ツール・ド・フランスには関係者だけで4500人、3000台が出場198選手とともに駆けめぐる。連日の移動をともなうスポーツ競技としてはオリンピックやFIFAワールドカップをしのぐ壮絶な規模で開催されている。
関係車両はフロントガラスと後尾に貼られるステッカーで役割と随行する位置、さらにはゴールまでの走行ルートが厳格に規定されている。ステッカーの色は黄色、緑、青ピンク、青、オレンジ、灰色とあり、さらにはスタート地点を出発する時間によってその駐車位置が2分される。初めて取材に訪れた記者はその独特のシステムがまったく理解できないだろう。
最もプライオリティが高いステッカーは当然のように黄色だ。これはチームカーと審判者が貼付し、選手に最も近いところで走ることが許されている。最も低いのはオレンジで、コース上さえ走ることが許されない。チームバスや設営上の機材車などに貼られるので、そんなのが観客が殺到するコースを走るのは当然のように危ないのだ。
ゴール地点に設営される表彰台は大型カミオン(フランス語でトラックのこと)を伸展して使用する移動用設備だ。すべての表彰が終わって、華やかな舞台が荷室に収納される。周囲の鉄柵などが撤去されてようやく、本来のカミオンとして走ることが許される。夏のフランスは日が長いとはいえ、彼らが次のゴールに向けて出発するのは夜8時過ぎだ。
彼らは次のゴール地点を目指して出発するとき、その町に別れを告げるようにクラクションを鳴らす。それを聞きつけた町の人たちが一斉に拍手と大歓声でねぎらう。それはゴールの町だけではなくて、通過途中の町が夏祭りで盛り上がっているときもクラクション。町の人たちは瞬時にそれがツール・ド・フランスの移動舞台と察知するので、ここでも大歓声がわき起こる。
設営舞台は夜半にゴール地点に到着すると、夜通しかけて朝までに晴れの舞台を完成させる。だから設営班やカミオンドライバーは昼夜逆転。レースを観戦することもなく、木陰にハンモックなどをつるして睡眠している。
「ツール・ド・フランスに興味はないの?」と聞いたら、「ないよ。これが仕事だからさ」と冷静な答えが返ってきた。こんな人たちがあってこそ世界最大の自転車レースは世界中のファンのもとに届けられるのだと思った。
《山口和幸》
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