2019年6月19日(水)に幕張メッセ(千葉・美浜区)で行われる「WBO女子世界スーパー・フライ級王者決定戦」。そこに、一人の日本人女性ボクサーが挑む。
挑戦するのは、現在、日本女子バンタム級チャンピオンにして、女子東洋太平洋バンタム級チャンピオンという2つのベルトを保持している吉田実代選手(EBISU K’s BOX所属)である。
彼女はボクサーとしての顔を持ちながら、私生活では4歳の愛娘を一人で育てているシングルマザーで、「戦うシングルマザー」という異名も持っている。
今回は初の世界戦に向けた抱負や格闘技を始めた理由、さらには母親として持っている独自の子育て論など、吉田選手自身の素顔に迫る形でインタビューを敢行。吉田選手の素顔を、ぜひ見てもらいたい。
≪文・取材≫鳴神富一
自身が歩んできた人生と、社会貢献活動
―:社会貢献活動を始めたきっかけは?
※吉田選手は、子ども虐待防止の「オレンジリボン運動」のサポーターに就任するなど、社会貢献活動を行っている
吉田実代選手(以下、敬称略):私は小さいころに親戚に預けられて親と一緒に過ごしてこなかったり、兄とも小学校5年生くらいの時から一緒に住んでいなかったなど、複雑な家庭環境の中で育ってきました。
それでも今は格闘技のおかげで家族との関係も良好ですし、家族が私の一番の応援団という感じでいつも応援してくれています。
昔は親に対して反発や反抗をしてしまう時期もあったんですけど、自分自身が子どもを産むと、あの時の親の気持ちや事情をすごく理解できるようになりました。
そんな人生を送ってきたこともあり、同じような辛い思いや経験をしている子どもたちに対して、自分が少しでも力になれることがあったら良いなという想いを23歳くらいの時から抱いていて、時おりゴミ拾いなどの活動に参加していました。
社会貢献活動をしていくなかでやはり、チャンピオンという肩書きが付いてからの方が周りもさらに応援してくれたりもして、自分のやりたいことがしやすくなってきています。
そういう意味でも本当に、「ボクシング」には感謝しています。様々な方の想いに寄り添いながら、(社会貢献活動を)継続していきたいです。
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―:アスリートが社会貢献活動をすることは、どう捉えていますか?
吉田:自分もそうですが、アスリートはたくさんの方に支援していただいて成り立っています。
アスリートが社会貢献活動をすることによって「応援しよう」とか「応援して良かった」と感じてもらえることもあるだろうし、それによって認知度も高まって、競技自体の底上げにも繋がると感じています。
そうなっていくと社会貢献活動を中心にして輪が広がっていき、色んなところで良い相乗効果が生まれていくのかなと思いますね。
娘を理由に、その場所での顔を変えるようなことはしない
―:お子さんはいま4歳ですよね
吉田:名前は実衣菜(みいな)といって4歳になったばかりで、保育園に通っています。今は世界戦の前というのもあり、母親の力を借りて、実家のある鹿児島で過ごしています。兄の子供たちと一緒に住んでいて年齢も近く、仲良く過ごしています。
先日、世界戦を前にした鹿児島での決起集会の場で久しぶりに会えました。東京には世界戦の直前に、家族みんなで帰ってくる予定です。
―:子育てをされていて、お子さんと過ごす上で心がけていることはありますか
吉田:自分の背中をしっかりと見てもらうようにしています。練習やスポンサーさんとのお付き合いや打ち合わせなど、先方に許可を頂けたらですが、色々なところに娘を連れていっていますね。
娘もなんとなくですが、自分の仕事ぶりを理解してくれているみたいで、「今日は打ち合わせなんでしょ」とか「これから練習だね」とか言ってくれたり、私もその日の予定など色々なことを娘に伝えていますね。
全てを伝えてきたつもりなので、カッコいい部分も弱い部分も見せていて、友達みたいな感覚でこれまで一緒に過ごしてきました。
母親の顔、ボクサーの顔、ビジネスをしている時の顔をしっかりと娘の前でも分けています。
「実衣菜がいるから」という理由で、その場所での顔を変えるようなことはしていないです。
娘と一緒にいる時間が長いからこそ、「仕事は仕事、家に帰ったらお母さん、外に出ている時はビジネスマン」と、実衣菜にわかってもらえるように接しています。
「親も一人の人間である」
―:お子さんと正直に向き合っている、ということなんですね。接していくなかで、そのほかに考えていることなどはありますか?
吉田:私は小さい頃は母親と過ごすことが多かったんですが、母親は完璧ですごく強い人であるというイメージを勝手に抱いていました。なので、母親がそのイメージから外れたことをすると、反発してしまうことが多かったんです。
だけど、自分自身が母親になって「親も一人の人間である」ということに気づいて。とても可哀想なことをしてしまったと反省しました。
なので、娘にも「人間は完璧ではない」ということを教えたり、見せるようにしています。まだまだ色々と模索中ではありますが、悩みながら子育てをしている感じですね。
―:お子さんは吉田選手がボクサーとして活躍する姿を自慢に思っているとのことでした。これについてはどのように感じていますか?
吉田:もう、嬉しいですよね。
保育園とかに行くと「ママはね、日本バンタム級チャンピオンで東洋太平洋チャンピオンでね。今度、世界戦やるの」と自慢してくれていて、試合のポスターを見せたりもしてくれています。
いとこ達にも「ママはね、実衣菜のために戦ってくれているの」とかも言っているみたいですね。
私が戦うのはもちろん自分自身のためでもありますけど、娘のためでもあります。
そういう気持ちが本人にも伝わっているみたいで、素直に嬉しいです。
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娘にずっと尊敬されるようになるために
―:最後に、今回の世界戦に向けて、応援してくれている故郷の鹿児島への想いや、お子さんへの想いを教えてください
吉田:鹿児島は20歳までいた街で、私を小さい頃から知っている人には熱中していたソフトボールを辞めたことなどで心配をかけてしまったり、大丈夫かなと感じさせてしまっていたと思っています。
そういう人たちも、最近はニュースなどで私の姿を見て喜んでくれていて。鹿児島の事は大好きだから、何か少しでも恩返しできれば、という気持ちはすごくあります。
実衣菜に対しては、自分が引退した後に「ママって、かっこいいママだったんだよ」と言ってもらえるような”足跡”を残したいという想いはあって。今後娘との関係に何かあったとしても、尊敬できる母親でいることができれば、きっといい方向にこれからも一緒に過ごしていけると思っています。
それが一番娘のためになると感じているので、娘にずっと尊敬されるようになるためにも世界チャンピオンになりたいと思っています。
≪前編≫
“戦うシングルマザー” 吉田実代はなぜリングに上がるのか 「自分と同じような境遇の方にも、共感してもらえたら」
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