最新トレンドは常に最良をもたらすのか vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

最新トレンドは常に最良をもたらすのか vol.2

オピニオン インプレ

BB30と大口径ヘッド獲得で進化した…のか?

話がだいぶ逸れたが、今回の主役はゼニス・レースだった。こんなイイ話が今の自転車業界にもあるのだぞ、ということをみなさんに知ってもらいたかった次第である。
さて、ゼニス・レースは今企画のvol.13でも走らせたバイクだが、09モデルになってフルモデルチェンジに近いマイナーチェンジを受けたという。パッと見はほとんど変わっていないが、BB30と上下異径ヘッドチューブの採用という大改革である。フレームサイズが変わっても乗り味が変わらないようにするために、各サイズ専用設計のフレームチューブを使うSST (サイズ・スペシフィック・チュービング) システムも導入された。
届いた試乗車は1mも走っていない新車。ジェイミスの企業理念は 「No Gimmick」 だそうだが、何もここまで徹底しなくても、と言いたくなるほどの飾り気のないルックスである。良く言えば、これみよがしな装飾がない。前回のSLX01と比べるとコスメ・チューンの気は皆無で、とても同じカテゴリの乗り物とは思えないほど。
細部をよく観察してみると、基本的なフレーム形状は以前のままにヘッド下ワンを大口径化し、それに合わせてフォークを太くして、ただBB30を突っ込んだだけのように見え、僕の脳にクエスチョンマークが点滅しはじめる。「変えるトコはとりあえず変えてみましたが」 では、とうてい真面目な設計コンセプトだとは言えまい。ロードフレームとはそんな簡単なものではないはずだ。ジェイミス・ジャパンのイメージはアップしたが、かわいそうなことに、それはバイクそのものの出来とは何の関係もないことだ。
そもそも、僕は一部方面でもてはやされている新規格に多少懐疑的だ。BB30の登場以降、それまでのバイクは一気に過去のものとなったか?ヘッド下ワン大口径化以前のバイクは、突然レースシーンから姿を消したか?全くそんなことはない。要はバランスだ。だから、それらをただポン付けしただけのように見えたゼニスの実力に、走る前から疑問を持った。

しかし走り出して、これはグッと洗練されている、と明らかな違いをプラス方向に感じられて、悪口を (それほど) 言わなくて済みそうだ、と安心した。大袈裟に言えば、ちょっとしたガタやユルさ (感覚としての) があった先代をキュッと引き締め、精度を上げたようである。
といっても、いきなり乗鞍のタイムが5分も速くなったり筑波のラップが劇的に縮まったり、ということはないだろう。初期加速は相変わらずまったりとしているし、目の覚めるような軽快さも持たないままだ。
BB30と大口径ヘッドを得た09モデルは、ペダリングフィールにガサガサしたところや曖昧なところがなくなり、粒子が細かくなってなめらかになっていた。上質になったのである。08モデルではギクシャクしていた 「ペダルへの入力」 と 「バイクが路面へ伝えるパワー」 との関係が、綺麗な直線のグラフを描くようになった。

