自転車ロードレースで3度のオリンピック出場経験がある沖美穂さん。リオデジャネイロオリンピックの自転車競技は開会式翌日の8月6日に男子ロードレース、7日に女子ロードレースが行われ、11日からトラックレースが始まる。
沖さんにオリンピックと他のレースの違いなどを聞いた。
---:オリンピックと他のレースの違いは感じましたか?
沖美穂さん(以下、敬称略):オリンピックは普通のステージレースや世界選手権とお客さんがまったく違う。あと選手村に入って、いろんな競技の人たちと一緒のところから行くなど、すべてが違う印象でしたね。いつもは(所属する)チームとして行くけど、オリンピックの場合は人数の制限もあるし、ぜんぜん雰囲気も違う。私はそれに対応できなかったですね。
---:オリンピックの時、現地入りはどれくらい前にしていたのですか?
沖:その時によって違いました。シドニーは言われるがままに、5日ぐらい前に入ったと思います。アテネの時はオランダから行ったのですが、1週間ぐらい前でした。北京は3日前です。
---:3日前などタイトなスケジュールじゃないですか?
沖:でも近いし、時差もそれほどないし、そんなに長くいても練習環境がないということで3日前。それでレースが終わった翌日に帰ってくるショートステイでした。
---:これまで日本はロードレースではいい成績を残せていませんが。
沖:(各国の枠が決まっているので)参加人数が少ないですよね。だからバラけた時にタイムアウトになりやすい。女子だと(五輪に出場するのは)70名弱ほど毎回走りますが、普通はその倍以上いる。
普段のワンデーレースより人数が少ないので雰囲気が違う。代表の枠はマックスで女子は3人。少ない国はひとりだったりする。レース形態が変わるので、(チームに所属せず)個人でやっている人のほうがもしかしたら(勝てる)可能性があります。
---:オリンピックならではのエピソードはありますか?
沖:選手村に入って、食堂でいろんな国の方と一緒になる。普段テレビでしか見ないようなすごい選手とかを見てると疲れちゃいます(笑)。あの人知ってる、あの人は陸上のすごい人だ、バスケのすごい人だ、となって。あと日本人選手も普段はお会いできないような方が同じ棟にいたり、そういう面で疲れました。
---:トラックレース、ロードレースで期待することは?
沖:トラックは私はもともとアドバイザーで、前回のロンドンオリンピックは帯同させてもらいました。ケイリンは特にチャンスがある。決勝に行ってメダルを獲ってほしいなと強い想いがあります。
ロードレースは海岸沿いのコースがキツく感じます。與那嶺(恵理)さんはチャンスがあるコースだと思う。どんどん積極的に前に行っていないと、人数が少ないので後ろにいたら突然(隊列が)切れたりするので頑張ってほしいです。うまくいけばトップ10に入れるんじゃないでしょうか。
---:男子のロードレースはどうでしょう。2月の骨折から復活を遂げた新城幸也選手が代表のひとりに選ばれています。
沖:彼は普通の精神の持ち主ではない方です。骨が折れて、何カ月ですぐ復活して。トラックの全日本選手権を見学に来ていて、会っているんです。(その時に話をしたら)「まだ自転車に乗れない」って。
でも私にハッキリ言っていたのは、「僕はケガしてレースに出なかったらただの人になってしまい意味がない。新城幸也じゃない。僕の使命はとにかく早く治して、走って成績を残すことが仕事なんだ」ということ。リハビリも「歩くためのリハビリはしていない、自転車に乗るためにリハビリやってます」と。
もしかしたらちゃんと歩けなくなるかもしれないじゃないですか。そういうリスクを背負いながら、競技に集中しているのはすごい精神の持ち主だな、世界にこういう人が何人いるのかなと強く感じました。
---:4年後の東京五輪に期待すること、また懸念することがあれば教えてください。
沖:せっかく日本にオリンピックが来るので、その相乗効果で自転車競技ももっとメジャーになってほしいですね。また、オリンピック後に継続することを考えてやらないと、オリンピック後はどこの国も経済が下がったりする。その先を考えていくといいんじゃないかと思います。
オリンピックと一緒に盛り上がると予算もついてくる。そこから次をどうすうかを今から考えておいたほうがいいです。選手やスタッフ、関係者は。
---:自転車以外に楽しみにしているオリンピックやパラリンピックの競技はありますか?
沖:(パラリンピックの)ウィルチェアーラグビーですね。この前、初めて観に行ったんですよ。すごい楽しいです。ルールがわからなくても迫力があって、私もやりたいなって(笑)。スピード感もあって、ゲーム性も高い。ああいうの好きですね。
---:日本代表選手にメッセージをお願いします。
沖:オリンピックでいい成績を獲りたいのはもちろんですが、自分のレースができるように。体調などに気をつけて頑張ってほしいです。自分のレースはなかなかできないですから。応援する人が変わったり、取材も多かったり、普段とは違う状況になる。いかにその辺をコントロールして、いつもの自分になれるように。自分のレースができるように。緊張しすぎちゃって、私は自分のレースができませんでした。
●沖美穂(おき みほ)
北海道出身。現役時代は1998年~2008年に全日本選手権ロードレースで11連覇を達成。ジャパンカップでも通算10勝。オリンピックは2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京の3大会に出場。イタリアのプロチームに長く所属し、ワールドカップでも活躍した。2008年に引退し、現在は日本競輪学校教官を務める。リオデジャネイロ五輪ではNHKがインターネットでライブ配信する女子自転車ロードレース(日本時間8月8日午前0:05~)で解説を担当する。
《五味渕秀行》
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