「言葉が通じない」という問題点は現在でもしばし外国人観光客から聞くことがある。もともと日本人にとって英語という言語は習得しにくい言語の一つと言われるが、それにしても日本人の英語アレルギーは悪名高い。
総務省と観光庁が実施した調査では、訪日外国人旅行者が「旅行中に困ったこと」の第2位は「施設等のスタッフとコミュニケーションがとれない(英語が通じない等)」だったそうだ。
1964年から56年経つ2020年においても、英語をはじめとした多言語対応スタッフの確保に追われることはほぼ間違いない。リオデジャネイロオリンピックでは英語対応可能なスタッフの確保が進まず、英語対応可能な窓口、ボランティアに多くの人が押し寄せていた。
実際に私もオリンピック期間にブラジルを訪れたが、英語の通じないボランティアにも何回か遭遇した。片言でも英語を話せる人がいるとやはり落ち着く。東京五輪のボランティアには必ずしも語学能力は求められていないようだが、ボランティアをする人々が、流暢でなくとも最低限の英単語を理解していることはきっと外国人観光客にとって嬉しく感じられるはずだ。
しかし、日本において、こうした言語の壁を突破するのはそこまで難しくないと私はリオデジャネイロを訪れて感じた。それは、翻訳アプリの普及にヒントがある。
2016年、リオデジャネイロの街。バス停や看板、駅の中。至る所に世界的企業、Googleが「Google 翻訳」の広告を出していた。「Google 翻訳」はテキストだけではなく、画像翻訳、音声翻訳、手書き翻訳も可能と多彩な機能を搭載している。 事前に特定の言語をダウンロードしておけばオフラインでも利用できる。私もブラジルに滞在していた頃は活用させてもらっていた。
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実際、街中でこのアプリを利用して意思の疎通をしている人々を見かけた。私が宿泊していたホステルのオーナーも、このアプリを利用して英語圏のゲストと「会話」していた。まだまだ貧富の差が激しいブラジルでは、多数の人がスマートフォンで翻訳アプリを利用して外国人観光客全てに対応するのはやや難しそうだったが、日本においてはその限りではない。
2016年6月20日、博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が発表した調査結果によると東京地区のスマートフォン端末所有率は7割を超えたという。
先日、池袋の電気屋の店員がスペイン語圏の観光客にGoogle 翻訳で対応しているのを見かけたが、語学能力に長けていなくとも、最低限のコミュニケーションなら翻訳アプリで対応できることを証明していた。(日本語と英語では言語の特性上、翻訳の精度が落ちることは想定されるが)
近年の訪日外国人旅行者数の伸びは著しい。是非2020年に向けて、スマートフォンを所持している人は「Google 翻訳」をはじめとした翻訳アプリをダウンロードして、外国人観光客にも対応できる準備をしていただきたいと思う。
『朝日新聞』 1964年10月18日