【サッカー】「欧州スーパーリーグ」はアリかナシか 選手やサポーターの思いとの“乖離”が目立つ現状 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【サッカー】「欧州スーパーリーグ」はアリかナシか 選手やサポーターの思いとの“乖離”が目立つ現状

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【サッカー】「欧州スーパーリーグ」はアリかナシか 選手やサポーターの思いとの“乖離”が目立つ現状
  • 【サッカー】「欧州スーパーリーグ」はアリかナシか 選手やサポーターの思いとの“乖離”が目立つ現状

日本時間19日未明、世界のサッカー界に衝撃が走った。レアル・マドリーリバプールユベントスなどヨーロッパを代表する12のビッグクラブが「欧州スーパーリーグ(ESL)」の創設で合意したと発表したからだ。折しも、UEFA(欧州サッカー連盟)が、UEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)の改革案を発表しようとした矢先の出来事。


さらに、21日までに参加予定だったプレミアリーグの全6クラブがESL計画からの撤退を表明すると、ESL側も「計画の見直し」を発表するなど、不安定な状況が続いている。


果たして、新リーグ誕生となるのか、それとも頓挫するのか。予断は許さない。


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■JPモルガンが巨額を投じて創設後押し


日本でも物議を醸している「スーパーリーグ」だが、特に目新しいプランというわけではない。以前から浮かんでは消え、消えたと思ったらまた浮かんでくる話だ。今回の発表に唐突感を覚えた人もいるかもしれないが、欧州では昨年10月の段階でかなり具体的な話として各メディアなどを賑わしてきた。


ただ、試合形式などを含めて具体的なフォーマットが示され、各クラブがはっきりと参加表明したことは、頓挫してきたとこれまでと違い、「いよいよ今度は本気」という流れであったことは確かだ。特にESLの後ろ盾として、米投資銀行JPモルガン・チェースの存在が明らかになっており、彼らはESL創設へ向けて総額40億ユーロ(約5200億円)の資金を提供するという。


ここまで具体的な話だからこそ、UEFA(欧州サッカー連盟)と各国サッカー協会が即座に共同で反対声明を出し、「ESL参加クラブに所属している選手は、各国代表チームへの出場機会を失う可能性がある」とまで発言し、“ESLつぶし”に必死になっているのだ。また、イギリスのジョンソン首相やフランスのマクロン大統領ら欧州政界のトップが、創設反対のコメントを発したことも、事の重大さを際立たせている。


■欧州CLを巡る長きにわたる抗争


ESLの議論は遡れば、より多額の放映権料や収益を獲得するためにビッグクラブの間で1998年頃からスタートしたもの。例えば、ビッグマネーが動く欧州CLにしても、クラブサイドからは「UEFAからの分配金が少ない」という不満が燻り続けていたし、「欧州CLに参加する金銭的メリットを上げてほしい」という要望は常にあった。


だからこそ、UEFAとしても今回、ビッグクラブの要望に沿うような形で欧州CLの改革案(参加チームを現在の32から36に増やし、入場収入や放映権料をアップ。さらにビッグクラブへの分配率も上げるなど)を用意したが、この改革案に関してもまだまだ不満な複数のビッグクラブが、ついにESL創設に踏み切ったというわけだ。


これまでUEFAとビッグクラブの間で、特に欧州CL改革を巡る“取引材料”のように使われていたのがESL構想であり、実際には使う機会のない伝家の宝刀のようなものだった。それが今回、ついにその宝刀が抜かれた理由は何か。やはり、ここでも新型コロナの影響が横たわる。


■賞金総額は1兆円以上、コロナ禍のクラブが無視できない金額


1月に発表されたサッカークラブの収入ランキングで、首位のバルセロナは前年より1億2570万ユーロ(約163億円)の減収を記録。最も打撃が大きかった4位のマンチェスター・ユナイテッドで、減収額は1億3110万ユーロ(約170億円)にも及んだ。その他のクラブも減収は当たり前で、観客動員の大きいビッグクラブほどコロナ禍で無観客や人数制限に直面した場合の入場収入減は著しい。その赤字の穴埋めを一気に解決できる方法が、「ESL」とビッグクラブは判断したということになる。


