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「コロナに負けるな!」 テニス全日本チャンピオン・江原弘泰が子供たちに送ったメッセージ

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「コロナに負けるな!」 テニス全日本チャンピオン・江原弘泰が子供たちに送ったメッセージ
  • 「コロナに負けるな!」 テニス全日本チャンピオン・江原弘泰が子供たちに送ったメッセージ

政府が新型コロナウイルス感染症対策の基本方針を発表してから約4週間が経った。社会の動きは、目まぐるしく変わる情報に踊らされ続けている。

テニス界では新たに、FFT(フランステニス連盟)から全仏オープンの延期が発表された。日程は9月20日〜10月4日となり、全米オープン1週間後という異例の変更となっている。

また、ATP、WTA、ITFからは、揃って6月7日までの全ツアー休止が告示された。選手たちのため息はまたひとつ増え、先の見えない今シーズンに苦慮している。

≪文:久見香奈恵≫
元プロテニスプレイヤー。2017年引退後、テニス普及活動、大会運営、強化合宿、解説、執筆などの活動を行う。

いち早く子供たちにメッセージを送った江原弘泰

この事態に困ったのは、プロばかりだけではない。ジュニア選手たちは、学校が休校となり全国大会へと続く春の地域大会も一部の地域を除いて中止された。

人との接触を減らすよう要請されていることから、ひと月ほどの退屈な春休みに入ってしまっている。

全国選抜高校テニス大会中止となり、高校生たちの熱く燃える青春の1ページは機会を失った。

各選手ともに最高の舞台に向かい準備を重ね、課題を試すことに胸を膨らませていただろう。そう想像すると、私自身もいたたまれない感情に覆われる。

このどんよりと曇った今を過ごす子どもたちに、日本でいち早くメッセージを送った選手がいる。

それは、全日本テニス選手権で単複優勝の経歴をもつ江原弘泰だ。

「コロナに負けるな!」 対決シリーズを企画

今回の騒動から練習ができないジュニアに対し、「コロナに負けるな!」を合言葉に30秒チャレンジをインスタグラムで公開している。

自宅待機でのストレスを解消してもらえるように始めたものであり、視聴者からの挑戦を待ち受ける対決シリーズだ。

自身の記録と共に「僕の回数を越えてください!!」と勢いある動画で挑戦心を刺激している。遠隔ながらもプロに挑戦できる機会を得た人たちは、自身の取り組みをSNSに載せ交流を図った。

江原は自宅待機の状況を考え、一人でできる7種類のトレーニングを用意した。腕立て伏せ・縄跳び・懸垂・腹筋・フレームリフティング・縄跳び二重跳び・ジャグリングだ。

視聴者に継続して励んでもらうために、これらを1種類ずつ毎日更新した。本人も日頃の積み重ねの自負から、フィジカルで負けるわけにはいかないと真剣だ。

フレームリフティング(ラケットのフレームを使いボールを地面に落とさず打ち上げ続ける行為)では、30秒で計83回を記録した。

途中で一度地面に落とすミスが出たものの素早い動きで取り戻し、「さすが負けず嫌い」と笑ってしまった。

 

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彼のプレーは、元々粘り強いフィジカル気迫を組み合わせ、相手の気力を削いでいく。守備が堅いことを先に印象付けながらも、隙を見つけてはフォアを使い攻撃に転じる

更にチェンジエンドでは不敵な笑みを浮かべ、何を考えているのか想像しにくいところもある。「試合では的を絞られないように幅を見せておきたい」と相手の心理面への作用も重要視している。

イベントのファンサービスでは、明るくおどける一面も魅力的だ。

「部活応援企画」に込められた思い

そんな江原は、実はコロナ騒動の前から「部活応援企画」と題し、大会の合間に依頼された学校の生徒を指導していた。

今よりレベルアップしたいと願う学校に、練習方法取り組み方を伝えている。昨年の11月から始まり、すでに10校を訪問した。それも、ボランティアで引き受けていると言うのだから私は驚いた。

「この企画の理由は複数あります。元は、全日本選手権に若い子たちが観に来てほしいと考え出したことです。テニス人口は多いのに、プロの試合を観戦してくれる人は少ない。興味を持ってくれているのは、ごく一部のファンだと感じています。

そして国内でその層を調べたときに若い子たちが一番少ないと思い、この部活動応援企画で距離を縮めたいと考えました。必ず一人ずつとラリーをして本気のボールを感じてもらっています。生徒たちは5球のうち1球を返せただけで『勝ったぞ!』と士気が上がるんですよ。

この興奮を活かして更に練習に励んでもらいたいし、身近になった僕たちプロの戦いも見て欲しい。僕は今、この部活企画を通じて、全日本選手権に高校生を100人は連れて来たいと思っています」

 

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多くのジュニアたちが失った「勝負を楽しむ機会」を生み出した

毎秋、有明コロシアムで開催される全日本テニス選手権は、国内トップが集まる大会ではあるものの、観客数は決して多いとは言えない。

その面を補うために始めた取り組みでもあり、若い世代にエネルギーを与えたいと本人も意気込む。そしてプロの存在が、ジュニアにとって身近なものになって欲しいと願っている。

そんな彼の今季の目標は、混合ダブルス制覇だ。達成すれば全日本三冠となる。

私は今回の話を聞き、江原の30秒チャレンジは簡単にできるトレーニング内容を提供しただけではないと感じた。

この春、多くのジュニアたちが失った「勝負を楽しむ機会」を生み出したとも言えるのではないだろうか。

今後も7つのトレーニングを考え発表する予定だという。30秒チャレンジに加え、会場でファンからの大きな声援に応える江原の姿にも期待したい。

≪久見香奈恵 コラム≫

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著者プロフィール

久見香奈恵

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。

園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。

2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

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