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NFL入りを目指し昨年、所属の日本体育大学相撲部での活動を休止した元「アマチュア横綱」・花田秀虎の米NCAA1部・コロラド州立大学への進学が18日の記者会見で発表された。
日本人初のNFL選手となるべく、以前よりアメリカの大学へ行くことは口にしていた花田だが、晴れて行き先が決まった。
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■公式試合の出場ないまま留学へ
相撲で将来を嘱望されたところからのアメフト転身もさることながら、今回の本場アメリカの大学進学も驚きだ。というのも、守備の最前線で相手の攻撃ラインとの攻防から司令塔のクォーターバックにプレッシャーをかけたり、ランニングバックの突進を止める守備タックルとしてプレーする花田は、同競技でいまだ1試合も公式試合での出場がないからだ。
1月に国立競技場で行われたXリーグ(日本社会人リーグ)選抜と米アイビーリーグ選抜による「Japan U.S. Dream Bowl」に前者代表で選出された花田は、合宿には参加したものの本番の試合では出番がなかった。
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サイドラインで試合を見守る花田(左から2人目) @Japan U.S. Dream Bowl(国立、1月) 撮影:永塚和志
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の攻撃ラインマン・庄島辰尭や現在シラキュース大のラインバッカー・菅野洋佑などが米1部所属大学のフットボール部に所属しているが、彼らと比べても極端に競技経験が少なく、試合出場が未経験だという点で花田は一線を画している。
■カナダ・リーグでのプレーがきかっけに
そんな花田という異質の存在にアメリカの大学が視線を向ける機会があった。それは3月に行われたCFL(カナディアン・フットボール・リーグ。世界第2位のプロフットボールリーグ)のコンバインに参加した時の彼の相手選手を圧倒するパフォーマンス動画が日本社会人・Xリーグのツイッターで拡散され、それをCFLがリツイートする形で英語圏でも広まった。花田によれば、これが大きかったという。
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花田秀虎(右) @Japan U.S. Dream Bowl(国立、1月) 撮影:永塚和志
結果、コロラド州立大以外では全米優勝を果たしたこともある名門・テキサス大やハワイ大からも連絡が入り、同じく全米で頂点に立ったことのある強豪・オハイオ州立大からも関心を持たれた。その中で「ディフェンスラインのコーチが僕を育ててくれるんじゃないかという、すごく熱が伝わってきて、そこで学んでNFLを目指したい」(花田)と思い、コロラド州立大に決めた。また、テキサス大というよりレベルと競争の激しい中でもまれる中でポジションを手にすることも考えたが、「まずはしっかりファンダメンタルを学んで、試合にたくさん出て経験を積みたい」(同)と冷静に考えた末の決断でもあった。
コロラド州立大は同州フォートコリンズというロッキー山脈のふもと、標高約1500mに位置する人口約17万人の中規模都市にキャンパスを置く。
同大フットボール部の愛称は「Rams(ラムズ)」でマウンテン・ウエスト・カンファレンスに所属し、昨シーズンは3勝9敗の成績だった。同大のヘッドコーチは元NFL選手で昨シーズン就任のジェイ・ノベル氏だ。出身選手にはNFLピッツバーグ・スティーラーズの元ラインバッカーで4度のプロボウル(NFLオールスター戦)に選出の名選手、ジョーイ・ポーターがいる。
競技経験の少なさをまったく負い目に感じていない。コロラド州立大のコーチからは、それは「むしろメリット。しっかり仕込んで即戦力として使いたい」(花田)とすら言われている。それに、アマチュア相撲の世界で頂点を勝ち取った肉体と技量もある。
たとえば、相撲の「おっつけ」。アメフトでは相手の攻撃ライン選手は守備ライン選手の突進を腕を突っ張って止めるのが普通だが、その突っ張った腕をおっつけの技術でさばくといった転用ができる。
「おっつけをしたらめちゃくちゃ楽なんですよね。そういった前さばきとか独特の相撲のセンスっていうのはアメフトにはないと思うので、そこは結構、いけるかなと思います」(花田)
コロラド州立大には3年生として編入する形となる。アメリカの大学スポーツには「レッドシャツ」という試合には出られない代わりに練習には参加ができ、かつそのシーズンが競技年数にカウントされない制度があり、花田はこれを使う可能性もある。その場合にはレッドシャツで今秋の23年シーズンを過ごし、その後、24年、25年と最大2シーズン大学でプレーすることができる。だが、レッドシャツとなるかどうかは現時点では決まっていない。
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18日記者会見を開いた花田秀虎 撮影:永塚和志
花田はまた、同大にはウォークオン(奨学金なし)で進学する。これは彼が入学の申請をした時期にはすでに同大フットボール部のスカラシップ(奨学金)枠が埋まってしまっていた事情もあった。が、いずれはスカラシップを取りに行きたいと意気込む。
一時は、アメフトと相撲を両立し、NFL入りとその後の角界入りの達成を目標としていた。しかし、今はいまだ出たことのない日本人NFL選手となるべく、頭はフットボールにしか向いていない。
「NFLで活躍するのを考えると油の乗った20歳から23、4歳くらいじゃないと狙えないし、26歳とかになったらもうベテランの世界なので、そこは現実的に考えて今、挑戦するしかないというのも理由の一つです」(花田)
■「相撲をバックボーンとしてやってきた自信」
一方で、自身の土台を作ってくれた相撲に対して「恩返しをしたい」気持ちも強く、それをNFL入りという形で成し遂げたいと言う。
「相撲をバックボーンとしてやってきたのは自信になります。日本の『国技』相撲がアメリカの『国技』アメフトにどこまで通用するのか。日本を背負ってじゃないですけが、そういう覚悟をもって挑戦したいです」(花田)
花田がNFLへ行くには、ドラフトにかかるかトレーニングキャンプへの招待からドラフト外としての契約、また北米以外の選手獲得を目的としたNFLのIPP(インターナショナル・プレイヤー・パスウェイ)プログラムを経てといった手段がある。
2020年、全日本相撲選手権を大学1年生としては1984年の故・九嶋啓太(元前頭・久島海)以来、36年ぶりに制した花田は、アメフトに挑戦すべく2022年3月、Xリーグのトライアウトに参加。同年夏に日体大相撲部での活動を休止し、Xリーグの富士通フロンティアーズや東京大学、法政大学等の練習に参加してきた。また、元プロアメフト選手の河口正史氏や栗原崇氏らの個人トレーニング指導も受けている。
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Japan U.S. Dream Bowlへ向けての公開練習での花田 川崎市内にて、1月 撮影:永塚和志
アメリカの大学へ進学する花田だが、日体大のほうも将来的には卒業をしたいという旨を述べている。
先述のCFLコンバインで花田は各種の数値測定にも臨んでいるが、ベンチプレス(102kgを何回上げたかで競う)では全86名の参加者で3位となる26回を記録するなどそのポテンシャルの大きさを示している。
相撲の、円形の土俵から、広大な「グリッドアイロン」(焼き網、ひかれた白線の数々によって網のように見えるためそう比喩的に表現される)の上で行われるアメフトの世界へ戦いの舞台を本格的に移す花田。
憧れでありお手本は、NFL最優秀守備選手賞3度受賞でスーパーボウル制覇も達成している同じポジションのアーロン・ドナルド(セントルイス・ラムズ)だ。日本アメフト界史上最高の逸材の挑戦から目が離せない。
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著者プロフィール
永塚和志●スポーツライター
元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。