9月7日、澤村拓一の電撃トレードにプロ野球ファンは騒然となった。
澤村は巨人のドラフト1位として入団し、先発や抑えで結果を残してきたが、近年は不安定さも目立っていた。しかし、新天地のロッテでは豪速球と高速スプリットのコンビネーションで、勝ちパターンの一員としての地位を確立し、チームのクライマックスシリーズ進出に大きく貢献。移籍後のマウンドで見せた自信に満ちた表情は、巨人時代とはまるで別人のようであった。
SPREAD編集部では、2011~14年に巨人の1軍投手総合コーチを務め、澤村を間近で見てきた川口和久氏に、復活の要因や取り沙汰されるMLB挑戦などについて話を聞いた。
■苦闘の末にたどり着いた新球種
澤村はプロ1年目から2桁勝利を記録し防御率も2点台。その後、抑えに転向してからも2年連続30セーブを達成し、2016年にはセーブ王に輝いた。

澤村拓一の年度別成績
しかし、当初の持ち味であった真横に曲がるスライダーのキレが落ちてくると、直球頼みの投球で痛打を浴びるケースが目立ってくる。好不調の波が激しくなり、近年は起用法も安定しない澤村であったが、ある球種の習得を目指していたという。
川口氏は、澤村のプロ入り当初のエピソードも交えながら語ってくれた。
「澤村はプロ入り当初は非常に投手らしい姿で入団してきたのですが、2年目は肩に思いっきり筋肉をつけてきて……。1年目の肩の可動域が素晴らしく動く状態だとすると、2年目は(可動域が)半分くらいでしたね。
『お前、プロレスをやるつもりか』と言ったこともあったのですが、彼はプロ入り前から筋トレで球速を劇的に向上させたという稀有なストーリーを体感しているので、筋トレをやらないと不安になるという気持ちもあったのかもしれません。
1年目は素晴らしかったスライダーが、肩の可動域が狭まり全然曲がらなくなってしまった。その後、フォークの習得に苦労していたのですが、そこで行き着いたのがスプリットだったんですよ。
田中将大(ヤンキースからFA)が投げているようなスプリットをずっと練習していたのですが、それを会得したのがあのトレードのタイミングだったのです」
■移籍後の澤村が習得していた「好投手の条件」
ロッテへの移籍後、持ち味である速球との組み合わせでパ・リーグの打者を手球にとったのが、150キロ近い球速で変化する高速スプリットだ。
この球種が澤村の新しい武器として機能した一因として、川口氏は投球メカニックの改善も見逃せないという。
「ZOZOマリンスタジアムで解説の機会があり、食い入るように見ていたのですが、投げ方がとても良くなっていましたね。ボールをしっかり前でバランスよく投げられるようになっていました。
調子が悪い時の澤村のボールは、シュート回転がかかっていました。リリースポイントが後ろになって、バランスを崩しているとボールはシュートしてしまうのです。
ボールを前でリリースして、キャッチャーミットに届いた瞬間に、後ろ足(軸足)がバランスよくポンと着地する。これが理想であり、好投手の条件です。ロッテに移籍後の澤村はこれがしっかりできていました」
■澤村を後押ししたロッテファンの熱烈な応援
リリースポイントが安定したことで、150キロを超えるストレートとスプリットのコンビネーションがより効果的となり、打者を幻惑した。また、川口氏は新天地での熱烈な歓迎も、澤村の精神面に好影響を与えたと考えている。
「ZOZOマリンでの解説時ですが、『ピッチャー、澤村』のコールですごい拍手が起きたんですよ。不安そうな声が伝わってくるようだった巨人時代を思い出し、『ありえない…』と思いましたね(笑)

ロッテ移籍後の澤村の変化を語る川口氏
澤村は球場やファンの雰囲気にとても敏感です。ロッテファンはすごく声援をおくっていましたが、彼もきっと色々感じていたはずです。(移籍後の)成績が改善した要因のひとつとして、ロッテファンの熱い応援があったのは間違いないです」
安定した投球術の確立と後押しするファンの存在が、澤村をパ・リーグのマウンドで輝かせた。ロッテは惜しくも日本シリーズ進出を逃したが、澤村の貢献度は非常に高いものであったと言い切って差し支えないだろう。
そして、澤村はストーブリーグでも引き続き注目を集めている。今季取得した海外フリーエージェント(FA)権を行使する可能性があるからだ。
■MLB挑戦が実現した場合のカギとなるのは……
一部海外メディアでは、澤村が来季MLBに挑戦する可能性についてすでに言及されている。
また近年は、ドリス(元阪神、現ブルージェイズ)やジョンソン(元阪神、現パドレス)、バース(元日本ハム、現ブルージェイズ)など、NPBで結果を残したリリーバーがMLBで重宝されるケースも増えており、澤村の新天地がアメリカであったとしても、さほど驚きはないだろう。
もし仮に澤村がMLBへ挑戦したら、と質問を投げかけると、川口氏は力強く即答した。
「役割はリリーフ、1イニングのスペシャリストというかたちでしょう。私は成功すると思っています。
ただ、アメリカのボールは日本のものより滑りやすい革を使っているので、肩に負担がくると思います。肩を故障しないか、というのは少し不安です。滑るボールへの対策、肩へのケアなどをしっかりすれば、私はアメリカでも十分通用すると思いますよ」
果たして、来季の澤村が躍動する舞台はどこになるのか……いずれにしても、かつての教え子の確かな成長を語ってくれた川口氏の言葉から、来季も豪腕の気迫溢れる投球に期待して間違いはなさそうだ。
文・SPREAD編集部