【野球】殿堂入りすべきは「記録の神様」 故・宇佐美徹也氏 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【野球】殿堂入りすべきは「記録の神様」 故・宇佐美徹也氏

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【野球】殿堂入りすべきは「記録の神様」 故・宇佐美徹也氏
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野球殿堂博物館は17日、本年度の野球殿堂入りを発表、日米で活躍した野茂英雄氏、佐々木主浩氏らが選出され話題となった。


しかし、その陰で非常に残念な知らせが届いた。アマチュアや審判員などを対象とした「特別表彰」部門において「記録の神様」の異名を持つ故・宇佐美徹也氏が、得票数ゼロで殿堂入りの資格を失った。つまり、殿堂入りが限りなく難しくなったことを示唆している。


プレーヤー部門が、プロ野球取材歴15年以上の記者により投票されるのに対し、特別表彰は「有識者」により構成される「特別表彰委員会」によって選出される。だが、この委員会、よほど野球に理解のないメンバーなのだろう。特別表彰も取材記者による投票であったなら、間違いなく宇佐美氏は殿堂入りを果たしていたに違いない。プロ野球取材記者ほど、記録の重大さを理解している職業はないからだ。


■NPBのデータベース「BIS」の開発にも尽力


宇佐美氏は1933年、栃木県出身。56年からパシフィック・リーグ記録部員となり、後に報知新聞社に入社、記録部長、編集委員を歴任した。


1988年に日本野球機構(NPB)入りすると、それまでスコアシートで管理されていた過去の記録をデータベースで管理する「ベースボール・インフォメーション・システム(BIS)」の開発に尽力。現在のプロ野球記録報道の礎を築いた。


現在、我々がテレビ、新聞などで目にする「公式記録」はすべてこの「BIS」を元に掲出されているとして過言ではない。スポーツ紙に掲載される投手成績や打撃成績からチーム順位に至るまで、すべて「記録の神様」の哲学が反映されている。宇佐美氏なくして、現在のプロ野球記録配信は存在しなかった。


氏は78年よりシーズン毎に全記録をまとめた「プロ野球全記録」を監修。病気療養の為、2004年が最後の版となり、2009年、急性呼吸不全のため、永眠された。なお、元パ・リーグ記録部長で宇佐美氏の“師匠”でもある故・山内以九士氏、「週刊ベースボール」などへの寄稿でも知られる千葉功氏と合わせ「記録の三大神様」とされている。


■鋭い視点で周囲が着目しない記録も掘り起こし


日本プロ野球に「セーブ」記録が生まれたのも宇佐美氏の功績だ。


かねてよりセーブ記録に着目していた氏は、MLBを参考に日本独自のセーブに関するルールを考案。日本プロ野球において「セーブ」が74年に公式記録となる契機を作った。


周囲が着目しない記録を掘り起こす鋭い視点にも卓越しており、74年にセーブ記録が制定されて以降、江夏豊投手の「公式」セーブ記録は「193」であるが、制定以前の記録と合わせると「258」であると調査した実績もある。


この記録を、現在の通算セーブ記録に当てはめると、1位の岩瀬仁紀(382セーブ/中日 ※記録は2013年シーズン終了時点)、2位の高津臣吾(286セーブ/元ヤクルト)に次ぎ、先日、野球殿堂入りした佐々木の252セーブ(日米通算は381)を抜き、通算セーブ数3位に相当する。つまり江夏が、「206勝・258セーブ」の不世出の大投手である事実が明らかになるのだ。


さらに氏の哲学は、数字上で従来の記録を上回っても内実が伴わない記録、作為的に狙って作られた記録に常に批判的であり、自チーム選手にタイトルを取らせるための相手選手への敬遠などは言語道断と痛烈に非難した。


■広く受け止められるべき宇佐美氏の偉業



NPB歴代登板数ランキング(75登板以上が対象。2020年シーズン終了時) 出典:NPB公式サイト


1984年に阪神福間納投手が、1961年に鉄腕・稲尾和久投手が作ったシーズン最多登板記録の78試合を上回りそうになった際には、当時の阪神の安藤統男監督に対し、「稲尾の記録は400イニング以上を投げて作られたもので、中継ぎ登板だけで形だけの記録を作るべきではない」という趣旨の手紙を送ったという逸話さえ残している。


1961年の稲尾は404イニングを投げ抜いている。シーズン最多記録は別表の通り、すでに更新されているものの、100イニングに到達したのさえ阪神の久保田智之投手のみである。


また、稲尾は78試合登板という記録以外にも、1959年の75試合(402.1イニング)、1963年には74試合(386イニング)、1958年には72試合(373イニング)を記録しており、時代は異なれど鉄腕の価値が色褪せるとはない。やはり、その鉄腕が作ったシーズン最多登板数と中継ぎのみの登板数を同列に比較するのは、いささか失敬というものだろう。


サッカーでは、数字で表彰されるのは得点王ぐらいなもの。しかし、野球はスコアシートに記された記録を眺めるだけで、試合状況を脳裏に浮かべることができるほど、他スポーツと比較し数字や記録が重要な意味を持つスポーツである。


プロ野球において記録はそれだけ重要であり、それを書籍のみならず、データベースとして後世に残した宇佐美氏の偉業は、もっと重く受け止められて当然だろう。その宇佐美氏に対し、一票も投じなかった特別表彰委員会の「有識者」ぶりは、いかがなものかと首を傾げざるを得ない。


Yahoo!ニュース個人2014年1月20日 掲載分に加筆・転載


著者プロフィール


たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー


『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。


MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。


推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。


リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。


著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。

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