【スポーツビジネスを読む】マヨネーズご飯からの逆転人生 川崎ブレイブサンダース元沢伸夫社長 後編 「スポーツにある無限の可能性」 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツビジネスを読む】マヨネーズご飯からの逆転人生 川崎ブレイブサンダース元沢伸夫社長 後編 「スポーツにある無限の可能性」

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【スポーツビジネスを読む】マヨネーズご飯からの逆転人生 川崎ブレイブサンダース元沢伸夫社長 後編 「スポーツにある無限の可能性」
  • 【スポーツビジネスを読む】マヨネーズご飯からの逆転人生 川崎ブレイブサンダース元沢伸夫社長 後編 「スポーツにある無限の可能性」

Bリーグ島田慎二チェアマンは2026年に向け「Bリーグ構造改革」を打ち出している。リーグ創設10年を節目に昇降格制度を見直し、NBA型を組織。2024年に現存クラブを再評価し、その上で現在のB1の上に新しいB1を創設するイメージという。

その条件は;・1万人規模のフランチャイズ・アリーナの保有・1試合平均4000人以上の観客動員・年間事業規模12億円となっている。

アリーナは、サイズよりも「観るためのアリーナ」というテーマを重視。VIPルーム設置やアリーナを一周できるコンコース、トイレや車椅子席の数など、こうした条件によって収容5000人以上のサイズで評価対象とする。

現在、日本各地でアリーナ構想が進んでいる。東京五輪用に「有明アリーナ」はすでに完成、先日、沖縄アリーナもこけら落としが済んだばかりだ。群馬も2023年に向けフランチャイズアリーナを新設、2024年には名古屋に「スマートアリーナ(仮称)」が完成、各地で続々と新アリーナ計画が進められている。

プロ野球の事業本部長からプロバスケットボールクラブ代表へと新たな冒険に乗り出した元沢伸夫社長は、DeNAがBリーグ進出を決めた2018年当初から、中期計画として新アリーナ「エキサイティング・バスケット・パーク」構想を公表済だった。

元沢伸夫(もとざわ・のぶお)

●株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース代表取締役社長1976年11月26日千葉県松戸市生まれ。立教大学経済学部経営学科卒業後、経営コンサルティング会社勤務。2006年にDeNA入社。社長室にて新規事業などに従事し、ビジネス開発部部長、HR本部人事部キャリア採用マネージャー、中国韓国展開ゲーム事業プロジェクトリーダーなどを歴任。2014年に横浜DeNAベイスターズに出向、執行役員事業本部本部長などを務め、2018年1月より現職。

◆【前編】「すべての仕事が楽しい」

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■新アリーナで『街を変える』

株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース代表取締役社長の元沢伸夫さん

「バスケを見に来て帰る……それだけではありません。いかに半日楽しめるか。それが『エキサイティング・バスケット・パーク』(以下、EBP)。どれだけエンタメ要素を入れ込み、試合以外をどれだけ楽しめるか、そのためには場所が不可欠です」。元沢さんは、その意図を力強く語った。

このEBP具現化に向け、川崎ブレイブサンダースは2020年、NTTドコモと資本提携の上、スポンサー契約を締結。これによりアリーナにおけるエンターテインメント性のさらなる向上を打ち出す。ITソリューションの根底には、5Gを含めた通信インフラの充実は欠かせない。通信大手との連携は、新アリーナ構想への前進を意味する。

アリーナはテクノロジーがすべてだと思っています。その観点からドコモさんは他の追従を許さない。また、最新テクノロジーのアウトプットとしても、雨風など気象状況に左右される屋外のスタジアムよりも、天候の影響を受けない屋内アリーナが適しています。様々なテクノロジーを盛り込めるのは、アリーナスポーツの利点です」と元沢さんは期待感を隠さない。

新アリーナ構想はそれだけに終始しない。「(新アリーナによって)『街を変える』つもりです」と断言。「街のど真ん中にアリーナを作り出すことで、川崎にスポーツ、エンタメの拠点を作り出します」。