平凡なる非凡の中で光る、非凡なる平凡

BB30化の効果か、中速域からの加速も良くなっている。表面はしっとりとしたままだが、芯は太く、強くなった。08モデルでは大トルクのダンシングを受け付けないところもあったが、09ではグングンとスピードを上げてくれる。
ただ、ハンドリングがクイックになっていて驚いた。ジオメトリが共通の08モデルはナチュラルなステアフィールだったので、フォーク〜ヘッド剛性が上がって微舵応答性に敏感になったからだろう。慣れればそれほど問題ないが、普段乗っているタイムやピナレロから乗り換えるとオーバーステアに一瞬たじろぐ。しかしヘッド剛性がしっかりしているので操縦感覚は極めて濃密で、連続するコーナーでの身さばきは非常に軽やか。ハイスピードダウンヒルも痛快!の一言。フォークは前後方向にも強く、制動性も一級レベルにある。
シート角が73と寝ているところもいい。サドル後退幅が5cm以上ある僕でも、なんの無理をせずにポジションが出る。シート角は寝ているがヘッド角は立ち気味で、シート角と同じ73度となる。だから横から見るとずんぐりとしたシルエットに見える。フロントセンターも非常に短く、大きくステアするとつま先に当たるので注意が必要だ。
08モデルと同様に路面からの衝撃はコツコツと伝えてきはするが、振動の収束が速くなった、とも感じられた。ヘッドの大口径化とそれに合わせてフォークのブレードが太くなったおかげだろうか。ホイールがギャップを越えても、下の方でトン!と一瞬鳴るだけだ。細かな凹凸のあるアスファルト上でタトトトトト…というタ行のハミングをホイールのあたりに聴きながらただ走るのは、この上なく心地よい。こんなところは実にクロモリ的で、実に爽快だ。
この心地よさがあるから、「ヒルクライムもスプリントもこのくらいが丁度よろしい」 なんて言いたくなる。音楽でいえばアンプラグド。アコースティックな響き。家具でいえば木の温もり。噛み締める玄米の味。毎日食べても飽きない。ゆっくり走っても愉しい。そんな面も持つロードバイクである。

しかし走る場所や走らせ方によっては、弱点を隠し切れないこともあった。このパーツアッセンブルでは、レースに適したバイクとは言えないだろう。初期加速にキレはなく、登坂ではバックが引きずられるような感覚がある。原因は、もちろんホイールだ。このホイールが、フレームが本来有しているであろうレスポンスを削ぐ最大の要因になっていることは疑いがない。もう少し軽くてカッチリとしたホイールを付ければ、レース機材としても不満のないバイクに仕上がるだろうに。だからこの普及価格帯ホイール (シマノ・WH-RS10) と高級カーボンクランク (FSA・SL-Kライト) の組み合わせには、やはり違和感を覚える。ホイールとクランクのコスト配分は逆でいい。そのプレミアムなクランクもコンパクトしか選べないようだ。
加えて (個人的に) 残念なのは、その地味なルックスだ。モノはいいのだ。完成度は高いのだ。09モデルはここまで良くなったんだから、カラースキームもガラッと変えて派手な衣装でも着せてやればいいのに、と、少しもどかしく思う。
以上2点、どうでしょうか、ミスター・フォックス?
というようなご提案を申し上げたくはなるものの、ゼニスの持ち味は、決してでしゃばることなくライダーを主役に立て続けてくれる縁の下の力持ち的存在感にある。フレームに身を完全に委ねて走ることもできるような、少し疲れたときにありがたい懐の広さも持っている。そこに刺激やドラマチックな盛り上がりは少ない。ゼニスは黙々と仕事に専念するのみ。自転車らしいといえば、実に自転車らしいのである。個人的には、こんな走り方もなかなか好きだ。フレームは煮詰められたまとまりを感じさせ、戦うのではなく走りそのものをじっくりと楽しむような使い方をするのであれば、この価格帯でアルテグラを搭載したカーボンバイクとしては、お勧めできる一台だ。
では、30万円台という激戦区においてゼニス・レースはどのような戦い方ができるのか?僕は、僕たちを右往左往とさせる平凡なる非凡にあふれるなかにあって、ゼニスの 「非凡なる平凡さ」 が武器となるであろう、と結論づけたい。「アレもコレも」 とモノ欲しげな表情は決してしないところにこそ、真価がある。
現在では 「謙虚である」 という意味で使われる 「奥ゆかしい」 という、いかにも日本語らしい言葉があるが、本来は 「奥にあるものをもっと知りたいと思わせるような深い魅力がある」 という意味だったという。そんな原始語義を加味していいのならば、ジェイミス・ゼニスは、実に “奥ゆかしい” 一台であった。
《編集部》
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