実際、先述したJPモルガンが用意する基金、約5200億円から創設クラブへの特典として、最高で約460億円がインフラ整備や損失補填のために渡されるという報道もある。また、欧州CLの賞金総額が20億ユーロなのに対して、ESLはその5倍の100億ユーロ、日本円に換算して1兆円以上にも上るという。コロナ禍で苦しむクラブが無視できない金額だ。


放映権料にしても、欧州CLの場合、全参加クラブに分配されるが、ESLなら限られた20クラブだけで分け合える計算だ。19日の欧米株式市場では、ユベントスマンチェスター・ユナイテッドの株価が急騰した。ESLの創設に合意したことで、参加クラブの収入増に期待が高まったことを市場は歓迎したのだ。


■クロップ監督は構想を全否定「今回も私の気持ちは変わっていない」


ESL構想に反対するロンドンのサポーターたち(2021年4月20日)(C)Getty Images


結局は「金」ということになるが、選手やサポーターらの気持ちは置いてけぼりとなっている。


リバプールクロップ監督は2019年にも「スーパーリーグが発足しないことを祈る。もちろん経済的には重要だが、なぜリバプールが10年連続でレアル・マドリーと対戦するようなシステムが必要なのか? 誰がそんなものを毎年見たいのか?」と否定していたが、「今回も私の気持ち、意見は変わっていない」と欧米メディアにコメントし、続けて「我々はこのプロセスに関与していない。選手も私も知らないことだ。今後の展開を待つしかない」と結んでいる。


欧州CLの楽しみの一つは、各国リーグ戦で上位の成績を収めたクラブ同士が、国の枠を越えて相まみえる「非日常」にある。クロップ監督の言うように、イングランドのチームだろうが、スペインのチームだろうが、ビッグクラブが常に平日の夜に戦うことが決まっていたら、それは「非日常」ではなく、ほどなくして「日常」になる。ビッグクラブに集うスタープレーヤーたちの激突がルーティン化したら、どうだろうか。ご馳走はたまに食べるからおいしいのであって、毎日食べたら飽きるはず。


一握りのクラブによる富の分配。これまで通り国内リーグへの参加は前提となっているが、UEFAの大会には出場せず、自分たちで新リーグを立ち上げて、そこから巨額の利益を得ようというのが、今回の「ESL構想」だ。株式市場は歓迎したようだが、残留争いもないような、参加クラブがほぼ固定化されたリーグの人気が長続きするとは思えない。


高いクラブ価値を存分に生かし、財政のV字回復を図りたいというESLの考えも理解できるが、選手やサポーターの思いと乖離していると言わざるを得ない現状では、反対の輪が広がったとしても賛同の声が大きくなることはないだろう。


欧州スーパーリーグ(ESL)


ESL創設クラブに当初名前を連ねたのは、スペインからレアル・マドリーバルセロナアトレティコ・マドリーの3クラブ、イングランドからリバプールマンチェスター・ユナイテッドマンチェスター・シティアーセナルチェルシートッテナム・ホットスパーの6クラブ、そしてユベントスACミランインテルのイタリア3クラブとなっている。


20チーム制を構想しており、前述の中心クラブを含め15クラブが降格のない常任クラブに入り、残りの5クラブは各国リーグの成績に応じて入れ替え制で参戦する予定。国内リーグは脱退せず、欧州チャンピオンズリーグに代わる大会として平日に実施を目指す。現時点でドイツ勢やフランス勢の参加表明はなく、参加が噂されていたバイエルン・ミュンヘンは公式サイトで「参加見送り」を表明。その後、21日にプレミアリーグ勢の全6クラブも撤退意向を表明すると、ESL側も計画の見直しを発表している。


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文・SPREAD編集部

《SPREAD》
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