佐藤つば冴(つばさ)選手の見る夢は尽きない。
冬季五輪参入を目指す氷上バトルの「アイスクロス」に挑戦する傍ら、女子アイスホッケーチーム「軽井沢フェアリーズ」ではチームの中心的プレイヤーとして全日本グループA入りを目指す。
根っからのチャレンジ精神に火がついた。
悔しさだけが残ったアイスクロス初挑戦
長野県の軽井沢にあるスポーツクラブでパーソナルトレーナーを本業とする佐藤選手が、激しいバトルで知られるアイスクロスにハマったのはちょっとしたきっかけがあったからだ。
この競技世界の第一人者である山本純子選手が同じ長野県出身で、かつて「軽井沢フェアリーズ」に所属していたという縁だった。
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日本の第一人者山本純子選手(左)が佐藤つば冴選手に声をかける ©Jason Halayko/Red Bull Content Pool
佐藤選手は2018年2月、山本選手が参戦したカナダのエドモントン大会に現地入りし、ここで初めてアイススロープを試走している。平面を滑るアイスホッケーとはまったく異なるスポーツであることを初めて知った。
同年の12月、日本初開催となったレッドブル・アイスクロス(当時の大会名はクラッシュドアイス)が横浜で行われたが、佐藤選手は上位進出を果たせずに悔しい思いだけが残った。
「このままでは終われない。もっと練習してもう一度挑戦したいです」とレース後に答えたものの、特殊なスポーツだけにチャンスはそれほど巡ってこない。
「いつかは絶対に!」というアイスクロスへの思いを残しながらも、本来やるべきものであるアイスホッケーチームに戻り、上位リーグ入りという目標を掲げてチームメートと練習を続ける日々となる。
久々の実戦ではレベルアップを実感
そんななか、アイスクロスのATSX100長野大会が2月2日に長野県の高峰高原にあるスキーリゾート、アサマ2000パークで開催された。
スキー場の一角を借りて、出場選手たちが手作りでアイススロープを造成し、そこでレースを行うという規模が最も小さいアイスクロス大会だった。
それでもまたとない本番環境だけに、これまで日本のトップ選手として海外遠征してきたメンバーが集まった。山本選手をはじめとした女子選手の中に、佐藤選手の姿もあった。
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ATSX 100長野大会の佐藤つば冴選手 撮影=山口和幸
「久しぶりのアイスクロスです。横浜大会以来、やったのは今大会が初めて。ほとんどアイスホッケーの練習しかしていませんでした」と佐藤選手は言った。
しかし、その陰で「時間が取れたときは神戸にある本格的スケートパークでインラインスケートの練習していました」と告白する。
ただし神戸に向かうのはかなりの距離で、時間が空いたときは近くの小さなスケートパークでコツコツと練習していたようだ。
今回の長野大会で久しぶりの挑戦となったが、実力アップしたことを体感することができて佐藤選手に笑顔が浮かぶ。
激しい接触プレーはアイスホッケーと同様。防具も同じものを使用する選手が多いが、海外勢の多くは自分の好きなファッションで滑っている。本格的になるとシューズも改良してスタートする。
佐藤選手の場合はアイスホッケーとの兼業だけにスケート靴やヘルメットはアイスホッケーのものを流用。防具としてモトクロスバイク用のプロテクターを着用して激しいバトルに挑む。
1年ぶりの参戦となった長野大会では先輩格の山本選手に優勝を譲ったものの2位をキープした。
2度目の横浜へ「あとはもう、気持ち次第」
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ATSX 100長野大会優勝の山本純子選手(中央)の左に佐藤つば冴選手が登壇した 撮影=山口和幸
「初挑戦の横浜大会は気持ちで負けてしまっていました。恐怖心に勝てなかった」と反省する。
シリーズでも過去最大級急の落差があるスタートからの飛び出しに躊躇してしまったからだ。そこをうまくクリアできなかったから、あとは地に足が着かなかった。
「横浜の夜景を見ている余裕さえなかったですから。2月15日に横浜で開催される2回目のアイスクロスでは勇気をもって挑みたいです」
「あれ(最初のスタート)を乗り越えない限り、いくら練習をしてもいい結果にはならないので、まずは出だしだけしっかりといきたいです。昨年より全然できるようになったので、あとはもう、気持ち次第。意を決して頑張りたい」と強い言葉が続いた。
軽井沢フェアリーズではグループAへの昇格を狙う「優勝するチャンスはある」
アイスクロス翌週には所属する「軽井沢フェアリーズ」の女子アイスホッケー選手として、シーズンで最も重要視するトーナメント戦に挑む。
それが2月22日から兵庫県神戸市で開催される「全日本女子アイスホッケー選手権B」だ。
国内女子アイスホッケーはトップの8チームで構成されるグループAがあり、各地域予選を勝ち抜いたチームが集うグループB大会が開催されている。
グループAの最下位チームはグループBに降格し、「全日本女子アイスホッケー選手権B」で優勝した1チームだけがグループAに昇格する。
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よく笑い、そしてよく転ぶ佐藤つば冴選手 撮影=山口和幸
「全日本選手権を目標として練習をしてきました。優勝するチャンスはあるのでトップリーグに上がりたい。かなり厳しい試合が続くと思いますが、可能性はあるはずです」
「軽井沢フェアリーズ」は大会初日に1回戦。勝てば2日目の23日に準々決勝・準決勝の2試合をこなす。すべて勝ち上がれば3日目の24日にグループA昇格をかけた決勝を迎える。
春からは自転車という新しいジャンルにも挑戦していくつもりだという。これまでも固定ギアのトラックレーサーを乗りこなしていたが、次はロードバイク。
サイクリングやヒルクライムなどで新境地に挑む意気込みは熱い。まだ26歳、どんな活躍をしてくれるのか注目していきたい。
≪山口和幸≫