男子マラソンの前日本記録保持者、Hondaの設楽悠太選手が9月30日、都内で記者会見に応じ、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)を戦い終えての感想、今後のレース出場予定などを語った。
設楽悠太が少しだけ漏らした本音
2018年2月25日に開催された東京マラソンで、16年ぶりの日本新記録となる2時間6分11秒をたたき出したのが設楽選手。さらにその7ヵ月後、10月7日のシカゴマラソンで大迫傑選手(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)が2時間5分50秒で日本記録を更新した。
9月15日に開催されたMGCで獲得できる五輪代表枠は2つで、両選手が大本命とされていた。
ところが結果は富士通の中村匠吾選手が2時間11分28秒で優勝。2位は同36秒でトヨタ自動車の服部勇馬選手。2人が東京五輪の日本代表に内定した。
大迫選手はわずかに及ばず3着に。スタート直後から単独で抜け出した設楽選手は30km過ぎに失速。37km過ぎに後続のメイン集団に抜き去られ、2時間16分09秒の14位でゴールした。
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(c)Getty Images
「今回一発選考を採用したことで世間から見たらとても分かりやすい選考でしたが、僕からしたらこの時期にマラソンは勘弁してほしいと思いました」と笑いを誘いながら、「でも決まった以上、選手は従うしかないですし、いい選考方法だったとは思います」とMGCから半月経過したこの日、設楽選手は少しだけ本音を漏らした。
他の有力選手は「勝てばいいというシンプルなルールだったので選手にとってよかったし、楽しめました」(マツダ・山本憲二選手)、「周囲が盛り上がったのがよかったです」(ヤクルト・高久龍選手)と語る一方で、設楽選手は独特の表現で気持ちをストレートに表した。
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残りの1枠をかけた戦い
男子マラソンの東京五輪代表枠は3。残る1つは『MGCファイナルチャレンジ』と呼ばれる今後の指定3大会で2時間5分49秒を切った選手がいれば代表になる。これが現れない場合はMGC3着の大迫選手が最後の五輪切符を手にする。
日本陸上競技連盟が指定する今後の3大会とは、2019年12月1日の『第73回福岡国際マラソン』、2020年3月1日の『東京マラソン2020』、3月8日の『第75回びわ湖毎日マラソン』だ。『MGCファイナルチャレンジ』の設定記録は、大迫選手が持つ日本記録よりも1秒速いタイムである。
この非常に厳しい設定タイムを破る可能性が最も高いのは設楽選手と大迫選手だろう。学生時代の箱根駅伝から常に戦ってきた設楽選手と大迫選手は、東京五輪代表の座をめぐっても注目を集める。
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(c)Getty Images
お互いがその存在をリスペクトしているエピソードとして、設楽選手がMGC直後にツイッターに綴った言葉がある。
「MGC当日、行きのバスの1番後ろの席は大迫、設楽、村澤さんの並びでした。最後に乗り込んだのでそこしか空いてなかった。マラソンより緊張しました笑」
大迫選手もテレビ出演で同様のことを笑顔でコメントしている。
東京五輪に向けたチャレンジ
気温がようやく低くなり、ランニングシーズンが本格化すると、トップクラスの実業団ランナーは駅伝に集中する。五輪を決めている中村・服部両選手も所属する企業の一員としてニューイヤー駅伝出場を見据えつつ、東京五輪への準備に余念がない。
「このあと駅伝シーズンに入るのでチームに貢献できる走りを目指すとともに、冬か春にハーフマラソンを走り、4月にはトラック練習を積んで、本番となる東京五輪を迎えたいです」(中村選手)
「まだマラソンかハーフマラソンかは決めていませんが、駅伝は地区予選から走る予定です」(服部選手)
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もちろんHondaの重要な戦力である設楽選手も「このあとは駅伝があるので、まずはそこにしっかりと集中したい」とコメントしつつ、それと同時に東京五輪へのチャレンジを目指す決意を明らかにする。
「(コンディションなどの)状況を見ながら12月までにマラソンを1本走りたいなと思っています」
もちろんファイナルチャレンジという意味だ。さらに「来年ももうひとつ」とつけ加えた。2レースを走る予定なのだ。
それが福岡国際と、過去に日本記録を出した東京マラソンを指すのか。戦略もあってその明言は避けたが、飄々としたスタイルでチャンスに挑む設楽選手の走りをしっかりと見てみたい。
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≪山口和幸≫