【山口和幸の茶輪記】デュムランがジロ・デ・イタリアを制す…一時は腹痛でチャンスを失いかける | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【山口和幸の茶輪記】デュムランがジロ・デ・イタリアを制す…一時は腹痛でチャンスを失いかける

オピニオン コラム
ジロ・デ・イタリアを制したサンウェブのトム・デュムラン
  • ジロ・デ・イタリアを制したサンウェブのトム・デュムラン
  • ジロ・デ・イタリア第19ステージ
  • トム・デュムランが最終日の個人タイムトライアルで逆転
  • ジロ・デ・イタリア第19ステージ
  • デュムランがライバルのキンタナとニーバリを抑えてゴール
  • ジロ・デ・イタリア第19ステージ
  • 最終日前日までマリアローザを守ったキンタナ
  • 有力選手のアタック合戦
第100回ジロ・デ・イタリアでサンウェブのトム・デュムランが最終日に大逆転劇。オランダ勢として初めての栄冠を手中にした。

個人タイムトライアルを得意とし、単発の山岳なら独走する実力もある。ところが思わぬ落とし穴もあった。

第16ステージは2年連続3度目の総合優勝をねらうバーレーン・メリダのビンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)が、スカイのミケル・ランダ(スペイン)との一騎打ちを制してイタリア勢として今大会初優勝を遂げた。その陰にあってデュムランをハプニングが襲った。

第10ステージの個人タイムトライアルで圧勝したデュムランは、第14ステージの山岳でも優勝し、総合2位ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)に2分半以上の差をつけて、この日も有力選手とともにゴールを目指していた。

有力選手のアタック合戦

ところが突然の腹痛に襲われる。「おそらく食べたものが悪かったんだと思う」。途中で自転車を降り、肩ひも付きのパンツをおろすためにリーダージャージのマリアローザをかなぐり捨てて草むらに駆け込んだ。ライバル選手は先行してしまい、およそ2分のロス。なんとか首位は守ったものの、ゴール後のキンタナとの差は31秒になった。

首位選手に実力外の事態が発生したときは他選手が復帰を待つこともあるが、「すでに区間優勝争いが激しくなっていて、それを望むことはできなかった。自分に腹が立つ」と、デュムラン。表彰台ではまったく笑顔を見せなかった。

ボクたち一般レベルでもマラソン大会やロングライドに挑戦するときは、「途中でお腹を壊したら、ちょうどいい場所にトイレがあるかな?」などと不安になることがある。それがジロ・デ・イタリアなどというプロレースで、しかもマリアローザを着用するトップ選手の身に降りかかったのだから、当人の心情を察するといたたまれなくなる。

翌ステージは復調して首位を守ったデュムランだが、「オランダではニュース沙汰になってしまったが、そんなことは気にしないように努めている」と語り、「草むらに座り込むためにここにきているわけじゃない。ライバル選手の攻撃が始まるだろうが、首位の座を最終日まで守りたい」と決意を語った。

四半世紀もスポーツイベントを取材していると、選手が時折体調不良でレース途中に立ち止まる光景に遭遇する。ただしそれは「武士の情け」と言うわけではないが、記事にはあまりならない。グラウンドでプレーする競技なら「タイム」を取ってトイレに行くこともできる可能性があるが、まったなしのロードレースはかなり過酷だ。立ち止まったら集団から脱落して完走できない。人間としての尊厳か、成績か。どんな鍛え抜かれた選手であろうが、やはり生身の人間なのである。

第19ステージでデュムランはキンタナに逆転を喫したが、なんとかその差を38秒にとどめた。「首位のマリアローザを取り戻せてうれしいが、デュムランは最終日のタイムトライアルが得意なので、最後の山岳区間となる明日もっとその差を広げたい」とキンタナ。

最終日前日までマリアローザを守ったキンタナ

デュムランは翌日も15秒タイムを失い、最終日のミラノで行われる個人タイムトライアルを残して総合優勝争いは大激戦。バーレーン・メリダのビンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)が39秒遅れの総合2位、デュムランは総合で53秒遅れの4位と後退した。

そしてミラノで行われた最終日の個人タイムトライアル。デュムランがキンタナとの53秒差を逆転。総合4位から一気に1位に浮上し、オランダ勢として初めてとなる総合優勝を飾った。最終日の逆転劇は史上3回目で、2位キンタナとの最終的なタイム差は31秒だった。

得意とする個人タイムトライアルでライバルとの差を広げ、山岳区間で上りのスペシャリストに致命的な差をつけられなかったことがデュムランの勝因。そして不測の事態になってもあきらめない精神力。ボクたち一般スポーツ愛好家も見習わなきゃ。
《山口和幸》

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