世界最大の自転車ロードレース、ツール・ド・フランス。その舞台で1999年~2005年に前人未到の7連覇し、一時は世界で最も稼ぐスポーツ選手の地位にまで登り詰めたランス・アームストロングには“黒い噂”があった。運動能力を高めるためのドーピングだ。
実際にあったアームストロングの事件をもとに描いた映画『疑惑のチャンピオン』が7月2日から全国公開される。それに先駆け6月23日に行われた試写会では、上映前にツール・ド・フランス実況を長年務めるサッシャさん、サイクルライフナビゲーターの絹代さんによるトークショーが行われた。
絹代さんは自転車ロードレースを観るようになった2002年にアームストロングを知り、衝撃を受けた。ずっと勝ち続けていたため、絹代さんにとってアームストロングの存在は「ザ・チャンピオン」だった。
「私の中でランスって、ターミネーター。めちゃめちゃ強い人。何の隙もなくて、冷徹で頭脳明晰で、スゴく強くて。ともかく完璧で、ガン患者のために財団を作ったり社会活動もしっかりやっている。落度のまったくないスーパーヒーローだった」
ドイツで育ったサッシャさんは、子どもの頃からツール・ド・フランスを観ていた。そして1997年にドイツ人のヤン・ウルリッヒが総合優勝を手に入れた。その後もウルリッヒは毎年のように優勝候補になるのだが…。
「(アームストロングは)ヤン・ウルリッヒの一番の敵だったんですよ。目の上のタンコブ的な。お前さえいなければ、ヤン・ウルリッヒ何回2位になってるんだよ!っていう人だった」
しかし、2003年からサッシャさんはツール・ド・フランスの実況を担当することになり、「(それまでのファン目線から)ちょっと違う見方をするようになって、もっとフラットに観るようになった」という。
ふたりに鮮烈な記憶を残したアームストロングを振り返りながら、映画のキャスティングに話が広がった。アームストロングを演じたのはベン・フォスターだ。
「一瞬似てないと思うんですけど、観てるとだんだん似てくる」とサッシャさん。フォスターは撮影までスポーツバイクに乗ったことがなく、2カ月トレーニングをしたそうだ。
そのほかにも当時のエピソードや、アームストロングの登場によりそれまでヨーロッパのスポーツだった自転車ロードレース界に、米国資本が多く入ってくるようになったことについて触れられた。
ドーピングによって選手が追放された歴史も少なくない自転車競技の世界。考えさせられる映画であり、観た人たちが「それぞれ違う感想を持たれると思う」「それが正解だと思う」と絹代さんとサッシャさんは締めくくった。
『疑惑のチャンピオン』は7月2日(土)より丸の内ピカデリー&新宿ピカデリーほか全国ロードショー。同日は世界遺産モンサンミッシェルで今年のツール・ド・フランスが開幕する。
《五味渕秀行》
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