■スポーツビジネス再興への第一歩

現在、市内数箇所に候補を絞り込んでいるものの、発表までにはもう少し調整を要すると言う。アリーナ周辺にはバスケットボールを無料で気軽にプレーできる場所設定し、EBP構想の拡充を図る予定だ。

「川崎にはストリートカルチャーが根付いています。(ダンスの)ブレイキン五輪候補になる高校生もいますし、そうした地域性を活かす上でも、さまざまなアクティビティに利用できる場所を作り出したい。ストリート・バスケ車椅子バスケも気軽にプレーできる……そんな場を提供することが、スポーツ全体の底上げになり、スポーツの地位向上につながって行くと思います」。

街を変えれば、雇用も生まれ、それは社会貢献へと直結する。クラブはすでに選手を筆頭にSDGs活動にも力を入れている。スポーツ庁は2025年までに、スポーツビジネス15兆円の成長を描いたものの、新型コロナ席巻により、それは雲散した。だが、こうした「夢のアリーナ」具現化は、スポーツビジネス再興への第一歩となりえる。そして、それはもちろん地域活性化に直結している。

SDGs活動などを通じた社会貢献への取り組みにも注力している(写真提供:川崎ブレイブサンダース)

■理屈で勝てるビジネスではない

川崎ブレイブサンダースは今年3月、決勝で宇都宮ブレックスを破り、第96回天皇杯を優勝で飾った。クラブとしては7年ぶり4回目だが、意外なことにBリーグ・スタートからは初戴冠となった。

クラブとしての目標を訊ねると「アジアナンバー1クラブになること」と明快な答えが返って来た。「人気、実力、経営で1番。そのためには、まずはアジアを知ること。(新型コロナ禍の)現在は難しいですが、アジアへ足を伸ばし、この目で見て、アジアを知り、海外クラブと交流し、そしてアジアを盛り上げる。そうしてこそ初めてアジアを先導できるクラブを目指すことができます」。有言実行を掲げる。

第96回天皇杯を優勝で飾った川崎ブレイブサンダース(写真提供:日本バスケットボール協会)

「人気、実力」を掲げる点、これまでの日本のスポーツと代わりはない。しかし、川崎のみならず、他クラブ、リーグも常に「経営」を標榜する点は、日本における21世紀型のスポーツ・ビジネスの視点と形容して差し支えないだろう。

スポーツ・ビジネスの知見を持たないまま、元沢さんが業界に飛び込んでから8年。その中で成し遂げてきた業績を振り返り、スポーツ界を目指す人々へのアドバイスを求めた。

「スポーツ・ビジネスには『高い専門性』が求められる印象が強い。スポーツ・ビジネスを専門で教える学校や大学院などのイメージがあるからかもしれません。しかし、スポーツはファンあってこその業界。理屈で勝てるビジネスではありません。論理的思考能力はもちろん大事ですが、その必要性は1割、2割だと思っていますし、入ってからでも学ぶことができます。それよりも現場におけるファンやスポンサーとの接点のほうが遥かに大事です」と、まさに右も左もわからない状態で球団経営に飛び込んでいった経験に基づくヒントを与えてくれた。

■スポーツは無限の可能性を持つ

スポーツ・ビジネスという言葉ばかりが独り歩きする昨今ながら、現場から何を汲み取れるか、何を汲み取らなければならないのか、その重要性が理解できる。

スポーツはそもそも公共財。熱意と合理性さえあれば、なんでも実現できる。スポーツは無限の可能性を持つ仕事なんです」。

京セラ、KDDIの創業者・稲盛和夫さんは、「自身のもつ無限の可能性を信じる」ことで「新しいことが成し遂げられる」と説いた。この金言に当てはめると、スポーツの無限の可能性を信じる元沢さんは、日本のスポーツを新しい領域へときっと押し広げてくれることだろう。

元沢さんに率いられ「アジア・ナンバー1」を目指す川崎ブレイブサンダース、その躍進にさらに期待を寄せたい。

クラブは、2021年シーズンに掲げた「2冠達成」を目指し今週末、天皇杯決勝の相手、宇都宮ブレックスと相対する。

◆【前編】「すべての仕事が楽しい」

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著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

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