兄弟車の微妙な違い メテオ・スピード vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

兄弟車の微妙な違い メテオ・スピード vol.2

オピニオン インプレ
獰猛さはないが、集団から迷わず飛び出せる
欠点の指摘は簡単だ
“しなりが瞬発力を生む” という少々威勢の良すぎるキャッチコピーをそのまま鵜呑みにするのは間違いかもしれないが、このフレームには 「このまま一日中走り続けられるんじゃないか」 と思えるくらいペダリングにピタッとフィットする感応スポットがある。これは、メテオ・スピードの実走評価における最重要ポイントであろう。ここを自分のペダリングに落とし込むことができれば、ヒルクライムレースでもロングライドでも、大きな武器になるだろうと感じた。硬すぎるバイクは自分の30分後が心配になって踏み倒すのを躊躇してしまうが、メテオ・スピードなら迷わず集団から飛び出せる。それと引き換えに、どうしようもなく興奮してしまうような過激さ、獰猛さはない。「レース後半でも踏み続けられること」 に特化しているので仕方がないところだ。一発芸で瞬間先行するか、最終目的の達成を強く意識するか、の違いだ。
だから、ある限定された切り口から見るなら、いとも簡単に欠点を指摘できる。レーサー達の数多い要求を全面的に満たすフレームではないからだ。例えば、登坂において刺激的な爆発的軽快性を求めたい変態的ヒルクライマー氏。彼の愛車としては失格と言えるかもしれない。「ロードバイクとは (フレームからの反力を含めた) あらゆる抵抗に逆らって踏みしめるべきもの」 と考える人や、野蛮で過激な絶対的加速度に感涙むせぶようなタイプの人にとっては、2台のGDRはほとんど 「ロードバイクの否定」 だろう。数十分で終わるホビーレーサーのためのヒルクライムレースにおいてもしかり。そういう人はそういうフレームを選べばいい。しかし、おきなわのような数時間に渡って行われるレースやステージレース、ロングライドなど疲れを蓄積させたくないシーンで最後まで脚を残したい場合には、メテオシリーズの存在意義に議論の余地なし、である。
「粘度」の高いメテオ・スピード
欠点の指摘と言えば、試乗車にアッセンブルされているヤワいカーボンハンドルとネムいホイールが、メディアに必要以上の辛口コメントをさせているのは、たぶん本当だ。試乗車に元々付いていたカーボンハンドルはかなり柔らかく、ダンシングでの加速感や操縦性を少々スポイルしている。また、メテオ・ランチにはリムハイト24mmのシマノ・WH-7850-C24-CLが、スピードには50mmのシマノ・WH-7850-C50-CLがアッセンブルされており、それが初期加速と剛性感の印象の違いに影響を与えていた。どちらも特段軽快感に優れたホイールではないが、ディープリムのC50の方が加速や軽快さではやや劣る。
もちろん僕は自分のアルミ製ハンドルに付け替え、2車とも全く同じ条件にして乗ってみたが (性格が全く異なるホイールが付いているのにフレームを “同条件として” 比較するのはナンセンスだ)、しっかりとしており剛性が高く感じられるのは、メテオ・スピードの方だった。剛性の絶対値は似たようなものだろうが、しなり方が異なる。「しなりの粘度」 がメテオ・スピードの方が高いような気がする。ランチの方が情緒的なしなり方をする、と言えるかもしれない。ハンドリングにおいても、フォークの違いだろうか (ランチ:ベンド、スピード:ストレート)、クイックで旋回の動作がキビキビしているのはメテオ・スピードだと感じた。とはいえ、挙動変化はマイルドといえる範疇にある。
フォークと言えば、フォークオフセット値を3種類も用意していることは、性能面はもちろんのこと開発陣の本気度の高さが伺えるという点において見逃せないポイントだろう。超高性能で有名なあのP社もL社もC社もいまやフォークオフセットは全フレームサイズで共通である。彼らには彼らなりの理由があるのだろうが (アンカーが3種類のオフセットを使い分けているのは有名。トレック、タイム、スペシャライズド、フェルトなどが2種類のオフセット値を用意しているのは良心的だと言えるだろう。意外なことに、デローザ、コルナゴ、ジャイアント、スコットなどはジオメトリ表にフォークオフセット値を記載していない)。
シッティングからダンシングへの移行がスムーズなのも、美点のひとつである。また、ラグタイプのメテオ・スピードには6種類のサイズ展開があるという無視できないメリットもある (モノコックフレームのメテオ・ランチは3種類)。
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人間にとってロードバイクとは何か、どうあるべきか
とはいえ時代はまだまだ剛性偏重
