
今季、男子ゴルフツアーで主役級の活躍が期待される選手の一人が26歳の清水大成だ。昨季のトップ10入りは2度の2位を含む9回。賞金ランキングは8位に入った。
そして初メジャーも経験。日本での最終予選会を突破し出場した全米オープンでは、カットラインまで1打足りず予選落ちとなったが、着実に成長していることを感じさせるプレーを見せた。
清水の昨季のバーディ率は4.611で、2位に約0.2の差をつけて1位。ドライビングディスタンスが300ヤードを超え7位と、飛距離が高いバーディ率につながっているが、清水の最大の長所はパットだ。パーオンホールの平均パット数も、1ラウンドあたりの平均パット数も1位だった。
なぜパットの精度が高いのだろうか。清水のパットを見ると「強気」と「グリップ」、2つのポイントが浮上する。
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■歴代最高の平均パット数
まずスタッツの詳細を振り返りたい。清水が昨季記録した、パーオンホールの平均パット数1.6884は、歴代最高の記録。
パーオン率は67位と高くないものの、それを補って余りあるパットの精度を見せたことで、バーディ率1位になった。
さらに、1ラウンドあたりの平均パット数も1位。これは、グリーンを狙うショットでグリーンをとらえることができなくても、アプローチショット後の短いしびれる距離のパットを、高い確率で沈めているということ。
‟グリーンに乗ればどこからでも1パット”そんな印象を与えそうなパットを見せていたのが昨季の清水である。
■強気のパット
清水は強気のパットをする。昨季のカシオワールドオープンで優勝を争っていた中での最終日の18番ホール。ロングパットが残り、2パットでプレーオフという状況だった。
そして清水のファーストパットは3メートル程オーバー。返しのパットが決まらず、初優勝はお預けとなったが、このファーストパットには清水のパットに対するマインドが表れていた。
試合後、清水は18番ホールのファーストパットについて「ジャストタッチを狙ってショートするよりも、オーバーさせて返しのパットのラインを見れた方が2パットでいけると感じた」と語った。
これは「イメージ通りの強さで狙った方向に打つことはできるから、ラインさえわかれば入る」という自信があるということ。
歴代のパットの名手は、ロングパットもショートパットも強気でストロークする傾向にあるが、清水もパットの名手になり得るものを持ちあわせているようだ。
■ベースボールグリップ
清水のグリップはベースボールグリップ。同じグリップを採用している通算3勝の時松源蔵が指導を受けていた篠塚武久氏に、小学生時代から指導を受けていたことで、このグリップになったようだ。
多くの選手は、パットとショットのグリップを異なるものにしている。例えば、ショットは右小指を左人差し指と絡めるインターロッキングで、パットは左人差し指を右指に乗せる逆オーバーラッピンググリップ、といった具合だ。
しかし清水はショットもパットもベースボールグリップ(※)。
ショットとパットを同じグリップにする利点の一つとして、‟ショットのフィーリングでパットできる”という点があげられるが、これを清水は生かせているのかもしれない。
また、ベースボールグリップは、特にショット時にグリップ圧が強まりすぎることを防ぐ。トップからの切り返しで、左手親指の力を使い過ぎずに済むため、手首を柔らかく使いやすくなる。スイングやストローク中にグリップ圧が強まらず、手とクラブヘッドの動きに時間差が生まれることに馴染んでいることが、高い水準のパットのスタッツにつながっているのだろう。
‟飛距離が出る方ではあるがパットが武器”である清水は米ツアー志向。日本ツアー未勝利、というと、時期尚早と感じるかもしれないが、清水は米ツアー挑戦に値するポテンシャルを持っている。
今季は初優勝にとどまらず、賞金王争い、米ツアー予選会挑戦、来季米ツアー挑戦権獲得、というように一気にステージを駆け上がるシーズンになっても不思議ではない。
(※)グリップは変更する可能性がある。パットのグリップはショットのグリップと違い、短期間でグリップを変更するケースが多いため、清水のパッティンググリップがベースボールグリップから変更される可能性がある。
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著者プロフィール
野洲明●ゴルフ活動家
各種スポーツメディアに寄稿、ゴルフ情報サイトも運営する。より深くプロゴルフを楽しむためのデータを活用した記事、多くのゴルファーを見てきた経験や科学的根拠をもとにした論理的なハウツー系記事などを中心に執筆。ゴルフリテラシーを高める情報を発信している。ラジオドラマ脚本執筆歴もあり。