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「チーム三菱ラリーアート」は21日にスタートした「アジアクロスカントリーラリー(AXCR)」2022年大会に「トライトン」(T1仕様=改造クロスカントリー車両)の3台体制で参戦。最終日となる26日、アンコールワット遺跡で有名なカンボジアのシュムリアップを舞台にLEG5が行われ、最終SSまでに2位以下に8分以上のリードをもって臨んだチーム三菱ラリーアートのチャヤポン・ヨーター(タイ)が総合タイム8時間22分42秒を記録、初参戦ながらAXCRの総合優勝を飾った。
■2日目に総合首位に浮上
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疾走するチーム三菱ラリーアート・トライトン105号車 提供:三菱自動車
最終ステージとなるSS6はこれまでの5つのステージに比べより厳しいコース設定、大きな穴と深いわだちが連続する荒れたダート、ひとたびぬかるみにはまってしまうと脱出にかなりの時間を要するマッド、そして人ひとりがかきわけてようやく歩けるほどの細い藪道など、距離が短いながらも難易度が非常に高かった。マッドから脱出できずに2時間の制限時間内にゴールできなかったチームも続出。コ・ドライバーの的確なナビゲーション、ドライバーの高い集中力と正確なドライビング、ラリーカーの悪路走破性がカギを握った。
トライトンの105号車をドライブするチャヤポンは、正確で安定したドライビングで大会2日目に総合首位に浮上すると最終日までその座をキープ。総合優勝をかけた最終のSS6は、ミスコースを犯し車両にダメージを与えたりしないことを最優先しながらも守りに徹することなく、持ち前の冷静なドライビングにより公式タイム44分12秒を叩き出し区間5位、総合優勝へとまい進した。
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タイとカンボジアにまたがる密林を走破するアジアクロスカントリーラリー 提供:AXCR 2022
「今日はチャヤポンを徹底的にサポートする」と最終SSに臨んだ118号車のリファット・サンガー(インドネシア)は、コースが見当たらないような藪道でもコ・ドライバーの的確なナビゲートにより安定した走りをみせ、SS6の公式タイムは48分8秒で区間7位ゴール、総合タイムは8時間39分56秒で5位と健闘した。スプリントラリーをメインとするリファットは、今回が自身初のクロスカントリーラリー。経験に劣るも各ステージで上位タイムを記録し、LEG1でのアクシデントを乗り越え完走を果たした。
総合優勝を果たしたチャヤポンは「6日間にわたりとても厳しい戦いになりましたが、チャンピオンになることができて本当にうれしいです。エンジン排気量が大きなライバルもいる中で勝ち抜くために、ミスを徹底的に減らし、慎重にひとつひとつのコーナー、そしてステージをクリアすることに集中してきました。今回のラリーで好成績を出せたのは、『トライトン』の素晴らしいハンドリング性能があったからだと思っています。ターマック、グラベル、マッドとあらゆる路面コンディションでもとてもコントロールがしやすく、思い通りのラインで走ることができました」とコメント。
■勝利の鍵はチームワークと三菱のノウハウ
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道なき道も多くリタイヤも続出 トライトンは2台が完走 提供:三菱自動車
リファットも「今回は初めてのクロスカントリーラリー挑戦でとても楽しかったし、全ステージを無事に終えることができて本当に満足しています。今回の参戦を通して自分のスキル、そしてラリーカーともに、鍛えるべき課題もしっかり見つけることができました。そして、改めて感じたのは『トライトン』は本当にタフで頑丈、心から信頼できるクルマだっていうこと。市販車に近い状態でここまで戦い抜けたことは素晴らしいことだと思っています」と感想を述べた。
またチーム三菱ラリーアートの増岡浩総監督は「今回はラリーアートの名の下でモータースポーツシーンに復帰する初めてのイベントで、私たち三菱自動車にとっても非常に大事なラリーでした。上位で完走できれば上出来と思っていましたが、総合優勝することができて大変嬉しく思います。エンジニアとメカニックが『トライトン』を毎日完璧な状態でコースに送り出し、ドライバーとコ・ドライバーがコース上で『トライトン』のパフォーマンスを最大限に引き出してくれました。今回の勝利はチームワークと三菱自動車が長年培ってきたノウハウによる賜物です。チーム三菱ラリーアートは来年の参戦も視野に入れ、しっかりとチーム体制、そしてラリーカーを準備していきたいと思います。今回応援してくださったファンのみなさま、多大なるご支援を頂きました協賛各社様、本当にありがとうございました」とチーム・サポートへの感謝を忘れなかった。
なお、119号車を駆るサクチャイ・ハーントラクーン(タイ)は初日のSS1の後に体調不良を訴え、新型コロナコロナウイルスの検査結果で陽性。今大会をリタイヤした。ラリーアートは、こうしたアクシデントを乗り越え、初参戦初優勝をもぎ取っただけに、その達成感もひとしおだろう。
「ラリーの三菱」の復活は頼もしい限り。今後、かつての「パリダカ」、現在のダカール・ラリーに向け、さらなる歩みを進めるのか。これからのチーム三菱ラリーアートに、さらなる期待がかかる。
◆出場試験車・三菱トライトン試乗体験記 ラリーは作り込みより「現地での対応力がすべて」
◆【三菱ラリーアート正史】第1回 ブランドの復活宣言から、その黎明期を振り返る
◆【パリダカ回想録】プロローグ:世界一過酷なモーターレース「パリダカールラリー」を振り返る
文●SPREAD編集部