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国内では東京五輪開催に向けて混乱が広がる中、テニス界は2020年の全米から採用となった関係者を特定エリアに隔離する「バブル生活」を導入し、プロツアーを開催し続けている。ATPとWTAは全選手にワクチン接種を推進しており、選手間でも賛否両論があるなか、接種済みの選手も増えてきたという。このワクチン接種は義務化されてはいないが、接種を終えた選手たちには各地への渡航後の隔離が緩和されるなど、試合に向けての調整に関しても負担が減ってきているようだ。
そんな中、トップ選手たちはヨーロッパでのクレーコートシーズンを過ごし、30日に開幕する全仏オープンに向けて照準を合わせている。日本からは大坂なおみ、土居美咲、日比野菜緒、錦織圭、西岡良仁、内山靖崇、ダニエル太郎が本戦に出場する。
注目は、全米・全豪とハードコートでの女王として君臨している大坂が、この赤土の「過酷な闘い」と称される全仏で新たな進化を生み出せるかだ。
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■「過酷な闘い」ではメンタル面の安定も重要に
世界中の大坂ファンが期待する“生涯グランドスラム”を達成するには、これまで3回戦止まりである「赤土の全仏」と「芝の全英」を攻略する必要がある。ハードコートと違い足元が滑るクレーコートでのフットワーク、球足が遅く跳ねやすいことからラリー数が増えること、そしてイレギュラーなバウンドの変化で思うようにショットが安定しないケースへの対応が大きなポイントになるだろう。
ボールバウンドのイレギュラーに対応するのは身体的な反応も必要ではあるが、予測を外してくる出来事に落胆しない心構えも重要となる。
大坂は、全仏の前哨戦となるマドリード・オープンとイタリア国際で2回戦敗退。彼女のリズムあるストローク展開がクレーになると影を潜めてしまう。クレーコートに対して未だ手応えを感じておらず、イタリア国際前にもプレーに対して「まだ、しっくりきていない。経験が足りていないからなのか、クレーで育たなかったからかもわからない。ポイントの組み立て方も違うから、少し大変」と吐露している。
全仏に向けて、この前哨戦で3試合しか積めていないことも不安要素に繋がっているかもしれない。やはり、足元が滑りながらプレーすることが上手くいかない大きな要因であり、そのなかで攻守の見極めに確信が持てないのだろう。しかし世界2位の実力者、どう対応してくるかがまた見所になってくる。
■今季3勝の青山・柴原組も要注目
大坂がグランドスラム優勝を期待されるように、日本人ペアのダブルスも大いに注目されている。
現在、世界ランキング13位の青山修子と柴原瑛菜は、今季3勝を挙げツアーファイナルに向けてチャンピオンレースでは2位をマークしている実力者ペア。4月のWTA1000マイアミオープンでキャリア最大のタイトルを獲得した際には、「2021年シーズンのもっとも成功したダブルスチーム」と称されている。
青山は2013年の全英で準決勝を経験しており、グランドスラム優勝に向けてひた走ってきた33歳。変わって柴原は、その3年後に全米オープンジュニアのダブルスで優勝し頭角を現し、現在ではプロとして活躍する23歳。10歳差のある2人は2019年からペアを結成し、みるみるうちにペアとしての質を上げ、これまでにツアー6勝を残してきた。
青山の経験の高さと柴原の何も恐れずにはつらつと戦うエネルギーが、この赤土の舞台で大勢の人を熱狂させるはずだ。
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著者プロフィール
久見香奈恵1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。