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モビリティリゾートもてぎで行われたスーパーGT今季最終戦、最大の注目はやはりタイトルの行方だ。
第7戦終了時点でGT500クラスチャンピオンの可能性を残していたのは6チームだが、実質はランキングトップの3号車ニスモZ(千代勝正/高星明誠)、2.5ポイント差2位の12号車インパルZ(平峰一貴/ベルトラン・バゲット)、4ポイント差3位の17号車レアルレーシングNSX(塚越広大/松下信治)の3台で争われると予想できた。ではその中で最有力はどのチームかといえば、私は17号車に分があると思っていた。
■実際にはオールラウンダーだった新型Z
もてぎは直線をタイトなコーナーで繋いだ、いわゆる“ストップ&ゴー”レイアウトのサーキット。それまでのサーキットとは特性が異なる。もともとお膝元でもあるホンダ勢が得意なコースだと言われており、現行マシンのNSXで戦った過去2年の戦績を見てもそれは明らかだった。一方ニッサンZは今季新たに投入されたマシンで、もてぎのレースは今回が初だ。富士や鈴鹿では速かったが、もてぎとなると実力は未知数。しかもストップ&ゴーは抜きにくいサーキットでもあるため、決勝で順位を上げることも難しい。
ところが蓋を開けてみれば、予選ポールは100号車クニミツNSX(山本尚貴/牧野任祐)と順当だったものの、17号車はNSX勢最後尾の10位。他のNSX3台も6位、7位、8位と中団に甘んじた。そして、その間に割って入ったのが3台のZ。12号車は3位、3号車は4位で、この時点で17号車のタイトルは難しくなった。ポールの100号車もランキング4位で優勝した上に、上位3台が総崩れすればタイトルの可能性はあったが、12号車と3号車が3位と4位では同じく難しい。
結局レースで優勝したのは100号車で、12号車が2位に入りタイトルを獲得。3号車もドライブスルーペナルティを受け一時最下位まで後退しながらも、最後は4位まで巻き返しランキング2位。スーパーGT2022年シーズンはこうして、ニッサンZの華々しいデビューイヤーとなった。
開幕戦でニッサン勢のあるチームが「昨年までのGT-Rはコーナリング性能の面で他2メーカーのマシンに対し分があった一方で、ストレートスピードが弱点だった。その弱点を克服するのがZの開発コンセプト」だと語っていた。昨年よりもバトルに強くなった印象があるのは、ストレートスピードが上がったことで戦いやすくなったからだろう。かといってコーナリング性能が落ちたのかといえば、そんな感じも受けなかった。
そして、初舞台となった最終戦のもてぎでも他のサーキット同様のパフォーマンス。つまり、コーナリング重視からストレート重視に変わったのではなく、オールラウンダーに生まれ変わったということ。トヨタのスープラはどちらかといえばストレート重視、ホンダのNSXはどちらかといえばコーナリング重視。特性の異なる6つのサーキットを転戦するスーパーGTではやはり、オールラウンダーこそが理想だ。
2008年のGT-Rデビューイヤーでも9戦中7勝という圧勝劇を演じたニッサン勢だけに、今年の新型Zへの期待も大きかった。そして、その期待通りの速さを見せつけた。勝負の要素はマシン本体だけでないが、これで他の2メーカーはタイトルを奪還するためにさらに開発を強化しなければならないと感じていることだろう。今までもそうして、スーパーGT18年の歴史の中で覇権が入れ替わってきた。
スーパーGT500クラスが世界最速のGTマシンとして君臨するのは、こうした背景があるからだ。そのマシンを操り国内外のトップドライバーたちが戦う――国内レースで最も人気があるというのも頷ける話だ。久々に観客の制限がなかったこの最終戦の行き帰りの渋滞ぶりからも、そう感じた。
◆第7戦 デビューイヤーで悲願の王者奪還を狙うニッサンZにピンチ サクセスウェイト足かせに
◆第6戦 大クラッシュの不運を雨の恵みで取り戻した3号車ニスモZ・千代勝正/高星明誠がランキングトップへ
◆【スポーツビジネスを読む】「人生の縮図」レース沼にはまった石渡美奈Hoppy team TSUCHIYA共同オーナー 前編 かつカレーを平らげながら待った初優勝
著者プロフィール
前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター
2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。
■2022シーズンGT500最終ランキング
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2022 GT500 ランキング (C) GTA