【インタビュー】東京五輪で競技種目に選ばれる前から、クライミング漫画を描いていた漫画家がいた | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【インタビュー】東京五輪で競技種目に選ばれる前から、クライミング漫画を描いていた漫画家がいた

オピニオン ボイス

『オーバーハング!』
  • 『オーバーハング!』
  • 『オーバーハング!』より
  • 『オーバーハング!』より
  • 『オーバーハング!』より
  • 『オーバーハング!』より
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  • 『オーバーハング!』ネーム
2020年東京五輪の正式種目に「スポーツクライミング」が選出されたことで、急速にクライミングへの注目度も高まった。

マンガ無料配信アプリ『GANMA!(ガンマ!)』では、『オーバーハング!』というクライミングを題材にした漫画を配信している。

主人公「風来弾」がクライミングに魅せられ、ライバル「天野翔」と競いながら成長する姿を描いた青春漫画だ。

クライミング業界全体が盛り上がっている中、「クライミング漫画」も同じようにこのプラスの波を受けているのか。作者はどういった思いでクライミング漫画を描き始めたのか。『オーバーハング!』の作者・本橋ユウコさんに話を聞いた。

(c) 本橋ユウコ/COMICSMART INC.


美大を卒業後、漫画の持ち込みやさまざまなアルバイト生活、都内のIT系企業で連載コラムの挿し絵制作を経て、フリーランスとしてイラストを描いていた本橋さん。

他人の文章に絵をつけ、評価も獲得し充実した日々を送っていたが、「何か自分のストーリーを作り、世の中に何かを訴えたい」という気持ちになったのは2011年3月11日に起こった東日本大震災がきっかけだった。

「小学校で多くの犠牲者が出たニュースを見て、『裏に山があったのに、どうして登らなかったのだろう…!』と衝撃を受けました。あとで調べてみたら色々複雑で、そんなに単純なことじゃなかったのだけれども、もし(裏山に)登れれば助かっていた。山登りを皆が身近に感じていて、そこで正しい判断ができたら助かったのに。そういう漫画を描きたい、とその時思ったのです」

「オーバーハング!」作者、本橋ゆうこさん
「オーバーハング!」作者、本橋ユウコさん


「自分は漫画ではなく、イラストの人だと割り切っていたが、どこかで描きたいと思っていた」

その思いに改めて気づいたのが震災だった。

「アウトドアの知識をみんなが持っていれば。山登りをみんなが身近に感じてもらえれば。そんな漫画にしたかった。クライミングはその入り口にしようと思っていた」

現在日本でブームが隆盛しているのはインドア環境で行われるクライミングだが、本橋さんが元々想定していたのはアウトドアで行うクライミングだったわけだ。

2年ほど前からクライミング漫画の持ち込みを本格的に始めたが、「うちではクライミング漫画はちょっと難しいね」「地味というか、少年漫画ではクライミングのバトルシーンはあまり盛り上がらないかな…」「面白い題材だけど、うちの媒体では難しい」と断られることばかりだったという。

当時、インターネット上で漫画を配信するサービスが流行の兆しを見せ、連載に至るハードルが下がりつつあった。本橋さんは紙媒体だけでなく、インターネット媒体にも持ち込み先を増やした。

どの漫画配信サービスに投稿するか迷ったが、「最も従来の紙媒体に近い形で、編集者がしっかりと執筆者に寄り添ってくれる体制が整えられている」と判断したのが『GANMA!』だった。

「オーバーハング!」ネーム
『オーバーハング!』ネーム


そこから「もう一生連載できないかと思いました…」と弱音を吐くほどの、編集者からの怒涛のダメ出しの末、初連載にこぎつけた。

クライミングが東京五輪での正式種目になる前に、クライミング漫画を描いていたのだから本橋さんも『GANMA!』も先見の明があったと言えよう。

「連載の3話目で、主人公のライバル、翔のマネージャーが『ゆくゆくは彼を日の丸を背負う選手に…』と話すシーンがあります。あれは実はオリンピックのことなのです。願望も込めてあそこに描きました」

(c) 本橋ユウコ/COMICSMART INC.


実際にクライミングが五輪種目に選出されたのは連載中だった。

「理想は、自分の漫画を描いて大ヒットさせ、アニメ化されてNHKとかで取り上げられて…。その流れでオリンピック種目に、という形だったのですが、現実に先を越されてしまいました(笑)」

とはいえ、五輪競技となったスポーツクライミングを意識して描いており、今後も触れてはいくが、「登山クライミングから始まった経緯を大事にしたい」と、五輪に寄り続けて話を変えていくことはあまり考えていない。

本橋さんが『オーバーハング!』で気に入っているシーンは2つある。そこには自身が無意識のうちに込めたクライミングの「本質」が反映されている。

主人公の「風来弾」が、クライミングコンペで思い切って「ランジ」というダイナミックな技を披露するシーンがある。ここで飛ぶ前に父の言葉を思い出す。

(c) 本橋ユウコ/COMICSMART INC.


(c) 本橋ユウコ/COMICSMART INC.


風来弾が外岩を前に、登り方がわからず行き詰まったシーン。ライバルの「天野翔」にかけられた台詞を思い出し、糸口を見出す。

(c) 本橋ユウコ/COMICSMART INC.


(c) 本橋ユウコ/COMICSMART INC.


(c) 本橋ユウコ/COMICSMART INC.


「クライミングは孤独なスポーツだと思われていますが、壁にじっと向かっているだけではない。ロープを確保してくれている人もいる。また、壁という共通の目標にみんなで立ち向かっていくもの。これらのシーンも、自分一人で登っているわけではないということに主人公が気づき、パッと力が出たり、視野が広がったりするシーンなのです。これは、クライミングの本質なんじゃないかと」

一人で登っているように見えて、一人じゃないという思いが力になるスポーツということだろう。

本橋さんは、最後に読者に向けてメッセージを残してくれた。

「漫画を読みにきていただけるだけでも本当にありがたいけれど、クライミングはやってみても楽しいスポーツです。いつでも誰でもその人なりの楽しみ方ができる。実際にやってみたあとで漫画を読めばもっと楽しめると思います!」

クライミング漫画『オーバーハング!』は、全話無料で公開中だ。

《大日方航》

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