30km強の道のりを走り終えたあと、女性は「首都圏から近いところにも、こんなにいい場所が…」と言ってくれましたが、何もそこまで足を延ばさなくても(都心から佐野まで、鉄道やクルマでも1時間30分ほどかかります)、もっと近くに自転車で走るのに適した場所は数多くあります。日の短いこれからの季節、アクセスには時間をかけたくないもの。そこで今回は都心から近場のおすすめエリアをいくつか紹介しましょう。
まず挙げたいのは黒目川。都立小平霊園内にある「さいかち窪」に源を発し、東久留米市や埼玉県新座市などを経て朝霞市で新河岸川に合流するこの川は、都市部を流れているとは思えないほど、流域には開発の手がおよばない自然豊かな風景が残されています。
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黒目川沿いの建物の多くは低層で、空が広く感じられる
最寄りの西武新宿線&拝島線の小平駅(上流)や東武東上線の朝霞台駅までは都心(JR山手線の最寄り駅)から鉄道で30分もかかりませんし、自走したところで知れてます。
江戸の水需要をまかなうため、多摩川から引かれた総延長43kmの掘割が玉川上水。その起点に近い羽村駅だと都心から50分ほどかかるため、上水がJR中央線を横切る三鷹駅(都心から16分)からさかのぼればいいでしょう。武蔵野の雑木林を抜ける気持ちのいい道は、川面に目をやると都市の中小河川とは思えないほど透明度が高く、地方の田園地帯と変わらないのどかな雰囲気も味わえます。
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玉川上水に沿って延びる、武蔵野の雑木林を抜ける道
近くに江戸東京たてもの園のある小金井公園がありますし、西武国分寺線の鷹の台駅や西武拝島線と多摩モノレールの、その名も玉川上水駅など交通の便はとてもいいので、途中で引き返しても最寄り駅から鉄道で帰ってもOKです。
見沼田んぼは、さいたまと川口の2市にまたがる首都圏の貴重な自然です。江戸時代にもともとあったため池を干拓したもので、東西の両縁には用水が開削され、その用水沿いの道が格好のサイクリングコースとなっています。最寄りとなるJR武蔵野線の東浦和駅は都心から30分ほどで、そこから0.5kmの見沼通船堀には閘門式運河の遺構、用水をさかのぼると社寺や公園がいくつも現れて興趣が尽きません。
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見沼田んぼの東西両縁をつなぐ見沼通船堀には、閘門式運河が復元されている
そしてイチ押しといえるのが川口市の北東、草加市と境を接する安行です。最寄りは埼玉高速鉄道線の戸塚安行駅となり、やはり都心から30分もかからず、僕の自宅からも5kmと至近。この安行は江戸時代から植木が盛んで、今もいくつもの業者が造園を営んでいます。
この時期は木々の多くが赤や黄に色づいており、迷路のように張り巡らされた細道を気持ちのおもむくままに進んでいくと、桃源郷に入り込んでしまったかのような気分が味わえます。
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迷路のように張り巡らされた安行の細道
なお、ここで取り上げたエリアには、いくつかの共通点が挙げられます。ひとつは川や用水に沿ったエリアということ。治水の進んだ今でこそ安心して利用できるようになりましたが、水に浸かる危険のあった土地は、開発が進まなかったという事情があります。川は行政界となっていることも多く、開発がしづらかったこともあるでしょう。
川はありませんが安行も、川口と草加の境です。また、開発が進まなかったということで、取り上げたどのエリアにも未舗装路が残っています。MTBなど太いタイヤの自転車にとってはむしろ望ましくもありますが、ロードバイクでは注意が必要です。
こうした穴場は他にもありますから、このコラムを参考に近場で探してみませんか?ちょっとした空き時間にも、サイクリングが楽しめます。