“のんびり屋”田村友絵のスイッチ 眠っている能力を引き出してくれるもの | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

“のんびり屋”田村友絵のスイッチ 眠っている能力を引き出してくれるもの

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“のんびり屋”田村友絵のスイッチ 眠っている能力を引き出してくれるもの
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アルティメット日本代表の田村友絵選手が、所属クラブの「MUD」でキャプテンを務めることになったのは、2017年秋のことだった。


「MUD」は、2000年に設立されてからこれまでの間に、全日本選手権大会で5度の優勝を誇るアルティメット界の強豪チームだ。しかし、2017年7月に行われた第42回大会では、4位という不本意な結果に終わってしまう。


プロ野球やJリーグなどのプロスポーツでは、チームに大きな変化が必要な時、監督を変えるという手法をとることがある。しかし、アマチュアスポーツの場合、監督がいないことも決して珍しくはない


その場合、実質的にチームの先頭に立つ役割を担うのが、キャプテンだ。「MUD」は、チームが大きな変革の必要性に迫られた2017年のシーズン終了後、キャプテンの大役を田村選手に託した


普段はのんびり屋だという田村選手だが、アルティメットに取り組んでいる時だけは、人が変わったかのように眠っている能力が引き出されると語る。


「私はスポーツが大好きなわけでもないし、できることなら“ぬくぬく”と過ごしていたいんです。アルティメットに出会わなかったら、ほかのスポーツなんてやらずに、普通にOLをしていたと思います


「でも、自分でも不思議なんですけど、アルティメットが自分の持っている能力を全て引き出してくれるような感覚があるんです。アルティメットをしているときしか出てこない自分がいて、自分に対しても、周囲に対しても厳しくなることができるんです」


このように話す田村選手の表情は言葉の内容とは裏腹に、やはり、のんびり屋な雰囲気を漂わせている。その姿からは、大声でチームメイトに指示を出す様子を想像することはできない。


そんな田村選手の隠れた能力を引き出すアルティメットとは、一体どんな競技なのだろうか?



知力・気力・体力の全てが必要な、まさに「究極」のスポーツ


アルティメットとは、直径27センチ、重さ175グラムのフライングディスクを使用して得点を競う1チーム7人制のチームスポーツだ。


100m×37mのフィールド内でフライングディスクを落とさずにパスをして運び、フィールドの端に設けられたエンドゾーンと呼ばれるエリア内でディスクをキャッチすると得点となる。


アルティメットはアメリカで考案されたスポーツのため、アメリカ・ロサンゼルスで開催が決定している2028年の夏季オリンピック競技大会での採用を目指す、まさにこれから注目が集まることが予想されているスポーツだ。


実際に筆者が見たアルティメットは、柔と剛が同居したような、とても華やかで、とても激しいスポーツという印象だった。


パスを出した選手の手から放たれたフライングディスクが、糸を引きながら綺麗な弧を描いて、受け手の選手の手元に収まる。この時の美しさは、他のスポーツにはない優雅さを感じる。


一方で、広いフィールドを1チームたった7人で、100分間も走り続ける体力が要求され、また相手より一瞬でも早くディスクを触るために、ギリギリのところで身体をぶつけながらキャッチする強さや勇敢さが求められる。


実際に、田村選手は過去2度にわたり、選手生命を奪われかねないほどの大怪我を負っている。


2012年には、ジャンプしてディスクをキャッチした後の着地の際に相手と接触し、右ヒザの前十字靭帯を断裂


また2016年には、フライングディスクをダイビングキャッチした際に、右手の小指を開放性脱臼(骨が皮膚を突き破ってしまった状態の脱臼)するという大怪我を負った。


アルディメットは、想像以上にハードなスポーツであり、知力・気力・体力の全てが必要な、まさに「究極」(Ultimate)のスポーツと言えるだろう。


大学生から社会人になっておきた変化


田村選手は大学1年生の時にアルティメットに出会い、4年生の時には世界選手権の日本代表候補合宿に招集されるなど、若くして将来を嘱望された選手だった。


しかし、当時は自分の技術に自信が持てず、また、日本を代表して戦うという心構えも備わっていないと、自ら代表を辞退する。


その後、田村選手が社会人になって最初に所属したチームは、日本のアルティメット界の第一線を退いた選手たちで構成されたチーム。先輩たちのプレーを見て、真剣に競技に向き合ってきた人にしかわからない深い知識や奥深さを感じたという。


