【スポーツビジネスを読む】アマチュアを支援するメディア「スポーツブル」黒飛功二朗・運動通信社社長 後編 「アマチュアは儲からない」だからこそチャンス | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツビジネスを読む】アマチュアを支援するメディア「スポーツブル」黒飛功二朗・運動通信社社長 後編 「アマチュアは儲からない」だからこそチャンス

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【スポーツビジネスを読む】アマチュアを支援するメディア「スポーツブル」黒飛功二朗・運動通信社社長 後編 「アマチュアは儲からない」だからこそチャンス
  • 【スポーツビジネスを読む】アマチュアを支援するメディア「スポーツブル」黒飛功二朗・運動通信社社長 後編 「アマチュアは儲からない」だからこそチャンス

スポーツの仕事は特殊だと思う」と黒飛さんは語る。

「特にほかのビジネスと比べ、スポーツの権利を理解するハードルが高い。興行、放送、配信、スポンサー、チーム、選手、スタジアム、つまりベニュー……これ以上複雑化できないほど様々なビジネス要素が絡んでいます」。

幸いなことに黒飛さんは、この構造を理解できる経験を積んで来た。さらにネットビジネスはここ10年でさらに急成長。そんな中、スポーツを起点とせず、インターネットを起点にしてビジネスを渡り歩いて来た。

「TXT広告からFacebookを使ったアルゴリズムの広告まで経験し、プラットフォームとしてのコンテンツビジネスも経験できていた。つまり『スポーツ×インターネット』の新たな可能性を探っていくためのベースリテラシーが身についていた。いわゆる『スポーツどっぷり人間』ではない点が長所」とその道程を振り返る。

黒飛功二朗(くろとび・こうじろう)

●株式会社運動通信社・代表取締役社長

神戸大学経営学部卒業。株式会社電通に入社。同社の「テレビ局」にてCMセールスなどを担当、その後デジタル関連部署に退社まで在籍。ナショナルクライアントのデジタルマーケティングプロデューサーを経験したのち、多数のインターネットサービスのコンサルタントに従事し、事業の成長戦略立案、実施運営をワンストップで行うリムレット株式会社を設立。夏の高校野球のライブ配信事業「バーチャル高校野球」のプロデュースを筆頭に、数多くのスポーツインターネットサービスの立ち上げに携わり、スポーツインターネットメディア事業に特化した株式会社運動通信社を設立、代表取締役社長に就任。

◆【インタビュー前編】「Sk8er Boi」が代表取締役になるまで

■大事なのは「異物の掛け算」

黒飛さんに相談にやって来る方々の多くは、この「スポーツどっぷり人間」、スポーツに関わるために仕事に取り組んでいる。こうした人々にとって、スポーツそのものが、もはやライフワークだ。

「スポーツ好き同士が会話を重ねても、ビジネスやソリューションは生まれにくい。幸い、ボクの場合は、特定の競技に偏ってもいない。むしろ、エンターテインメントを含め、スポーツ以外のコンテンツについてもフラットに接している。大事なのは「異物の掛け算」だと思う」。

成熟した日本社会において娯楽は多い。ほかのエンターテインメントに人を奪われて行く中、どうスポーツファンをキープするか。「何があったら(スポーツを)見に来てくれるか」という第三者視点を保つ点が大きいと話す。

「放送業界の大枠を知っていたのは、非常に大きい」と黒飛さん。」スポーツの放映権」はたしかに特殊だ。何しろ「定価」が存在しない。定価無しにも関わらず、業界関係者以外は権利金についても口外しないのが慣習。内訳も存在しない。権利料は、そもそもマーケットが決めている。川崎ブレイブサンダース元沢伸夫社長も、DeNA本社から横浜DeNAベイスターズのスポーツビジネス界に飛び込んだ際、放映権について学ぶ点、非常に苦労したとしている。

