【村田諒太 再戦へのゴング vol.4】危機感と無が作り出すゾーン | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【村田諒太 再戦へのゴング vol.4】危機感と無が作り出すゾーン

オピニオン コラム
【村田諒太 再戦へのゴング vol.4】危機感と無が作り出すゾーン
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スポーツ選手などの神経が研ぎ澄まされて、極限まで集中力が高まる状態を「ゾーン(ZONE)」と呼ぶ。ゾーンに入ることで、より高レベルのパフォーマンスを発揮することが可能になる。

プロボクサーの村田諒太(帝拳)もゾーンを体験しているが、興味深いのは村田のゾーン体験には「危機感」が必要なことだ。試合中に「このパンチをもらったらマズい」という危機感が絶対条件になるという。

「それがないと僕の中ではゾーンは作れないです。あとはあまり考えないこと。考えているときもゾーンは作れなくて」

・前回の【村田諒太 再戦へのゴング vol.3】ノックアウトのチャンスを逃さないために

目の動きを鍛えてゾーンへ


ゾーンに入るときは「ゾーンに入ろう」と意識していない。村田が1年半ほど前から取り入れている目の力を鍛える「ビジョントレーニング」は、60秒間でランダムに出てくる光を次々にタッチしたりするのだが、その際にゾーンを感じるときがある。

最初は60秒で100回程度しかタッチすることができなかったが、練習を重ねた村田はマックスで153回を記録。

「(1回あたり)0.4秒くらいのタイミングで反応するわけです。ゾーンに入らないと無理ですね。ウワーッって」

ビジョントレーニングで村田諒太選手の目は進化を遂げた 撮影:五味渕秀行

村田に密着したドキュメンタリー番組でも紹介されていたビジョントレーニング。ボクサー仲間にはほとんど浸透していないそうだが、村田は目の動きが以前と比べて全然違うものになった。

「僕にとってはすごく重要なトレーニングです。元世界チャンピオン(第9代WBA世界スーパーフライ級王者)の飯田覚士さんに教えていただきました」

相手の動きを見て繰り出されるパンチを見極め、自分が攻撃するタイミングをうかがうボクサーにとって目の力も重要だ。そしてビジョントレーニングは数回やることでゾーンに入る状態を作ることができる。何も意識しないで、ゾーンへの没入を得られるようになる。

危機感が生み出すゾーン


「ゾーンに入ろう」と意識しないと前述したが、村田は「『何も考えない』とも思わない」と説明してくれた。

「『何も考えないでいよう』って意識することは、考えてるってことじゃないですか。それが消えたときにフワッとゾーンに入れる。将棋の羽生(善治)さんと対談をさせてもらったことがあるのですが、ゾーンや集中力が極限まで高まるときは、高めようとするんじゃなくて、対局中に勝手になるものだと話されていました」

意図しないことに加え、村田の場合は「危機感」がゾーン没入を生み出す。まず2011年の世界選手権、二回戦でウズベキスタンの強敵アポス・アトエフ(2007年・09年に大会二連覇を達成)と対戦したときに感じた。

「相手はめちゃめちゃパンチ力があり、危機感があったんです。あと高校2年のときの国体でも経験しました。準決勝で目の上を切っていて、ふさいでごまかして試合に出たのですが、でも目が切れたアマチュアの試合はもう負けなんですよ。それで一発もパンチをもらっちゃダメだっていう危機感があったんです。そのときはやっていて絶対にパンチをもらわないという感じがしたんです」

そしてゾーンに入った。危機感が村田にとって重要なポイントになるのだ。追い込まれた極限状態で意識をせずにゾーンに導かれ、そこで普段は表面化しない力が発揮される。

村田がアッサン・エンダム(フランス)と再び拳を交えるWBA世界ミドル級タイトルマッチは10月22日に両国国技館で行われる。「危機感が重要」では観客目線で考えると不安にも思えてしまうが、22日はゾーンに入ることで「史上最高の村田諒太」を我々に見せてほしい。

【村田諒太 再戦へのゴング 最終回】トレーニングは人生…22日に決着の舞台へ に続く。

●村田諒太(むらた りょうた)
1986年1月12日生まれ、奈良市出身。帝拳プロモーション所属。2012年にロンドン五輪ボクシングミドル級で金メダルを獲得して脚光を浴びる。アマチュア時代の戦績は137戦118勝89KO・RSC19敗。2013年8月にプロデビューし、戦績は13戦12勝(9KO)1敗。趣味は子育て。

取材協力:ナイキジャパン
《五味渕秀行》
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