「私の場合は、大学時代に強豪チームでプレーしていたわけでもなく、単にアルティメットが面白いと感じてプレーしていただけでした。当時は1人で何百球もスローの練習をするなど、自分なりに一生懸命に取り組んでいるつもりでした。


でも、それでは全然足りていなかったことに、社会人になってから気が付きました。競技の奥深さを知ってから、練習への取り組み方も変わっていきました


眠っていた能力を開花させているものは


こうして、田村選手はアルティメットの魅力にさらに引き込まれていった。


アルティメットは、高い飛行性能を持つフライングディスクに大きな特徴があるスポーツ。特にこのフライングディスクは、自然環境に大きく左右されやすい。競技の奥深い魅力について、アルティメットと風の関係を例に出して、わかりやすく話をしてくれた。


「例えば、風速6メートルの風があると、普段はスローが得意な選手でも投げるのが難しくなります。もし前半が向かい風だった場合、前半はゾーンディフェンスで足を止めて、後半から一気に前から攻めていこうとか、また、横から風が吹く場合は、前半はこっちのエリアから攻めていこうとか、そういったことをSNSなどを使って、試合前からコミュニケーションをとっています。


自分一人だけが自然環境に適応してもダメなので、チームメイトとの共通認識を持つことを大切にしていますね


ユニフォームを着た時の田村選手は、全体をよく見渡しながら、周囲とコミュニケーションをはかり、時には大きな声で指示を出す。


ビジネスの世界では、「役割が人を育てる」ということがあるが、もしかしたら、アルティメットというスポーツ、そしてキャプテンという役割が、田村選手の眠っていた能力を開花させていると言えるのかもしれない。


楽しみながら次の目標へ


田村選手が所属する「MUD」は、現在世代交代の真っ最中だ。田村選手は今シーズンからキャプテンを後輩に譲り、補佐役に徹しながらアルティメットを楽しんでいると言う。


そんな田村選手がいま目指しているのが、2021年にアメリカで行われる「第11回ワールドゲームズ」バーミングハム大会だ。


ワールドゲームズとは、「第2のオリンピック」とも言われる国際総合競技大会で、夏季オリンピック・パラリンピックが行われた年の翌年に開催され、オリンピック競技大会に採用されていない競技種目で行われる。


田村選手はこの数年間、ワールドゲームズを大きな目標にアルティメットに取り組んできた。


「今も代表チームの選考期間中で、来年の2月までに選手が絞られていくことになっています。もう一度、世界と戦うために、まずはメンバーに選ばれるように頑張りたい」と次の目標を見据えて、今日もトレーニングに励んでいる。


アルティメットを通して徐々に自信をつけ、日本を代表する選手に成長した田村選手は、2021年、アメリカの地でどのような姿を見せてくれるのだろうか。


≪取材・文・写真:瀬川泰祐≫


田村友絵 プロフィール


幼少期から様々なスポーツを経験し、中高生の時はバスケットボールに熱中。成蹊大学でアルティメットに出会い、抜群の身体能力と運動量、惜しみない努力により、メキメキと頭角をあらわし、日本代表まで昇りつめた。


日本代表として世界のレベルを感じ、日本アルティメット界の底上げを切に願い、様々なメディアなどでアルティメット競技の素晴らしさを広めている。


正真正銘のディスクに愛される「円盤美女」であり、業界のカリスマとして日本アルティメットを牽引している。

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