◆【スポーツビジネスを読む】マヨネーズご飯からの逆転人生 川崎ブレイブサンダース元沢伸夫社長 前編 「すべての仕事が楽しい」

インタビューを受ける黒飛功二朗さん

マグロの競りと同じじゃないですか。需要と供給によってのみ、すべてが決まる。制作費は内訳も把握できますし、原価も特定できる。放映権はすべてがビジネス力学に寄る。それでいて、B to Bビジネスの中でも、もっとも大きな金額が動く、特殊ですよね」。

■「スポーツブル」がアマチュア・スポーツを支援する理由とは……

スポーツブル」はアマチュア・スポーツの支援を標榜している。このコロナ禍、いよいよ、夏の甲子園もスタートする。各メディアが、プロスポーツを題材とする中、スポブルはなぜアマチュアをテーマとして出発したのかについて訊ねた。

「それは簡単ですよ。高校野球からスポーツビジネスに入ったので、プロはまったく視野になかったんです。起業する際、アマチュア、学生スポーツと決めていました。ちょうど当時、スポナビLIVEDAZNと同時期にスタートする運びとなったんですが、スポーツブルだけ学生スポーツをターゲットにすると決めていました。レッドーシャンの中のブルーオーシャンに飛び込むと決めていた」。

スポーツ業界には、「学生スポーツはビジネスにならない」という固定概念がある。「スポーツで儲けるなぞ、けしからん」という風潮は消えない。よってビジネス構築は難易度が高い。そんな中に敢えて飛び込む勝算はあったのか。

「もちろん、アマチュアスポーツの商業利用についてハードルが高い理由は理解しています。よって、サブスクでもない、ファンビジネスでもない、学生スポーツを広く伝えるためのピュアなメディアが必要だと考えました。アマチュアスポーツについては、報道、メディアという中立の立場を保ち、競技普及発展のため誰でも閲覧・視聴できる無料メディア、メディアプラットフォームでしかアプローチしないと決めていた」。

誰もが学生、アマチュアというと「儲からない」と決めつけてきた。しかし、黒飛さんは、そこは逆だと、「ビジネスにならない」と言われるからこそ、チャンスだと考えた。

「そもそも既存ビジネスの視点からアプローチしてもなかなか成立しない。プロスポーツ同様の権利ビジネスを持ち込もうとするから、ハレーションが起きる。そんな領域だからこそ新規でベンチャーが参入する余地があった。既存のビジネスモデルを持ち込んでもだめ。僕たちはアマチュアスポーツに特化したベンチャー企業として、アマチュアスポーツに最適な新たなビジネスモデルを模索し続けている。日々アイデアを出し、チャレンジしていく」。

NCAAに代表されるアメリカの大学スポーツの座組は、日本よりも相当進んでいる。昨今はそのビジネスの長短を指摘されるものの、企業スポンサーシップのあり方、個人スポンサーのあり方、仕組みそのものの賜物により、この数十年にたわってアマチュア・ビジネスを成長させて来た。日本版NCAAと呼ばれたUNIVASという組織も、つい先ごろ日本に現れ日本の大学スポーツのアップデートに向けて新たなチャレンジを模索している。

「アメリカと同じアプローチをしておきながら『できなかった』であれば、それは『日米の差』として片付けていいかもしれません。しかし、まだ同じアプローチはこれから。アメリカの大学の寄付の概念は、日本とまったく異なる。ただ単にお金を持っている人が寄付するだけじゃない経済循環が出来上がっています。これをいかに日本に最適な形にカスタマイズし、大きな循環を生むかが鍵。日本の大学スポーツには大きなポテンシャルが眠っている」。

日本におけるスポーツ団体と会話する際、必ず届くのは「競技人口を増やしたい」という要望。「野球の競技人口を増やしたい」「サッカーの…」「水泳の…」と口々に叫ぶ団体の多いこと。

「日本ではそもそも人口が減っている。子供も減っている。特定の競技人口が減っているのは、他競技の影響だけではありません。他のエンタメ、ゲームなどに奪われている部分も多い。そして、その速度はむちゃくちゃ速い」。

