

しかし試乗車に付いていたマッハワン社のマグネシウムリム&デュラエースハブの手組みホイールが、キシリウムSLとは全く異なるRC8の印象を僕に伝えてきた。リム重量390gという軽量性に加え、マグネシウムの素材特性による (と思われる) 快適性が高周波の微振動をキレイにカットし、ライディングフィールを格段に向上させるのだ。大きな衝撃は吸収しきれず伝えてくるが、キシリウムと違って減衰が早い。加速にもヒルクライム性能にも磨きがかかり、軽めのギアでダンシングすればまさに踊りだすような軽快さで走り始める。RC8との相性がいいのだろう、フレームのポテンシャルを最大限に引き出している印象だ。だがこのホイール、(個体差だとは思うが) ブレーキ面に引っ掛かりがあるのが唯一残念なポイントである。

フロントフォークの動的性能はかなり高い。ダンシングでわざと左右にこじっても、横方向の荷重をしっかりと受け止めてくれ、あやふやなたわみは見せない。かといって嫌な硬さもない。ダンシングの気持ちよさはここからもきているのだろう。高速から一気に減速すればブレード先端が若干たわみはするものの、それによる不安はさほど感じられない。
その踏み味同様、ハンドリングにも独特の手癖がある。低速での挙動は一言で言えばクイックで、最初は戸惑ってしまう。しかし一度慣れてしまえば高速コーナーでも不安を感じることはなく、直進安定性も決して悪くない。シッティングのままでガツンと踏み込んだときやダンシングで急加速を試みたときに、ヘッド〜フォークの不自然な動きが鼻につくこともあったが、数百キロ走った後では全く気にならなくなった。RC8の振る舞いには、走れば走るほどにカラダに馴染んでくるようなテイストがあり、BLUEというブランドにどうしても纏わり付く 「新興メーカー」 「アメリカン」 という偏見を喚起しそうな言葉から想像されがちな大味さはほとんど感じられない。



さて、せっかくこんなにも美しいバイクを借りたのだ、最後に再びフレームの表層に目を向けてみてもいいだろう。走りこそが大切だ、と書いたが、もちろん見た目も重要である。毎日乗る自分の愛車、カッコイイ方がいいに決まっている。「ブスは三日で慣れる」 という慣用句があるが、もちろんあれは真っ赤な嘘だ。カッコ悪いロードバイクにはどう頑張っても愛着が湧かない。
「いいね」 という第一印象を 「欲しい!」 という衝動に変化させ、そして実際の「購入」という最終行動まで繋げるには、性能・イメージ・価格などはもちろん重要だが、ルックスも大きな役割を果たす。その点、このBLUEというブランドには大きな利点がある。誰にでも好まれそうな普遍性と、ひと目でそれと分かる個性を持ち合わせたブルーのバイクは、新しいブランドながら、カーボンフレーム百花繚乱の中にあって、決してone of themではなく、すでに独自のカラーを獲得し、独創的なる輝きを放ち始めているように思える。この日本ではまだ浸透しているとは言えず、サイクリングロードや峠やレース会場で見かけることは少ないBLUEだが、個人的にはもっと人気が出ても不思議ではないブランドだと思う。

走行性能だけを見ると充分にハイレベルで、欠点らしい欠点は見当たらない。言い換えれば、ダンシングの愉しさ以外には目立った個性は感じられず、特化した部分は少ない、ということだ (この価格帯のバイクは高価格帯モデルに比べて劣るポイントがあって当然である。「欠点らしい欠点はないが個性もない」 というのはネガティブな褒め方のようであるが、実のところ、この価格を考えればポジティブに賞賛するべきことなのだが)。
しかし400kmの試乗の後に、創業7年目の新興ブランドということを意識せずとも、いい意味で新しく、歓迎すべき異質さを持ったバイクだという印象が強く残ったのは、表層に独特の “青” を抱いて走ったから、ライディング中の視界下方に常に独特の柔和なブルーがあったから、果たしてそれが理由だろうか。それだけが原因だろうか。
その走りに、当然ながら熟成され尽くした感はない。乗り手を耽溺させるような魔力もまだ手に入れてはいないだろう。しかし巷にありふれた “ただ走るだけ” の無気力なロードバイクでは決してない、と僕は強調したい。
そこそこよくできたバイク、上手くしかし小さくまとまったバイクなんてそこらにたくさん転がっている。そんな中、多少確信犯的ではあるかもしれないが、BLUEは (走りにおいて、というよりその存在において) 自分というものを、スマートなやり方で強くアピールしている。フロリダやヨーロッパの美景の中でなくとも、即ち陰鬱な雨が降ったりもするこの日本にあっても、カラーリング以外の何かからも滲み出る “blue-ness” というものがすでに実在している、と感じさせるのである。
僕はまだ、その 「カラーリング以外の何か」 が一体何なのか、その “blue-ness” とは具体的にどういうものなのかを言い表す的確な表現を持たない。それでも無理矢理言葉にしてみれば、「可聴音域を越えた振動が音楽に厚みと深みを与える」 ような曖昧なことなのかもしれないが、それは確かにそこにある、と感じるし、そんな内なる場所にこそ、BLUE RC8が存在する意味というものを、僕ははっきりと見出すことができるのだ。
