツを次のステージに押し上げるために、どんな手を打つべきなのか、しっかり推敲したい。東京五輪を虚しい祭りとして片付けてしまうか否かは、我々関係者にかかっている。「がんばれ、ニッポン」「感動をありがとう」は、もはや不要だろう。

Tokyo2016 第31回オリンピック競技大会開催概要計画書

国際オリンピック委員会IOC)は8日に行われた総会で、北京、ロンドンの銀メダリスト・太田雄貴氏をIOC委員とした。これで国際体操連盟渡辺守成会長と日本オリンピック委員会の山下泰裕会長と合わせ、日本に過去最多の3人のIOC委員を抱えることとなり、国際舞台での発言権も増す。欧州の貴族然としたIOCの改革も促したいものだ。

それにしても、2016年の招致が成功裏に終わっていればと夢想しつつ、生きているうちに平穏の中、もう一度、日本に五輪を呼ぶのは難しいだろうと失意にも暮れる。それでも、この五輪は、世界を、日本を本当に変える契機としたいものだ。

関係各位、本当にお疲れさまでした。

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著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

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