日本の人口も、子供の人口も減少する中、競技人口だけが増えるとしたら、それは魔法でしかない。

「スポーツブル」がアマチュア・スポーツを支援する理由について話す黒飛功二朗さん

「日本の体育教育がスポーツに関わる大きなきっかけを作っている。学校での体育教育を通じてこれだけ幅広い競技を経験し、競技ルールを多くの子供たちが把握している国は世界でも珍しいと思う。そこに間違いなくこの国のスポーツのポテンシャルがある。ただ、その入り口だけだと少子化問題含め解決できない。スポーツには、まだまだ手つかずの領域があり、伸びシロはたくさん残されています。これまの慣習として議論されて来なかった領域も多い。そして、スポーツビジネスについては因数分解が丁寧にされていない。スポーツにこれまで関わって来た人だけに閉じてしまっている部分が多くあると感じる。スポーツどっぷりな人と、そうじゃない領域で経験を積んだ多様な人たちが交わり、議論を進める事でビジネスモデルは多様化し、日本のスポーツが発展していくのではないかでしょうか」。

黒飛さんは、スポーツも既存のビジネス同様に変革期を迎えていると捉えている。特に物質的価値に重心を置く経済循環は終わりに向かっているとしている。

「今の世の中、物質的な価値は、これ以上は増えない。感情的な価値、情緒的な価値にプライオリティを置くようになっていくと思う。例えば、かつては『勝ち組』『負け組』という価値観を押し付けられた頃もありましたが、今やそんな定義は雲散しています。もはや、『その人、その人ごとの豊かさ』が基準。新型コロナウイルスの席巻により、さらに価値観も変わって来ました。世の中が『これがなくても問題ない』という引き算の必要性に気づいてしまいました」との考えを示す。

日本のスポーツ界、生活者価値観の変化について考察を重ねる黒飛さんに、最後に「スポーツブル」の将来像についても訊ねた。

「スポーツは、もともと情緒的な分野。まずは、そこにフォーカスすべきと考えています。ブランドもそのあり方が、だいぶシフトして来た。20年前、ブランドはかっこいいもの、憧れがキーワードだった。しかし、今のブランドに求められるのは、応援されること。『この企業は、俺がずっと支えてきた!』。その最たる例が、クラファンでしょう。この会社がいい! このビジョンがいい! このプロダクトがいい! だから応援する。このブランドの在り方、考え方は、スポーツ界でも新たな経済循環を生み出すに違いない」。

こうした発想が、そもそもスポーツブル・スタートの基盤なのだという。

「スポーツにCSRの発想を持ち込むと誤解を生みやすい。どちらかというと、CSV(Creating Shared Value)の方がスポーツには適していると考えている。CSVつまり、「共通価値の創造」が、応援されるブランドを一緒に作っていく事に繋がる。スポーツのスポンサー形態にしても同様だと思う。今のままのスポンサー形態だと先行きが厳しくなって来ると思う。企業とスポーツの形も、「共通価値の創造」ができることで、企業も中長期でサポートできると思っています。スポーツブルは今までアマチュアのトップスポーツ中心にサポートしていました。野球でもバレーボールでも、アマチュアのトップ・カテゴリーだけをターゲットにしてきた。しかし、今後は、ロングテールもしっかりサポートしたい。メディアとしてアマチュアスポーツを応援する立場から、各チーム、各部活をサポートできるプラットフォームへと成長して行きたい」。

スポーツのメジャー市場だけを取り扱う既存メディアと一線を画し、スポーツのスタート地点である、チーム、コミュニティ、部活を支援していく……それが「スポーツブル」の目指す地点。今年は、無観客で開催となった夏の甲子園もいよいよ開幕……今夏はスポーツの原点に思いを巡らせながら、声援を送りたい。

◆【インタビュー前編】「Sk8er Boi」が代表取締役になるまで

◆【スポーツビジネスを読む】フライシュマン・ヒラード齊藤恵理称スポーツ&エンターテイメント事業部ジェネラル・マネジャー 前編 スティーブ・ジョブズに学んだコミュニケーション哲学

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著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

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