カリフォルニア・ロングトレイル 人工物のない絶景で感じた乾いた風 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

カリフォルニア・ロングトレイル 人工物のない絶景で感じた乾いた風

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カリフォルニア・ロングトレイル 人工物のない絶景で感じた乾いた風
  • カリフォルニア・ロングトレイル 人工物のない絶景で感じた乾いた風

憎きコロナウイルスの影響で、オフィス街、繁華街への往来が制限されている。さぞや欲求不満が募っている人も多いだろう。


今回は、ぼくが以前体験した、カリフォルニアの大自然を行く特別なトレイルをレポートしてみたい。標高3000メートルを超える絶景に吹く、乾いた風を感じていただければ幸いだ。


«牧野森太郎 フリーライター»
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」(産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。

カリフォルニアのハイシエラ


カリフォルニアといえばビーチを思い浮かべる人が多いが、州東端には急峻なシエラネバダ山脈が長々と南北に横たわっている。北米の最高峰、4348メートルのホイットニー山をはじめ、4000メートル級のピークがいくつも連なる、通称ハイシエラだ。


よく「手つかずの大自然」と表現されるが、ハイシエラほど、その形容がふさわしい世界はないだろう。何週間、その中を彷徨っても、人工物を目にする機会は一切ない。目の前に現れるのは、深い森、透明な水をたたえる湖、そして、立ちはだかる岩山ばかりだ。



シルバーパスからの眺め。ハイシエラには数え切れないほどの湖が点在する



この美しいハイシエラを縦断する一本の道がある。北はヨセミテ国立公園、南はホイットニー山を結ぶ337.6キロに及ぶロングトレイル。世界中のハイカーが憧れるジョン・ミュア・トレイルだ。



ホイットニーに挑む。一番奥に見える頂の先端がピーク



なぜ、人はジョン・ミュア・トレイルを目指す?


ジョン・ミュア」は、19世紀後半から20世紀に活躍した自然活動家だ。当時は自然を守る意識は希薄で、山を切り拓いてダムや牧場を作ることは、当然と考えられていた。


そのなかで、ジョン・ミュアは森深いヨセミテ渓谷に住み、自然の尊さを訴え続けた。そして、国立公園という概念を提言し、世界初の自然保護団体シエラ・クラブを設立した。


つまり、ジョン・ミュアは自然の恩人であり、ジョン・ミュア・トレイルは自然保護の象徴的存在といえる。多くの人が一本の道に憧れる理由は、美しい景観ばかりではないのだ。


3000メートルの峠を10回越える


ぼくたちがエントリーしたのは、トレイルから20キロほど南のホースシュー・メドウ。本来であれば、ホイットニー・ポータルという登山口からスタートしたいところだが、入山人数が厳しく制限されているため、好き勝手にはできない。厳しい抽選の末、第6希望でやっと手に入れたパーミットがホースシュー・メドウだったのだ。


午前7時、トレイルヘッドを出発。歩き始めるとすぐに、ハイシエラの凛とした空気に包まれる。抜けるような青空だが、気温は0度前後だ。これから3週間にわたるテント泊、そして、アルコール・ストーブでの質素な自炊生活となる。身も心も引き締まるとは、このことだ。



早朝、谷の底のメドウはすっかり凍っていた



15キロほど歩き、きれいな湖畔を最初の宿泊地に選んだ。行く手にはニュー・アーミー・パスという不気味な岩山が待ち構えている。これからヨセミテまで10回のパス(峠)を越えなくてはいけない。またまた心がキューンと引き締まる。


テントを張り、川から水を汲み、焚火用の枝を集めて設営完了。まだ、ディナーには早い。さっそくパックロッド(旅行用の釣り竿)を組み立てる。シエラに棲むニジマスの原種、ゴールデントラウトに会うのも、ぼくの目標のひとつなのだ。



ゴールデントラウトの可愛い魚体



たった一人で、ストイックにチャレンジする道


3日目、ホイットニー山にアタックする。ジョン・ミュア・トレイルのハイライトのひとつだ。きついのは承知のうえだが、ここまで来たら北米のてっぺんにどうしても立ちたい。


登山道はゴロゴロとした岩場の連続だ。人がすれ違えないほど狭い道もある。それでも、手摺りなどは何もない。


次第に空気が薄くなる。本格的に登り始めて2時間、スイッチバック式登山道のはるか先に目指すピークが見えてきた。あんなに遠いのか……。それは、雲の中にある理想郷に続いているようだった。


ジョン・ミュア・トレイルで過ごした3週間は異次元体験の連続だった。2度にわたる熊との遭遇、突然のサンダーストーム、寝袋で凍えた恐ろしく寒い夜信じられない明るさの月夜


ソロで歩く人が多いのにも驚いた。若い女性も、おばあちゃんも、重いバックパックを背負って一人で歩く。仕事を定年退職した記念に、という男性もいた。自分を見つめ直すチャレンジ。この道は人生のマイルストーンにふさわしい。



自分自身を見つめる旅。トレイルは続く



日本にもあるロングトレイル


ロングトレイルの良さは、自然にどっぷりと浸れること。そして、ゴールがあること。また、登山に比べて肉体へのストレスがマイルドなことも、門戸を広くしているといえそうだ。


日本にも素晴らしいロングトレイルがある。長野県と新潟県に跨がる信州トレイル、和歌山県の熊野古道などは、海外からのハイカーも多いと聞く。


コロナ騒動が終結したら、家族や友人と一緒にトレイル歩きにチャレンジしてほしい。きっと、新しい発見があるはずだ。



トレイルに現れた鹿の親子



«牧野森太郎 フリーライター»


協力:アウトドアツアーズUSA


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