■考えてもみなかったCS出場を巡るデッドヒート
千葉ロッテマリーンズがクライマックスシリーズ(以下、CS)進出を決めた瞬間、ほっと胸をなで下ろした。9月には3位を大きく引き離し、見ているのは首位ソフトバンクの背中だけだった。そして、9月30日には、ついにゲーム差なしにまで追い上げた。この時点での目標は、ズバリ、10年ぶりのリーグ優勝。CS出場は問題にしていなかった。
ところが10月、8勝17敗と驚愕の大ブレーキ。気がつくと、ソフトバンクははるか先でゴールテープを切り、3位西武がすぐ後ろに迫っていた。こりゃ、大変だ!
お互いに残り試合5となってから、CS出場を争う戦いは稀にみるデッドヒート。抜きつ抜かれつの攻防となり、11月8日に西武との直接対決を制したロッテが、119試合目になんとかかんとか2位を確定させたのだった。
■ソフトバンク楽勝のムードが漂うが……
晴れて、福岡PayPayドームに乗り込むことになったわけだが、ハッキリいって世間の関心が高いとはいえない。その理由は、ソフトバンクが勝つと多くの人が思っているからだ。
そもそもCSはリーグ優勝を果たしたチームが有利なようにできている。全試合をホームで戦えるうえ、1勝のアドバンテージを与えられている。2020年の場合は先に3勝したほうが勝利となる。つまり、ロッテが勝つには3勝1敗が条件となる。逆にソフトバンクは2勝すればいい。確かにソフトバンク有利。
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千葉ロッテマリーンズの本拠地・ZOZOマリンスタジアム (C)Shintaro Makino
■主砲とエースがいるか、いないか
ロッテ不利のデータはいくらでもある。リーグ1位と2位の激突とはいえ、全日程終了時のゲーム差は14.0。大差である。ソフトバンクが31の貯金を作ったのに対して、ロッテはたったの3つだった。チーム力の差は歴然なのだ。
ソフトバンクには柳田という中軸がいる。2020年の成績は打率.342、本塁打29本、打点86である。タイトルこそ獲得できなかったものの圧巻の成績といえる。対してロッテのチーム打率は12球団最下位だった。頼りのレアードとマーティンは、とっくにいない。
ソフトバンクの千賀は、勝利数、防御率、奪三振の投手3冠に輝いた。11月4日のロッテ戦では、8回無失点2安打と手玉に取った。まるで子供扱い。正直いって、まったく打てる気がしなかった。
10-11月、ロッテとソフトバンクは9試合対戦してソフトバンクの8勝1敗だった。
■あの下克上をもう一度、見せてくれ!
さて、圧倒的なアンダードッグといえるロッテに勝機はあるのだろうか。まずは対戦成績。確かに10-11月のソフトバンク戦は2勝7敗だった。しかし、9月までは10勝4敗と大きく勝ち越していた。最終的には12勝11敗1分と、実は勝ち越している。
そして、ロッテファンの心の拠り所は2010年シーズンだ。リーグ戦3位でCSに出場すると、西武、ソフトバンクを連覇して日本シリーズに進み、中日も倒して日本一に上りつめた。いわゆる「下克上」だ。逆境でこそ力を発揮するのがこのチーム。あの下克上の再現はあるのか!?
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打倒ソフトバンクのキーパーソンは… (C)Shintaro Makino
■すべては第1戦。藤原が千賀を打つ!
ソフトバンクは第1戦にエース千賀を立ててくるだろう。そこが狙い目だ。千賀を打ち崩して初戦を取れば、一気に勢いに乗ることができる。
注目したい野手は藤原恭大だ。大阪桐蔭高校の主力として甲子園で3度、優勝旗を抱いた姿は記憶に新しい。2018年のドラフトで3チームが1位指名し、ロッテが勝ち取った紛れもない逸材。
CS出場がかかる11月7日のオリックス戦では逆転3ランでチームを救い、翌8日の西武戦でもタイムリーツーベースを打った。今月に入ってからの藤原活躍は際立っている。レギュラー選手がコロナ感染で脱落するなか、一軍入りのチャンスを掴んだ。この選手は何かを持っている……。
そして、井上晴哉。最終戦で久々のホームランを放ったのは復調の兆しか? 今までのことは全部帳消しにしてやる。何でもいい、打ってくれ、アジャ!
■チェン・ウェイン活躍の予感がする
次に投手陣。第1戦の先発は美馬学に期待したい。チームの勝ち頭で、ソフトバンク戦は5勝2敗と分がいい。きっと試合を作ってくれるだろう。
スーパーリリーフとして活躍しそうなのがチェン・ウェイン。シーズン途中から加入し、4回先発して4敗と冴えないが投球内容はよかった。その間、チームが取った得点は、1、1、0、0。これでは勝てない。大リーグ3チームで積んだ経験が生きる予感がする。
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チェン・ウェインは大リーグ3チームで積んだ経験が生きれば (C)Getty Images
このスタジアムでジャイアンツをやっつけて、究極の下克上完結へと夢をつなげてほしい。
著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」(産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。