【東京五輪/テニス】「爆発力のあるプレーを」土居美咲が純粋無垢な眼差しで見据える2度目の大舞台 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【東京五輪/テニス】「爆発力のあるプレーを」土居美咲が純粋無垢な眼差しで見据える2度目の大舞台

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【東京五輪/テニス】「爆発力のあるプレーを」土居美咲が純粋無垢な眼差しで見据える2度目の大舞台
  • 【東京五輪/テニス】「爆発力のあるプレーを」土居美咲が純粋無垢な眼差しで見据える2度目の大舞台

「体調は万全ですよ!」


元気な姿を見せてくれたのは、年始に南半球から始まった長い海外遠征を終え、日本に帰り着いたばかりの土居美咲だ。


帰国後の隔離生活には母の愛情がこもった手料理が差し入れされ、次戦に向け英気を養う。今年は帰国時に必要な長い検疫を避けるために半年間、家を離れて過ごし16大会に参戦してきた。その対価として選考基準である6月14日付のWTAランキングでは81位となり、2度目のオリンピック日本代表の権利を獲得。30歳という節目で迎えた東京五輪に心を弾ませている。


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■一時は320位台も代表入りで「言葉にできないほど感動」


「東京への誘致が決まった当時、テニスをここまで続けているとは分からなかったので……昨シーズンくらいから、もしかしたら地元開催のオリンピックに出られるかもしれない。その選択肢が私にあるかもしれないと思うと胸が……」


少し言葉を詰まらせ、これまでの歩みを思い返した土居は、ウィンブルドンの地で代表選考の結果を待っていた。「時差があったので、夜中の2時くらいまで速報ニュースを探しちゃいましたよ」と快活ある声で1カ月前を振り返ったが、その時は少し緊張すると同時に、五輪出場の有無が気になってしょうがなかったという。


「テニス選手はグランドスラムが重要視されるし、オリンピックの位置づけが難しいと感じる時もあると思います。それでも私にとっては目標の一つだったので、出場が決まったときは言葉にできないほど感動しましたね」


彼女は2016年にキャリアハイとなる30位を達成してから、一時は320位台までランキングを落とし、ITF下部ツアーをまわりなおした経験がある。トップレベルからの急降下に歯を食いしばり這い上がったあの頃が、彼女のテニス人生の中で最も過酷な時期だったかもしれない。おおよそ2年間に及ぶ暗いトンネルから抜け出せたのは2019年後半。トップ100に復帰すると、その後はグランドスラム本戦への出場が可能となる70位から80位台をキープしてきた。


そんな背景を持つ土居だが、今季は崖っぷちからのスタートだったと言っていいだろう。昨年のオフシーズン序盤から手首に不安を覚え、すぐさま検査へ向かう。ドクターに「2、3日休めば打てるよ」と言われたが痛みは全く引かず、練習できない日々が続いたという。結局、手首が大きく回復することは無く、1球もボールを打たずに全豪オープンに向け出発。「ツアーに出ないという選択肢は無かった」という彼女だが、豪州に到着後、2週間におよぶ隔離中のトレーニングでもポイント練習までたどり着くことは無かった。


今季、黒星スタートで2大会を過ごした後、手首の違和感が無くなったのは日本を出発してから1カ月もの月日が経つ頃だった。その頃から土居は復調の兆しを見せ、同時に不思議な幸運を引き寄せる。


■「ホームで爆発力のあるプレーをしていい結果を」


全豪後に迎えたアデレード国際では予選決勝で敗退。しかしラッキールーザーからの本戦1回戦突破を皮切りに、次戦のカタール・トータル・オープン、ドバイ・テニス選手権と3大会連続で同様のチャンスに恵まれ、しっかりと白星を挙げていく。


「ラッキールーザーは活かさないと意味がないので……自分よりランキングが上のトップ50の選手にも競り勝てたのは良かったですね。綺麗なテニスではなかったかもしれないけど、勝ってやるという気持ちがプレーに繋がって、いい意味での泥臭さも出たかなと思います」


その後、各大会の2回戦でベリンダ・ベンチッチ(11位)、エリナ・スビトリナ(6位)、イガ・シフィオンテク(8位)といったトップ選手とも対戦。3戦とも敗れてしまったが、WTA500/WTA1000大会での本戦勝利はランキングに反映されるポイントも大きく、オリンピックレースにも追い風となった。しかし「グランドスラム優勝」の夢を追い続ける土居にとって、この現状に「納得」や「満足」の言葉は出てこない。


「最近ちょっとモヤモヤしている話をすると、前のほうが爆発力はあったんじゃないかなって正直思っちゃったりしてて……そこをオリンピックで出したいなって考えているんです。例えば、去年の全米でなおみちゃん(大坂なおみ)との対戦で、負けはしたけど向かっていく気持ちから良いプレーを引き出せたなと感じていました。


でも最近はトップ10の選手とやっていても相手に圧倒されることのほうが多く、まだ自分の展開を出させてもらえてない感覚があるので……はやくこの現状を脱却したいですよ。オリンピックはきっかけにする大会ではないんでしょうけど、ホームで爆発力のあるプレーをしていい結果に結び付けたいと思います」


若い時は怖いもの知らずの勢いがある。今は年齢を重ねたことでゲームを見極め、先手を打つ経験値の高さが光る。彼女が言う「爆発力」とは、自身の攻撃的なプレーから相手のミスを待たず勝利を掴み取りにいく姿勢だ。肌で世界の先進を感じている土居にとって、この姿勢こそが今の時代を勝ち抜く必須条件なのだろう。


■いよいよ東京五輪「自分の味を出していきたい」


さらに彼女は現代の女子テニスの変化についても教えてくれた。


「以前より本当にサーブのいい選手が増えましたよ。サーブが軸になっている。(アシュリー・)バーティをはじめ(カロリナ・)プリスコバもそうですけど、スピードもあるし精度も高い。それプラス、パワーがあって展開力が速くコートの中に入って打つ選手が増えていて、テニスのレベルがどんどん上がってきています。イガちゃん(イガ・シフィオンテク)なんて本当にタイミングが速くて、ぐんぐん攻め込んできますから!」


ライバルたちの成長を実感しながら、自身もテニス人生の苦楽を味わい、めげることなくここまでやってきた。テニスに懸ける純粋無垢な眼差しは、ジュニア時代から変わることなく月日が経ったようにも感じる。そんな彼女だからこそ、時代が変わり続けるテニス界でも成長し続けられるのだろう。


長い道のりを経て、土居はいよいよ東京五輪に臨む。


「やるからには自分の味を出していきたいですね。また無観客開催ではありますが全アスリートの戦いや挑戦に何か感じ取ってもらえたら嬉しいです。とにかく本番の舞台で出し切ります!」


最後に威勢のいい笑顔を見せてくれた土居は、ホームであるここ日本で一心一意に高みを目指す。


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著者プロフィール


久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

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