「いただいたメールの多くに『ありがとう』と書き込まれていて、スポーツの素晴らしさをたくさんの人が体感してくれたのだと確信しました。これからも自分ができるラグビーというスポーツを通して、こどもたちに夢と希望を与えていくことができたらうれしいです」
『ラグビーワールドカップ2019日本大会(W杯)』で日本の8強入りに貢献した日本代表スクラムハーフ(SH)の田中史朗(ふみあき)選手=キヤノン=が10月29日に都内のイベントに出席し、激闘を終えた現在の心境を語った。
印象に残ったプレーは「すべて」
日本中を熱狂させた快進撃の一員。日本初の海外進出プロ選手であり、日本代表としてゲームの中核を担ってきた。
身長166cmと小柄ながら、抜群のセンスで日本の攻撃をメーク。守備でも対戦相手の大男を果敢なタックルでことごとく阻止した。
テレビやイベント出演などが相次ぐためか、「まだ日常生活に戻れません」と笑顔で告白した。大会の中でどの試合のどのプレーが印象に残っているかを報道陣に聞かれると、感慨深げな表情で思いをめぐらしながらゆっくりと「すべてですね」と返答した。
2015年のワールドカップで「史上最大の番狂わせ」と言われた南アフリカ戦でもスクラムハーフとして出場したが、「あのときはその後ラグビー人気が低迷してしまったので、今回は継続して注目してもらえるようにさらに盛り上げる役をしたい」と、今後も全力でプレーすることを決意する。
周囲や応援してくれたファンたちも含めて『ワンチーム』
「ラグビーはさまざまなチームスポーツの中で人数が15人と一番多い。お互いに尊重し合って、仲間を信じて試合に臨みました」
この1年間で250日以上も同じ時間を共有した仲間たちには、深い絆を感じているという。練習時間だけでなく、常にミーティングをしてお互いの考えを理解していく。それが『ワンチーム」という言葉の真の意味だ。
「それでこそ感動を得られるのがラグビーの誇りだと思います」
自分たちだけではこの感動というのは得られなかったと、周囲や応援してくれたファンにも感謝する。
「いろんな方からメールをもらいました。友だちからもファンの方からも『自分の子どもにラグビーをやらせたいんです』というメッセージも。ラガーマンとしてうれしかったのは、『ボクは野球が好きだ』『サッカーが好きだ』と言っていた子供たちが、ワールドカップを見て、『ボク、今からラグビーやっていい?』と家族に話しかけてくれたこと。スポーツをやることの楽しさを、ラグビーで伝えられたかな」
グラウンド外でも印象的なシーンが多かったW杯
「ラグビーはマイナースポーツだと言われて残念な思いをしてきました」と、ラグビー元日本代表主将の箕内拓郎さんはこう指摘する。
「今回のワールドカップ開催を契機として、たくさんの関係者やボランティアが世界各国からやってくるファンをおもてなししてくれました。もちろん日本代表の活躍も後押ししましたが、グラウンド外のところで出場チームが被災地でボランティアしたりして、『やっぱ、ラグビーっていいスポーツだね』という言葉をたくさん聞きました。僕自身、ラグビーに携わる者として非常に誇らしく感じました」
最後に、田中選手に質問。
「11月2日の決勝戦、イングランド対南アフリカはどちらが勝つと思いますか?」
「決勝戦では南アフリカに勝ってほしいけど、総合力から見てイングランドがいくかな。でもどちらも地力があるのですごい試合になると思います」
≪山口和幸≫