だが、GDRのようなフレームがレーシングロードバイクのメインストリームには当分ならない、というのが現段階での僕の予想である。GDRフレームの開発途上では、梅丹の選手達から賛否あったことだと推測する。「コレじゃなきゃ勝てなかった!」 という選手もいたかもしれないが、「こんなフレームじゃレースできない。もっと硬くしてくれ!」 という選手もたくさんいただろう。時代はまだまだ剛性偏重だし、プロは打てば響くように進むバイクを好むことが多い。僕のLOOK 585ウルトラに乗ったある有名選手は、「こんなバイクにレースで乗れたら最高ですね!」 と子供のように興奮していた。最新のロードフレームが今向いている方向とエンドユーザーの嗜好には、多少のズレ・タイムラグがあるように思う。やはり過渡期なのかもしれない。
ただ言えることは、グラファイトデザインとは、ロードバイクを 「単体の構造体・ただの機械」 として見るのではなく、まず 「人間という不安定なファクターを制御系の中に組み込んだ 『状態』 として見たときロードフレームとはどうあるべきか?」 という問いを課し、それを真っ直ぐ見据え、当分は答えが見つからないかもしれないそんな難問 (しなやかなバイクとガチガチのバイクが混在している現状がそれを証明している) から目を逸らしていない数少ないブランドの一つである、ということだろう (冒頭のQ&Aを読んでいただければよく分かると思う)。
人間は機械と違って、調子のいいときもあれば悪いときもある。走り出すときは元気だが200km走るとクタクタに疲れてしまう。やる気に満ち溢れているときも、どうも気分が乗らないときもある。そんな流動し続ける要素を 「系」 の中に組み込むことは非常に困難なことだ。
エンジニアの天国
そんな2台のGDRから筆者が最も強く感じたのは、「これは日本のロードバイクシーンの未来に多大な影響を与えることになるだろう」 ということだった。後発 (しかも国内ブランド) で海外の一流達と同じ高級高性能戦線に立とうとすると、独自の技術・アイデンティティで勝負するしかない。もちろん、GDRは 「他と違うことを第一の目的として違った」 わけではないだろうが (そんな匂いのするフレームは結構多い)、もし他と同じようなカーボンフレームをリリースしていたら、市場のリアクションは 「へぇ」 で終わっていたことだろうし、欧州車好きには鼻であしらわれ、GDRはめでたくone of themで終わっていたことだろう。人間にとってロードバイクとは何か、どうあるべきか、という根源的な大前提を出発点に据えたこと。これは後発の強みであり、GDR開発における最も重要なステップになったのだと思う。
いつものようにハンドルやステム、サドルなどを自分のパーツに組み替えているとき、ヘッドパーツがFSA・オービットZセラミックであることに気付いた。セラミックベアリングを採用し3万円もする高級品である。ヘッドパーツなどという、ほとんど見えない、かつ性能差を実感しにくい (=ユーザーへの訴求力が低い、商品力の向上に貢献しにくい) 地味なパーツにこのような高価格品を入れるなど、マスプロメーカーではほとんどありえないことである。
「セラミックベアリングは 『回転の軽さ』 が評価されていますが、METEORシリーズに採用した一番の理由は、『雨天使用時の耐久性』 です。選手から戻ってきたフレームを見ると分かるんですが、スチールベアリングでは錆の進行が早く、1年と経たないうちにサビが発生して回転がゴリゴリになってしまいます。セラミックベアリングでは、ベアリングのケースは錆びていても回転性能が維持される期間が相当に長いんです。今はヘッドベアリングのグリスアップメンテナンスはほとんどされていないという現状を考慮し、高価ではありますが、あえてオービットZセラミックを採用しました」 (株式会社グラファイトデザイン 新商品開発部サイクル事業開発課 新矢氏)
数円単位でコストカットを迫られるサラリーマン・エンジニアからしてみれば 「まるで設計者の天国だ!」 と叫びたくなるような言葉だが、激しい販売競争の中でこのような細かいパーツにまで理想を掲げそれを貫けるというのは、小規模・少量生産メーカーとはいえ、かなり珍しいケースだろう。あまりに実直すぎて心配にならなくもないが、新しいだけで思想がない、カタチばかりで中身がない、煌びやかだが志が低い、安価なだけで何の価値・本質もない…そんな安く薄い魅力に溢れたバイクが粗製され氾濫する中で、その言葉は確かに貴重で美しい。願わくは、それをしっかりと見抜き、理解してくれる人の多からんことを…。
ともあれ、GDRが次はどんなフレームを作りだしてくれるのか、早くも楽しみである。
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《編集部》
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