
近年、新たなテクノロジーが続々と導入され、それに伴いルールも変更となっているMLB。その中でもここ数年最も大きな変化だったのが、ピッチコムの導入とピッチクロックのルール制度だろう。
試合時間短縮を狙ったこの施策は一定の効果が見られている一方で、新しい機器やテクノロジーの導入はしばしば新たな混乱を引き起こす。
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【解説】ピッチコムとは?
MLBで2022年から導入された電子サイン伝達システム。捕手や投手がリストバンド型送信機でボタン操作を行うことで球種やコースを入力し、受信機を装着した投手と最大3人までの野手に暗号化音声で情報が伝達される。この機器の主目的はサイン盗みの防止にある。過去にサイン盗みが問題化したことから、外部からの情報漏洩を防ぐ必要性が高まり、ピッチコムが開発された経緯がある。さらに、ピッチクロック導入以降は迅速なサイン交換が必要となり、試合のテンポ維持にも寄与している。選手は音声言語を選択でき、コミュニケーションの効率化と認識精度も向上。ピッチコムの導入によって、MLBは試合進行の公平性とスピード、そして現代的な運営へと一歩進めたといえる。
■コーチ補佐→捕手→投手で伝達
18日(日本時間19日)に行われたドジャース対ジャイアンツの試合では、1回裏にジャイアンツの先発ローガン・ウェブ投手のピッチコムに不具合が発生。大谷翔平投手の第1打席前に試合が中断するハプニングが起きるなど、今季はピッチコム関連の中断が多く見られるようになった。
さらに、ピッチコムの導入は作戦面においても新たなトレンドを生むかもしれない。先日MLB公式サイトが公開した記事「Marlins win in extras… with coaches calling the pitches?」では、マーリンズがピッチコムに関して先進的な使い方をしていることを報じるものだった。
記事内では「投手コーチ補佐レイクマンが、ダグアウトからヒックス捕手にサインを送り、ヒックスがリストバンドのピッチコムを使って投手に配球を伝えていたのだ」と言及。これまで、捕手が投手に向けてサインを出すのが一般的だった大原則を覆す作戦をとったというのだ。現行のルールではコーチ陣にピッチコムの操作権限がなく、発信者は投手か捕手のみ。受信者は野手が最大3人保持できることとなっているため、このようなかたちとなっている。
実際に登板したジャンソン・ジャンク投手も「うまくブレンドされたという感じだった。今日の試合ではスムーズにいったと思う」「すべて順調だった。待たされている感じも全くなかった」と語っており、この日においてはマーリンズの作戦が上手くはまった形での勝利ということになるだろう。
■重要なのは「イニング間のコミュニケーション」
実はこの作戦、マーリンズは今季傘下のマイナー各球団で組織的に導入してきたのだそう。現在捕手を務めるアグスティン・ラミレス捕手、リアム・ヒックス捕手らが若手であることから、プレッシャー軽減のために使用したかと思いきや、クレイトン・マカロウ監督は「このシステムを使えば、時間をかけるほど投手たちのパフォーマンスが向上するということを議論してきた。今こそ導入に適した時期だと感じたし、まだシーズンは残っている。私自身が安心して実施できるタイミングだと判断した」と“確信のある”戦術だったと語ったのだ。
また、指示を受けていたヒックスも「コーチ陣はベンチからヒートマップやリアルタイムのデータを見られる。自分がグラウンド上では見られない情報にアクセスできる一方で、僕が見えて彼らに見えないものもある。だからこそ、イニング間のコミュニケーションが大事だ」と語るなど、戦術には理解を示し前向きに捉えているようだ。
捕手がフィールド上の指揮官となり、考える“野球らしさ”のようなものが失われるという否定的な意見はもちろん出るだろうが、ピッチコムが導入されたことで今後このような作戦をとるチームも増える可能性も高い。新しいテクノロジーが野球のスタイルにどのような変革をもたらすのか?今後も注目していきたい。
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